RooM番外編
最期の戦いから暫く後の出来事

Is it good even if it believes?

「時間、大丈夫?」
喫茶店でお茶を飲んでいるが、時計を見ながら昴が声をかけた。
「大丈夫だろう。最初から観たいか?」
「あたし行ったことないもん」
「なら行くか?」
洸吾の言葉に暫し考える昴。そして、ポン、と手を叩く。
「花束買ってこう」
「花束ぁ?」
そ。と軽く微笑み昴が席を立つ。
慌てて洸吾も立ち上がり、昴の手にある伝票を奪う。
「俺が払うよ」
「え、いいのに」
昴の声を聴こえない振りをしてさっさと支払いを終えると、二人は外へ出た。
「いくらだった?」
「気にするな。花束買うんだろう?」
「うん」
でもぉ、と昴は言うが、なんなく丸め込まれてしまったもよう。

所変わって、ライヴハウスの控え室。 「捺輝ぃ、ちゃんと準備できてるの?」
「鶫 。お前騒がしすぎ」
ギターの調整をしている最中にいきなり声をかけてきた仲間に冷静に突っ込む。
「なによ。いっつも準備遅いんだから忠告してるのに」
「ご忠告感謝しますよ。ったく、あとこの調整だけだよ、うるせぇな」
「おぉ、めずらしぃな。なんかあんのか?」
にやにやとやじを入れたのはまたも仲間の一人、純平。捺輝はこの2人とバンドを組んでるのだ。
「ちょっとな」
いつもは過剰反応を示す捺輝があっさりと認めるので純平は少し拍子抜け。
「な、いつもと反応違うじゃんかよ」
「そういつもいつも同じ手に引っかからねぇよ」
なんでぇ、つまんねぇの。と、自分のベースをいじり始めた。
「んで、誰が来るの?」
ひとり冷静な鶫が捺輝を問いただす。
「ん?洸吾…」
「洸吾?洸吾が来るからなの?」
鶫も純平も洸吾のことは知っている。捺輝が何度かここに連れてきているのだ。
「と、その彼女」
「……えっ〜〜!!」
二人同時の叫びだった。
「んなびっくりすることか?」
予想以上の反応に捺輝はたじろぐ。
「だって洸吾でしょう?」
「あれに彼女ができるんだなぁ」
「悪かったな。あれで」
「うわぁっ、洸吾!!」
突然真後ろに現れた噂の人物に二人は驚く。
「よう、早かったな」
捺輝はいたって普通である。
「あぁ、昴がライヴハウス行ったことないっているからな」
「やっほ〜、捺輝君」
ヒョコッ、手をひらひらとふって、昴が洸吾の後ろから顔を出す。洸吾がでかくて見えなかったらしい。
「よぅ、昴。そっか、来たことないんだな、こういうところ」
「うん。ほら、私あんまり出かけられないし」
「出かけられないって、そんなにお嬢様なの??」
面白い突込みをしたのは鶫。真顔でそんなことを言うのだから、昴と洸吾と捺輝は大笑い。
「違いますよ。ちょっとした仕事がありまして…あ、初めまして、彗星昴といいます」
忘れていた挨拶を済ます。
「あ、私は紬屋 鶫っていうの。このバンドのキーボードやってるんだ、よろしく〜」
鶫でいいよ〜。と手を差し出し、昴も応じる。
「って、それなんだ?」
捺輝が昴の手にある花束に気づいた。
「あ、これ?はい、捺輝君に」
「俺に?」
「あぁ、どうしても渡すって聞かないんだよ」
呆れ声で洸吾が捺輝に言う。
「いや、違くて…」
なんていうか、と言って頭を掻く捺輝を軽く小突く鶫。
「大丈夫よ、照れてるだけなんだから」
ねぇ、捺輝。と、鶫がからかう。
うっせぇよ。と顔を赤くして照れ隠しする。
「って、そういえば、何でさっきから黙ってるんだ?純平」
話の矛先を別の方向にしたくて、黙っている純平に声をかける。
「え、あ、いやぁ、洸吾の彼女が可愛くて、ちょっと驚いてんだ」
捺輝の声に我に帰った純平が純平が素直にそういう。
「俺、砂原純平。このバンドのベースとたまにボーカルやってんだ。よろしく」
と、手を出してきたので、昴は応対しようとしたところを洸吾に阻止された。
「洸吾?」
「な〜んだよ、やきもちかぁ?」
ふざけ半分の純平の声に洸吾は真顔で肯定した。
「ちょっ、何言ってんの洸吾」
真っ赤になって昴が講義する。
あ〜いかわらずだなぁ。と捺輝が面白半分で眺めている。
いつもあんな感じなの?と、鶫。そうだ。と、捺輝が言う。
「もう、高みの見物やめて止めてよ、捺輝」
「いーじゃん、面白いんだから。だって、平和だなぁ、思ってよ」
しみじみと語る捺輝。それは3ヶ月前までの戦いの事を指していた。
「あ、そうだ。捺輝君に言うことがあったんだよね」
「ん、何?」
あのね、と言いかけて、鶫と純平が耳を欹ててるのに気づいた。
「お前らなぁ」
「いいじゃんいいじゃん。硬いこと言わないの」
「そうだぞ。それに、なんで俺にはこの子と絡むの赦さないくせに、捺輝だといいわけ?洸吾」
あ?と、洸吾は答える。
「そんなの決まってるだろう?捺輝には相手がいるからだ」
「な、おい洸吾!!」
真っ赤になって捺輝が慌てだす。
「事実だろう?捺輝」
ニヤニヤと洸吾が捺輝をからかう。
「相手いるの??うっわ〜、初耳。誰誰?」
鶫が洸吾に詰寄る。
「だから、昴が今言いかけただろう」
えっ、それってそうなの?と昴に問いかける。
「あ、うん。あ、え〜っと…」
昴が捺輝の耳元でそっと囁く。
(アルテミスが転生したよ)
ふっと、安心したような表情を浮かべる捺輝。
「そうか…」
「他の人たちは、ヴィーナスはアルテミスと一緒で、あとはもう少しかかるみたいだけどね」
とりあえずアルテミスは転生したよ。と捺輝に告げる。
「よかったな、転生できて…」
「あいつらも犠牲者だったんだろう?」
くすっ、と昴が笑い、そうだ。と告げる。
「間の力に囚われただけ。救われなきゃいけない魂…」
ふらっ、と昴がくらついた。
「どうした、昴」
「大丈夫か?」
洸吾と捺輝が同時に昴を支える。
「平気、平気。ちょっと視えただけ」
「視えたって?」
横から聞いてきたのは鶫。
「うん、ちょっとね」
昴の苦笑のわけは3ヶ月前までずっと培っていた能力と関係している。
昴や洸吾、捺輝や今ここにはいない昴の兄、流には霊能力が備わっていた。
そして、その能力のために今まで大変な戦いをしていたのだ。
けれど、戦いが終わったと同時に捺輝と洸吾の覚醒転生者は能力を失い、流や昴の輪廻転生者は極端に力が弱まった。
そう、弱まっただけ。力自体は少し残っている。それは長い間魂に刻まれた記憶が関係しているらしい。
「気分悪いなら休んでたほうがいいぞ。上は結構ごちゃごちゃしててたまに倒れるやついるから」
ベースをいじりながら純平が忠告する。
「そーだな。また倒れられたら流に何言われるか分かったもんじゃ…」
「俺が、どうしたって?」
扉の前に立っていたのは昴に似た青年と綺麗な女性が立っていた。
「黎さん。どうしてここに?」
「あら、昴ちゃん。流に連れてこられたのよ。でも、まぁ仲が良いわね、あなたたちは」
くすっと笑う彼女は姫谷 黎。流の彼女だ。
「ほ〜んと、妬けちゃうな。機から観ると兄妹っていうよりは恋人同士だもんね、あなたたち」
「何言ってんだよ黎」
「そーですよ」
双子は必死(?)に否定する。
「そーだな。昴には洸吾いるしな」
にやにやと捺輝が言う。
「な、もうからかわないでよ」
昴は既に真っ赤である。
「まぁまぁ。それだけ元気なら大丈夫じゃない?そろそろ出番だし、あたしたちも準備しなきゃね」
捺輝と純平の肩を叩いて促す。
「あ、そういえばスタンバイしてくれって言ってたぞ」
「は?流。そういうことは早く言え!!」
ばたばたと捺輝と純平が準備を始める。
「まったく、結局のところ慌てるんじゃない」
既に準備が終わっている鶫は呆れ声。
「じゃぁ俺たち上で見てるわ。とちるなよ」
洸吾の言葉におぅ。と手を振り替えし、バンド組3人は控え室を出て奥へと消えていった。
「さて、行くか」
うん。と、残された者たちは上に上がっていった。

「ねぇ、捺輝たちって人気あるの?」
適当なテーブルについている何も知らない昴に飲み物を渡す洸吾に聞いてみた。
「あぁ、一応ここらでは知られてるグループだな。まぁ、聞けば分かるよ」
意味ありげな洸吾の言葉にふーん。と納得し、飲み物に手を付ける。
「ん?そういえば流はどうした?」
「あぁ、流と黎さんならもっと前のほうにいるんじゃない?黎さんなんか慣れてたし」
そうか。と洸吾も昴の向かい側の席に腰掛ける。

「さて、お待ちかね。本日のトリを飾るのはお馴染み、cross road.新曲は既に発売中だ!!もうGetしたかな?」
DJの合図とともに登場したのは捺輝たちだ。
会場に駆けつけたファンたちの絶叫が耳につく。
「すごいね」
呆れとも取れる昴の感想。
「ま、こんなもんだ。メジャーバンドと違って客と役者が近いからな、その分ファンも入りやすい」
ふーん。と舞台上の捺輝を見る。
そこには昴が知らない捺輝がいた。

【♪Children can live peacefully.
What does that it can become such the world have?
I can only merely do singing.
However, if it is you, what is carried out?
Which can hold out and save the hand.
Although it is the same living thing, I will think in that of like this why.
Environment?
Fate?
Chance?
Fate is cruel and cannot be carried out what, either.
However, if it can know from now on, I will want you to know.
I want you to know about those who are alive in the cruel environment.
I will sing a song forever only for it.
I will sing a song so that it may arrive all over the world.♪】

「あれが捺輝…君?」
「そうだ。これはあいつの十八番だな。お前に聞かせたかったんだろう」
よかったな。と洸吾言う。
昴は捺輝の歌声に聞き入っていた。
時間の流れすら感じなくなる。
どのくらい経つのだろうか?

「では、最後の曲です。今日初めて歌う曲。聞いて下さい。Artemis」

【♪When fate had to be accepted, I became that it is likely to escape.
You supported it, it is you and her.
I do not forget your smiling face which marked my end of oneself.
I remembers.
I remembers, while you come back.
The day which can divide pain and sadness by two persons comes.
If joy and pleasure stay as two persons, the doubling day will come.
So, since it believes, it is waiting for me.
It is waiting.
It is waiting for your thing forever.♪】

捺輝の紡いだ最後の音と同時に会場が暗転し、電気がついたときには舞台上には誰もいなかった。
「さて、控え室覗きにいくか?」
「うん。なんか感動しちゃった。失敗したなぁ、あとから花束渡せばよかった」
「あんまあいつを調子付かせるなよ」
「え〜、なんでぇ?」
「俺が困るからだ」
真顔の洸吾の台詞にきょとんとしながら昴は洸吾に手を引かれつつ控え室に向かって歩いていった。

他愛もない会話。
平和な時間。
信じられないほどのゆっくりとした時間を、昴たちは手に入れたのだ。

fin.


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