【第二楽章】
case of
‐無憂宮の夢遊姫‐

天には栄光、地に平安
優しきもの
美(うま)しもの
穏やかなるもの
愛すべきもの
世は幸ひに満ち充ちて
緑なす木々の間に 風は清しき調べとなり
満開の花を薫(くゆ)らせる
泉に浄き水の湧き出づる
そを汲まば、蜜となり美酒となり
憂き世の愁ひも長閑(のど)に消ゆ
かの都(くに)こそ楽園なりと人は伝へり
祝福の苑の奥深く
迷ひ込みたる旅人に誰何の声あり
「賤しきうつつの衣ぞ纏ひて
足を踏み入れたるは誰ぞ
此より先は我らが姫君の寝所ゆゑ、
疾く、疾く失せ給へ
嗚呼、粛かに! 粛かに!
何人たりとも、その眠りを妨げてはならぬ
全ては、彼女(かのひと)の夢の内なれば……」

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