第十章 心の間 〜I'm home〜

流れた時間は戻らない…でも誰もが砂時計を返すように時間を戻したいと思うだろう。
…今の流はその塊だった。全ての時間が止まったようにその場に立ち尽くす流と…捺輝。そっと捺輝が言葉を洩らす。
「昴は…解き放ってくれたんだ…宿命から…そうだろう流…自分を犠牲にしてまで…閉ざされた間はもう開くことはないだろう…だけど…」
捺輝の声がだんだんと荒くなっていく。
「本当にこれでよかったのか?誰かが…誰かが犠牲になら…なきゃいけなかったのか…違うんだよ…犠牲者なんかいらなかったんだ、宿命を解放しなくたってよかったんだ…昴の最後の呪文…どうして止められなかったんだろう…」
続く沈黙…静まり返る場所に流は言葉を残した…生気のない目で…昴を失った悲しみを広げるかのように。
「…呪われた言葉…呪われた呪文…すべては宿命を留めるだけにすぎなかった…誰でもよかったんだ…’理’’布’’宇’’力’に選ばれるのは…だけど…俺達が選ばれた…それは…それは単に俺達が歯車にはまっちまったんだ、運命って言う歯車に…だけど…あまりにも酷すぎるじゃねえか…こんなの…」
言葉が詰まる…膝をついて自分の無力さに腹が立ち目に涙が溢れる…地面を叩き、悲しみ、怒り、悔しさをぶつける。
でも、込み上げてくるものは抑えきれずにいた、そして只…時間だけが空しく過ぎていく。

――――――今になって甦る…ふと捺輝が思いだす…青の間で抱いた疑問…もしこれが見つかれば昴は目を醒ますかもしれない、捺輝はそのときそう思った。
すばるが眠て(きえて)壊れた流、宿命が解かれて目醒めた洸吾、捺輝は何かを見つけるため洸吾に流を頼み見つからない何かを探し初めた。
力はもう無い、けど見つけることはできる…前の捺輝には到底無理だったことが今では簡単にできる…改めて昴の大きさを捺気は感じた…

捺輝が歩き始めてどれくらいだろう、もう無いはずの力が捺輝をある場所へと招き寄せたそこは前に緑の間があった場所だった。
…懐かしく感じたその場所は沢山の緑に覆われて風が優しく吹く…その場に横になると大地の鼓動が聞こえてくるような気がする。
「青の間と…同じ感じだ…」
思いが詰まる、沈黙に只、風が吹く、そのとき微かだがはっきりと声が聞こえた…緑の間の主、アルテミスの声が…
「捺輝君、聴コエル?昴サンタチノ所ニ戻ッテ…奇跡ハ必ヅ起キルカラ…」
その声に捺輝は戸惑っ…た……
「アルテミス…どうして、俺は力を失ったはず…でもあの声は…」
捺輝は立ち上がり急いで昴たちの場所に戻った、アルテミス(の声)を信じて……これからの奇跡を知らずに…。

―――昴が横たわる場所は病院、そこには流と洸吾しかおらず、両親はいない…洸吾はそのことを聴きたかったが壊れている流にそれを聴く勇気がなかった。
そんなおり、捺輝がそこに現れた、息を切らし落ち着かない様子で、
「すば…昴に変わりないか?」
捺輝が洸吾に問う。
「あっ、あぁ…どうしたんだ捺輝、」
洸吾はいつもと違う捺輝に戸惑っていた。
「いや…やっぱ空耳だったのかなぁ、アルテミスの声…」
捺輝は頭をかしげて洸吾を見ると洸吾はびっくりした顔をしていた。
「どうした?洸吾」
「俺もさっき…なんだかよくわかんねぇけどヴィーナスの声が聞こえたような…」
二人は昴と流の方に目をやった、二人に変わりはなく昴は只昏々と眠り続けていた。
「主達は間と共に封印完了したはずだ、それに俺達にはもうその力も無いはず…なら、あの声は?」
二人が疑問を抱いたとき捺輝は昴の呪文を思いだした…これがすべての鍵を握る…。
「昴のあの呪文…たしか…」
捺輝が頭を抱えた…
「だめだ…どうしても思い出せない」
昴のあの呪文から記憶が曖昧になっている自分に気が付いた、
「封印解放の…呪文だよ…」
急に声がした涙声の…声の主は流だった。
「昴の呪文は…封印解放の…呪文…だ。宿…命から…解放されると同時に…力を全て失う……そして…今までに封じた間はすべて、解放される…生まれ変わって…だが…そのかわりにその呪文を解いたものは深い眠りにつく、決して起きない眠りに」
ベッドに横たわる昴に流は相変わらず声をかける、起きないことをわかっていながらのその行動に二人の動きが完全に止まった。
「…たじゃねぇか……約束したじゃねぇか…離れないって…そばにいてくれるって…こんなんだったら、宿命に縛られてたほうが…よかっ……」
流が崩れ落ちた…自分の無力さに自分自身を見失った流に、もはや二人の言葉は届かない…そして、その悲しみを知ってる二人も声をかけられないままだった。そのとき、 「泣カナイデ、流」
たしかに耳元で声がした、
「ソンナニ泣カナイデ、私タチハ昴ヲ救ウタメニ来タノダカラ」
声の主はヴィーナスだった、
「昴を……救う?」
流が顔をあげた、すると今までに封じたはずの間の主達の姿があった。
「なん…でだ、俺達が封じたはずじゃ……」
捺輝と洸吾が同時に問う。
「昴ノ呪文ニヨッテ我ラハ解放サレタ…ダカラ今度ハ我ラガ昴ヲ救ウ」
そう言ったのはハーデスだった。思わず警戒してしまう捺輝と洸吾
「ソウ警戒シナクテモイイ、信用ナイノモ無理ナイガ。昴ノオカゲデ私ハ救ワレタ、私ダケジャナイ、ダカラ皆、ココニイル
ハーデスが言うと流を捺輝と洸吾に託し主達は均一な幅をとり昴を囲んだ。そして、一人ひとりが言の葉を茂らす。
「我ラ彼ノ者ヲ起コスタメ、スベテノ力ヲ彼ノ者ニ与エル………出逢イノ’白’ヨ」
「初マリノ’黄’ヨ」
「’力’ノ’橙’ヨ」
「記憶ノ ’紅’ヨ」
その声と共に間を封じるときに消したはずのカギが昴の上に、一つ、また一つと現れる。
「’理’ノ’赤’ヨ」
そしてそれが増えるたびに円を描きくるくると廻る。
「’宇’ノ’緑’ヨ」
「転生ノ ’紫’ヨ」
ハーデスが歩み寄る、最後はサターンに委ねられた。
「お前はここで終われないはずだ、約束したんだからな」
微笑を浮かべてとく言葉は1つ。
「約束ノ …’黒’ヨ」
…黒のカギが現れたとき、間の主全員でさらに言の葉を茂らす。
「ソシテ……’布’ノ’青’ヨ」
その言葉と共に昴の胸の辺りから小さな青い透き通ったカギが空を舞った。そしてそれは輪に加わり円を描く。
「我ラノ願イヲ聞キイレ、眠リシ者ノ心ノ扉ヲ開キ目醒メヲ導ケ…我ラガ最後ニカケル呪文ヨ…彼ノ者ニ届ケ…’目醒我心開’」
言葉はカギに届きそして弾け飛び散る、キラキラと散るその光りに昴は包まれた。言葉を失うほど綺麗でそこから止まっていた時間が動きだした。
「貴方タチト出逢エテヨカッタ…私タチヲ解放シテクレタモノ」
アルテミスが軽く笑みをこぼしそして次第に主たちの姿が薄れその場から消えた。

その出来事があってどのくらい経っただろう、流はいつのまにか眠っていた…手を握ったまま…だが急に流が目を覚ました。
「すば…昴?」
手を握られた感触があった、そして…
「りゅ…う?」
昴がゆっくりと目を開けた…目が…醒めた。
「流?…なん…で?……私」
昴が流に問いをかけたが流も放心状態だった。
「目が醒めた…昴の…」
「なんで…宿命を解く代わりに…」
昴の声に耳もかさず流は昴に抱きついた。
「もう、いいじゃねぇか…お前の目が醒めてくれた…それだけだ、それじゃだめなんて、誰かが言うわけじゃない…そうだろぅ、…昴」
流は込み上げてくるものを必死で我慢していた。
「おかえり…昴」
全てがわかったように昴は軽く微笑み流に優しく呟いた。
「ただいま……」


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