第四章 紅の間 〜記憶〜

橙の間で洸吾に力を分けた昴の霊力は明らかに下がっていた、それの影響だろうか昴は体調を崩していた。そのため、洸吾はよく昴の見舞いに訪れた。一方流は力が戻らない昴を次の間に行かせたくない、と考えていた。どうしたら昴が間に行かなくていいか考えていたくらいだった。だがそう考えた直後だっただろうか、次の間、紅の間が開いてしまった。それを感じとった4人(昴も既に感じとっていた)は流の考え虚しく間に向かった。
開かれた間を前にして4人は間の中の霊気が少ないのを感じとった。
「なんか変な感じだ、黄の間や橙の間より霊気が少なく感じる、なんでだ?」
洸吾の意見はもっともだったが昴は何かを感じとっていた。
「霊気は少ないけど何か嫌な感じがする、紅の間の主(アレス)が変なこと考えてなければいいけど」
不安に包まれている昴を見て流は口を開いた。
「昴、お前やっぱりくるな、霊力もまだ戻ってないようだし、それじゃ…」
流の言葉がいい終わらないうちに昴が口をはさむ。
「大丈夫、確か前にもこんなことあったけどそのときも平気だったじゃない、ね」
「なら、いいけど」
だがこの昴の行動が後に予期せぬことになるとは誰が考えただろう、昴さえわかっていなかったのに…
間の奥に足を踏み入れた4人だったが、奥に進むに連れて霊力が強くなるのはわかる、だが一向に霊の姿が見えてこない、不思議な感じに包まれながらなおも奥に進む、その時昴はある1点に霊気が集中しているのを感じとり、振り返った瞬間だった。鋭い光が昴めがけて飛んできていた、急なことに昴も反応が遅れ額に命中してしまった。その衝撃と共に昴はその場に倒れこみ3人が駈け寄ったときには既に意識がなかった。そして何処からともなく声が間、全体に響く。
「立チ去レ…愚カ者タチヨ。ソレ以上足ヲ踏ミ入レルノナラバ、オ前タチニモソ奴ト同ジク、恐怖ヲ受ケルコトニナルダロウ。早ク立タ去レ」
声が終わると同じくして4人は光に包まれた、そしてその閃光が止むといつのまにか間の外へと出ていたのである。
「なんなんだ、一体。いつ間の外に出たんだよ」
動揺を隠し切れない捺輝、流も同じだったが昴のことで我に返り一度家に帰り昴を休ませる、という考えにまとまった。
家につくと流は昴を寝かせ傷の手当てを済ませ捺輝たちのもとへ戻る、そして今後のことなど話し合ってはいたが、流は昴の額の傷が気になっていた、心のどこかでアレスの真の目的は本当はあの傷にあったのではないか、と考えていた。そして間についても考えがまとまらず、結局何もできないでいた。そして昴のことを心配するだけだった。だが昴の目が冷めたとき3人には絶えられないような現実が待っている。
――――――突然ぱっと目を覚ました昴、だがその瞳に生気はなく視点が定まらないような目つきだった。…そして何かに呼ばれているかのように流が止めるのを押し切って昴は外へ出て行ってしまった。
「紅の間に行くつもりなのか?」
流は直感でそう思った、それと同時に あの身体では無理だ、ということも。だが流の声は届かず、昴はどこか(おそらく紅の間)に歩いていく。それを追って流は駆け出し途中で捺輝たちと合流し、昴のあとを追った。
………昴は間の入り口に立ちすくんでいた、まるで間に入ることを拒否しているようだったが、流が伸ばした手をすり抜けるかのように昴は間の中に足を進めた。
「あいつどうしちまったんだ?まるで操られてるみたいじゃないか」
捺輝の言葉に流は昴の額の傷を思い出した。
「もしかしたら……」
そう呟いて流は間の中を走り抜けていった。それに気付いた捺輝たちもその後を追った。
間の中に進むたび霊気が強くなっているのを流たちは感じとっていた。そんな時、間の奥に倒れている昴を見つけた、だが洸吾が近づこうとした瞬間、昴のそばに強い霊気が舞い降りた。
「………アレス」
流の言葉にアレスは流たちを見つめ軽く笑った。
「‘布’ヲ手中ニオサメタ…アトハコイツヲ使ッテオ前タチヲ潰スノミ」
軽い笑いがいつのまにか甲高い声に変わっていた。そしてアレスの言葉に流が声をあげる。
「ふざけるな!!アレス。昴は返してもらうぞ」
いつもより殺気立っている流に捺輝と洸吾さえ恐怖を感じた。
「フッ、オ前達ニ何ガデキル、既ニ‘布’ハ我ガ手ノ中。ソシテオ前タチハ‘布’ニ滅ボサレルノダ」
アレスのその言葉がまるで呪文のように昴はその場を起き上がり、流達の方を振り返った。
「……紅の目、まさ…か」
思わず流が声を出してしまった、当然だろう。振り向いた昴の目はいつもの真青な色ではなく、紅に染まっていたのだから、その目の色はその間の主の操り人となった証拠(アカシ)。
「コレデワカッタカ?今ノ‘布’ハオ前タチガ知ッテイル‘布’デハナイ。俺ノ人形ダ。オ前達ハナニモデキズ‘布’ニ滅ボサレルガイイ」
その言葉を最後にアレスの姿は消え、その代わりに昴が弓を構え捺輝めがけて放った。その矢は捺輝の肩をかすめ、間をおかずにもう1本矢が放たれた、今度は、洸吾の足を貫いた。そして今度は流のほうを向き呪文を説いた、それはいつもの昴のものではなかった。
「我ノ声ニ共鳴スル水の全精霊に説う。ソノ力ヲ我ニ与エ、共ニ融合シ、力ヲ。我、属するは水、司るは…‘布’」
呪文を唱えながら発せられた光はやがて1つの形となって昴の手に宿った。それは青く透き通った細い剣だった。
「昴……お前……」
流の声はいまや昴には届かない、それを知った流は吹っ切れたように呪文を説く、昴と同じ呪文を…
「我の声に共鳴する火の全精霊に説う。その力を我に与え、共に融合し、力を。我、属するは火、司るは…‘理’」
昴と同じく発せられる光、流が手にしたのは昴とは対照的な太く、そして血のように赤い剣だった。それを見た昴は流に向かって剣を振りかざした。1回、2回、剣が重なる度に透き通った剣の音が響きわたる。そして二人の体が接近したときに昴の口が開いた。
「流、体が言うことを聞かないんだよ、だから…」
「昴、意識はあるのか?」
「うん、まだ完全には操られてないみたいだね、だからあたしが身体を抑えてる間に、そうしないと本当に…流!!」
昴は剣の勢いを止めるために自分の腕に振りかざした。、あたりに血が飛び散り、剣は手から離れた。…その瞬間だった、アレスの出現は。
「チッ、ヤクタタズガ!!術ガ解ケタ‘布’ナドモウ要ラヌハ」
言葉と共に昴の額の傷は消え、その衝撃でふらついた昴に追い討ちをかけるように無数の光の矢が狙い撃ちされ、昴はその場に倒れこんだ。
「昴っ!!」
流が駈け寄るより早く昴の足元にアレスが舞い降りる。
「お前何のつもりだ、昴をこんな目にあわせやがって、ただで済むと思うなよ!!」
「フッ、タワケ。1人デハナニモデキナイヒヨッコガ」
アレスは昴を見てニやり、と微笑った。
「イラヌ、トハイッタガ利用シナイ手ハナイナ、コイツニハ少々役立ッテモラウトシヨウ」
そういうと昴を間の天井高く飛ばし、霊気に包まれた昴はその場で宙吊りとなった。
「アソコニ長クイレバ霊気ヲ浴び、息絶エルダロウ、ソシテ私ヲ倒セバ力ハ一気ニ解カレマッサカサマニ落チルダロウヨ」
「ふざけんな!!散々昴を弄びやがって、テメェだけは絶対許さねぇ」
「ホォ、ソレデドウスルノダ?私ヲ倒ス力モナイクセニ」
その言葉で流の目つきが変わった。
「この俺を誰だと思っている、破壊しかできない‘理’の今の姿だ!!」
流の目が流本人の持つ赤い目以上に赤さが増す。
「この俺をイカらせたこと、後悔させてやるぜ」
そういったとたん、手に宿っている剣に焔が燈りアレスを真っ二つに切り裂いた。
間に響き渡るアレスの絶叫とともに紅の間が崩れる。
「これが、破壊しかできない者の宿命さ…」
「流、昴が!!」
捺輝が叫んだときには既に昴はもう落ちてきていた。 間に合わない、そう流が思ったとき洸吾の呪文が聴こえた。
「過去を思い、過去を見る  現在を歩み、現在を生きる 未来を創り、未来を行く すべてを信じ、我戦う…‘力’」
呪文と共に額に浮かぶ‘力’の文字。洸吾はそのまま昴を受け止めた。
「昴、昴っ!!」
洸吾の声に反応しないものの昴は意識がないだけだった。(だがしっかりと腕には傷が残っている)それを見た流はアレスをきったときに奪ったカギを手に呪文を説いた。
「間鍵閉      封印完了」
すると紅の鍵は姿を隠し、それを見た流は昴に近づいた、すると昴はうっすらと目を開けた。
「ごめん、流。次の間は、手伝えそう…にない…や」
そういって昴は再度意識を失った。その場に呆然と立ち尽くした3人。この次の戦いまでに、昴は目を覚ますことができるだろうか、そして紅の間は静かに終わる…


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