自然の姿を残す『まごめ植物園』


 まごめ自然植物園は海抜600mの丘陵にあるので、厳密には丘陵帯よりやや上に位する。しかし暖帯植物の多い平で、面積の半分は湿地となっているので湿生植物も多い。

 ここは植物地理学上、前川文夫博士の「美濃・三河地域」に含まれ、その重要な要素であるハナノキヒトツバタゴが自生している。岩石が多く湿地も広く、利用価値の少ない所だったので自然の姿が残り、そのまま自然植物園としたのである。

 ここでみられる暖帯植物の主なものを挙げれば、樹木ではサクラバハンノキ、ヘビノボラズ、カナクギノキ、シロモジ、ヤマザクラ、ウメモドキ、コバノミツバツツジ、クロミノニシゴリ、コムラサキ、サルトリイバラなど、草本ではベニシダ、サギソウ、サワシロギク、スイランその他で計30種が数えられる。

湿生植物にはミカズキグサ、イヌノハナヒゲ類、ミミカキグサが多く、キセルアザミ、カキランもあり、珍しいアオバオモトギボシも加え38種を数えることができる。

 この丘陵帯には、落葉広葉樹(夏緑広葉樹)の林も広がっている。その樹種はコナラ、クリ、ケヤキ、アカシヤ、イロハカエデ、オニイタヤ、シロモジその他多種で、ネムノキ、カナクギノキ、エドヒガシ、ヤマザクラも含まれる。林内には、ミツバツツジ、コバノミツバツツジもあって、春の目の覚めるような色とりどりの芽吹きに一層の美をそえる。

 これが秋ともなれぱ、それぞれの色に変わって落葉し初冬を迎える,そのころは、それまで余り目のつかなかった大きな房のイイギリの実が赤く熟して目立つ。

{(木曽の植物)奥原弘人著より}

まごめ自然植物園の植物

調査者

長野県植物誌編集委員長

  奥 原 弘 人

 近年数回にわたって園内の植物調査を行った結果、この植物相が極めて特徴的で貴重な地域であることを知った。次にその内容を列記する。

1、 2haと言う狭い面積であり乎坦で単調な地形でありながら植物の種類が多い。

双子葉植物 

197

離弁花類 

119

合弁花類 

78

      

2、 暖地性植物が多い. (29種)                   

番号 和名 科名 開花予定  レッドデーター
カタヒパ ヒノキ科
 
ベ二シダ  オシダ科
 
オオベニシダ オシダ科
 
ヤワラシダ ヒメシダ科
 
イヌガヤ イヌガヤ科 3〜4月  
スルガテンナンショウ  サトイモ科 4〜6月  
サルトリイパラ ユリ科 4〜5月  
サギソウ ラン科 8月 CR:VU
サクラパハンノキ  カパノキ科 3〜4月 CR:NT
10 アペマキ  プナ科 5月  
11 ヘビノポラズ メギ科 5〜6月 EN
12 カナクギノキ クスノキ科 4〜5月  
13 シロモジ  クスノキ科 4月  
14 コアジサイ  ユキノシタ科 6〜7月  
15 ヤマザクラ  パラ科 4月  
16 シラキ  トウダイグサ科  6月  
17 ウメモドキ  モチノキ科 6月  
18 アマヅル(オトコプドウ) プドウ科
EN
19 アセビ ツツジ科 4〜5月  
20 コパノミツパツツジ ツツジ科 4〜5月  
21 ハルリンドウ  リンドウ科 4〜5月  
22 コムラサキ(コシキブ) クマツヅラ科 7〜8月   
23 クロミノニシゴリ (ニシゴリ) ハイノキ科 5〜6月 EN
24 シラゲヒメジソ (ヒカゲヒメジ) シソ科 8〜9月  
25 アキチョウジ シソ科 8〜10月  
26 ヒトツパタゴ モクセイ科  5〜6月 CR:VU
27 サワシロギク キク科 8〜9月  EN
28 スイラン キク科 10〜11月 EN
29 スズカアザミ  キク科 9〜10月  
30 ハナノキ カエデ科 4月 VU:VU

3、  湿生植物が多い。    (37種)

番号 和名 科名 開花予定  レッドデーター
オオミズゴケ  コケ植物(蘚類) 夏飽子か熟す  
ヌマガヤ   イネ科  8〜10月   
ゴウソ カヤツリグサ科 5〜6月  
ミヤマシラスゲ カヤツリグザ科  5〜7月  
ヤチカワズスゲ  カヤツリグサ科    
ヒメクグ カヤツリグサ科 7〜10月  
ミカズキグサ カヤツリグサ科 7〜1 0月  
ホタルイ  カヤツリグサ科 7〜10月  
アプラガヤ  カヤツリグサ科 8〜10月  
10 コシンジュガヤ  カヤツリグサ科 7〜 1 0月 VU
11 イトイヌノヒゲ(コイヌノヒゲ) ホシグサ科 8〜9月  
12 ノハナショウプ  アヤメ科 6〜7月  
13 アオパオモトギポウシ ユリ科 8〜9月  
14 コバノトンボソウ ラン科  6〜8月 NT
15 ミゾソパ タデ科 8〜10月  
16 オオミゾソバ(ヤマミヅソバ) タデ科 8〜10月  
17 ヘビノポラズ  メギ科  5〜6月 EN
18 モウセンゴケ  モウセンゴケ科 6〜8月  
19 チダケサシ  ユキノシタ科 7〜8月  
20 イソノキ クロウメモドキ科 6〜7月  
21 ミヤマウメモドキ モチノキ科 6月  
22 コケオトギリ   オトギリソウ科 6〜9月  
23 ヌマトラノオ  サクラソウ科  7〜8月  
24 ヒメシロネ  シソ科 8〜10月  
25 ミミカキグサ   タヌキモ科 8〜10月 VU
26 タヌキモ   タヌキモ科 7〜9月  
27 ムラサキミミカキグサ タヌキモ科 8〜9月 VU:VU
28 サワギキョウ キキヨウ科 8〜9月  
29 ミヤコアザミ キク科 8〜10月  
30 サワヒヨドリ  キク科 8〜10月  
31 ミツパサワヒヨドリ  キク科 8〜9月  
32 サワシロギク   キク科 8〜9月 EN
33 スイラン キク科 10〜11月 EN
34 サワラン (アサヒラン)  ラン科 7月  CR
35 カキラン ラン科 6〜7月 NT
36 サギソウ    ラン科  7〜8月 CR:VU
37 イ   イグサ科 6〜9月  
38        
         

 

4、  植物地理学上、東京大学名誉教授前川文夫博士の設定した、美濃三河地区に含まれる、ハナノキ・ヒトツバタゴが分布する.

5、  県内の他では見られないもの、または確認されていないものが分布している。

番号 和名 科名 開花予定  レッドデーター
クロミノニシゴリ ハイノキ科 5〜6月  
ヒトツパタゴ   モクセイ科 5〜6月  
サワシロギク   キク科 7〜8月  
コムラサキ  クマツヅラ科 7〜8月  
サクラパハンノキ カパノキ科 3〜4月  
       

 

6、 主に裏日本の温帯に分布するミヤマウメモドキが暖帯のウメモドキと混生している。

7、  ウリカエデとハナノキとの雑種とみられるものが発見された。

8、  食虫植物の種類も多い。

番号 和名 科名 開花予定  レッドデーター
タヌキモ タヌキモ科 夏〜秋  
ムラサキミミカキグサ タヌキモ科 8〜10月  
ミミカキグサ  タヌキモ科 8〜10月  
モウセンゴケ  モウセンゴケ科  
       

 

9、  林内は小数の針葉樹を含む温帯性落葉樹林で高木層、亜高木層、低木層、草木層、 コケ層の五層殻構成され特に低木層が豊富である。

10、熱帯性昆虫(ハッチョウトンボ) が棲息している。