第三章 橙の間 〜‘力’〜

「黄の間での話の続き教えてくれないか?」
捺輝と洸吾が真剣に流に尋ねる。
「何か言ったの、流?」
昴も流に尋ねる。
「話ってのは司ってるものについてか?」
「あぁ、そもそも‘理’‘布’‘宇’‘力’ってなんなんだ?」
真剣に尋ねる捺輝達をみて昴が口を開く。
「そのこと・・は、話さなきゃいけないね」
昴の顔つきが変わる。
「‘理’や‘布’っていうのはもともとは人の名前なんだ、‘火を司る理’‘水を司る布’‘風を司る宇’‘土を司る力’ってな感じでね。だけど果てしない戦いの結果‘宇’と‘力’は滅びそして‘布’には悪霊が憑いた、そして‘理’は悪霊を追い出すことが出来ず‘布’を滅ぼした。
「そんなことが・・」
「そう、事実今でも‘理’は…」
いいかけて、昴は言葉を止めた…流が震えてるのに気づいて。
「大丈夫、流?」
「あぁ、…話聞いてたら過去(むかし)を思い出しちまって…俺向こうで休んでるわ」
そういって流は部屋を出て行った。それを確認してから
「さっきの続き、‘理’は、って言うのは聞かないほうがいいか?」
と洸吾は昴に問いた。
「今は言えないみたいだね、でもそのうちきっとわかってくると思うよ、‘理’と‘布’、そして‘宇’と‘力’の意味、さっきの続きも。…それより」
昴は真剣な顔で洸吾に言葉をかけた。
「橙の間・・・次の間の話をしておくよ。あの間は‘力’が関係してるから洸吾にはちゃんと話しておかないとね」
「俺?俺に関係あるのか??」
「うん。…私たちにはそれぞれ属する間がある、ってのは話したよね。‘力’は橙、つまり今度の間にあたる。いつもは覚醒転生する前に開いて私たちがすぐに閉じちゃうんだけど今回はそうもいかなくて洸吾が閉ざさなきゃいけなくなるの」
「だからなんで俺が…」
わけがわからない洸吾に昴はすべてを話した。
「間についての話はしたよね。間は思いの渦が作り出した空間なの、思いが強ければ強いほどその間自身も強くなる。そして比較的それが強かった間を‘理’‘布’‘宇’‘力’がそれぞれ自分の間として封じ込めた。そして再び開いたときに閉ざせるものをつくった、名前をもとに4つの力を、‘理’‘布’‘宇’‘力’が選んだ間、以外は封じるときそれほど力を使わないで封じることができるんだけど、‘理’‘布’‘宇’‘力’が選んだ間は間自体がさほど強くなくても閉ざすときに力がかなり必要になる。だから今回のように‘理’‘布’‘宇’‘力’が属する間はその力を受け継ぐものしか閉ざすことは出来ないの、…覚醒転生が遅ければ力も弱まっているからあたしたちでも閉ざすことができるんだけど今回は受け継ぐものが既に覚醒してる。だからあなたじゃなくてはいけないの、大丈夫、あせらなければできるよ、あたしたちもサポートするから、そのかわりに一人で先走らないで、‘力’をもつあなたがもし間に呑みこまれたらもう手におえなくなるから」
洸吾は放心状態だった。そしてしばらく口が聞けなく沈黙だ降りたが落ち着いたらしく口を開いた。
「つまり…だ、俺が覚醒したことによって橙の間を閉ざせる存在が俺だけになってしまった、ってことか?」
「まぁ、簡単に言うと、そうなる…かな」
さらっと言った後昴は 流を見てくる、と言い部屋を出て行った。…昴が出て行った後2人ははじめて自分に与えられた使命の重さを知った。

昴は流が起きそうもないので2人にいったん家に帰るよう勧めた、そして昴は洸吾に言葉をかけた。
「あせりと不安はあるかもしれないけど今は我慢して、自分を見つめられるいい機会になるかもしれないしおのずと答えが出てくるかもしれない。でも、これだけは守って。1人で突っ走ることだけは絶対にしない、ね」
この言葉に洸吾はから返事を返し2人は帰っていった。そしてそれを見送ったあと昴は流の部屋に向かった。
「大丈夫そう?流」
「あぁ、俺やっぱ変わんないな、まぁ、俺自身が‘理’だからしょうがねえけどさ」
流は呟きそして言の葉を茂らせていく。
「最後に滅ぼすもの、‘理’。幾度転生を繰り返しても変わらなかった事実だ。・・・そのためか破壊しか出来ない俺は皆に避けられ気づくといつも1人になっていた、でも本当の俺は孤独の塊で淋しくて仕方がなかった。だけど、こんな俺でも近づいてくるやつらがいた、‘布’‘宇’‘力’だ、俺は壊さないように距離をおいてた、だが結局は皆壊しちまった。大事な仲間を…」
流はそのまま崩れ落ち頬を伝い落ちてくるものがあった。…心の奥底で眠る記憶の出来事がこんなにも流を苦しめるものだったなんて・・・
「泣かないでよ流、どんなに繰り返し起こったって私とは離れなかったじゃない、私は壊れなかったし、今ここにいるじゃない、それは、今と過去(むかし)が違うってことを意味してると思わない?」
昴は流に優しく微笑いかけ続けた。
「過去は過去だよ、もう過ぎてしまっていること、振り返るな、とは言わないけど浸りすぎたらだめだよ。過去が必要なのは失敗を真っ白な未来に残さないためなんだよ。いつまでも引きずらないで同じことを繰り返さなければいい、それに、流が縛られる理由なんて何処にもない、そろそろ自由になっていいんだよ。」
昴は流を包み込んだ。
「大丈夫、私は離れないから・・・そばにいるから・・・絶対に」
その言葉を聞いて流は眠りについた、いままでの時間を取り戻すかのように…

流が眠ったのを確認すると昴は静かに部屋を出た。そしてすぐに、何かの気配を感じた。
「橙の間が開いた」
けれど流は感じられなかったらしく良く眠っている。それだけあの話に対して衝撃があったのだろう、相当霊力が弱まっていた。そしてもう1つ昴が気にかかったこと、洸吾だ。
「1人で突っ走ることはしないと思うけど…」
昴は橙の間に急いだ。
……開かれし橙の間は‘力’が作り出した記憶の塊なのだ。間に刻まれし言葉は‘過去’‘現在’‘未来’。1度足を踏み入れると間の中にいる悪霊達に過去の記憶を甦させられてしまう。しかも、自分が一番触れて欲しくない記憶を…そしてそれの影響は少なからず洸吾に影響を与えていた。間が開いてから洸吾の様子が変わったことに気づいた捺輝、‘力’としての自覚が身についたのか、不安がまとわりついているのかはわからない、…けれど、洸吾の精神はぼろぼろになっていたのだろう。だが急に思い出したように立ち上がり洸吾は部屋を飛び出していった。
「1人で行く気か、あいつ」
そう感じた捺輝は洸吾の後を追いかけていった。そしてどのくらいのところだろう。間があった場所は2人の知らない場所であったが妙になつかしい場所だった。開かれた扉の奥は橙に染まっている。そして洸吾は吸い込まれるように間の中へ入っていった。捺輝もそれに続こうとしたがどうしても間の中に入れない、まるで、間の入り口に透明な壁があるように。それを感じた捺輝は急いで昴たちの家に向かって走っていった。

【洸吾の意識の中】
「ここは…何処だ…」
洸吾は目を開けた。辺りを見ても誰もいない。だが景色だけは見覚えがある。
「俺は一体、…どうなってるんだ、これ」
あたりは橙一色で何の変わりもない、…と思ったら1ヶ所光りが射し込む場所があった。…洸吾はまるで導かれたようにその場所へ歩いていった。
光り輝く場所は洸吾の記憶の渦の中心だった。あとからあとから甦る過去の記憶に洸吾は戸惑いその場に崩れ落ちた。
「なんなんだよ、これはよぉ…俺が一体…何したっていうんだ!!」
声は既に叫びとなっていた。

昴たちの家に着いた捺輝は事情を2人に話した。
「忠告虚しく入っちゃったってこと?まったく、命にかかわる問題なのに」
そういうと昴は流の部屋を覗いた。流はまだ眠っている。
「流を一人にしとくの心配だし、早く行かないと…」
「流、どうかしたのか?」
「いや、たいしたことじゃないんだけど心配でね、いろいろと…それより早く!」
そして2人は橙の間へ急いだ。
――――――間の入り口には相変わらず透明な壁がある、が昴は捺輝がどうしても通れなかったその壁をいともたやすく通り抜けた。唖然とする捺輝に昴はこう言った。
「あなたならできるでしょう、何のための‘宇’なの、呼び起こせばいいんだよ、呪文でね。」
昴の言の葉はちゃんと捺輝に届いた。
「我思う……我伝える、風の呪文……我説える...‘宇’」
呪文を条件に捺輝は鞭を手にし‘宇’を呼び起こした。するとどうだろう、今まで通れなかった壁を簡単に通ることが出来た。
間の奥に進む2人、その先に捺輝は倒れている洸吾を見つけた。
「洸吾、洸吾!!おい、しっかりしろ、大丈夫か?」
捺輝がゆすりながら声をかける。するとがうっすらと洸吾目を開けた。
「捺…輝、か。俺一体どうし…たんだ?」
意識を取り戻した洸吾、だが突然に光の矢が襲ってき、3人を貫いた、が昴と捺輝にはあまり影響がなく、洸吾はいきなり苦しみだした。
「入り込まれた、やばいよ、このままじゃ、洸吾が」
そういうと間のさらに奥に駆けだす昴、捺輝は起きていることが整理できずにいた。

間の奥に進めば進むほど過去の記憶が鮮明に甦る。洸吾の記憶がこれほどのものだと誰が予想できただろう。そう思いながら昴は進んでいく。すると間の一番奥にきれいに踊る女性があった。その姿に昴は思わず足を止める。そして、
「あなたがこの間の主、ヴィーナスなの?」
尋ねた言葉に女性は舞いを止め言葉を飛ばした。
「ソウ、私ガコノ間ノ主、私ニ話カケルアナタハ誰?」
「あたしはあなたに頼みごとをしにきたものよ、あたしの願いを聞いてほしくて」
「アナタノ頼ミハ‘力’ノコトデショウ、仲間思イナノネ」
「あたしの頼みを聞いてくれる?あれほどきれいに踊るあなたですものできれば封じたくない、だから」
昴の言葉にとまどいを見せたヴィーナスだが
「イイデスヨ、ソノカワリニ条件ガアリマス」
「なんですか?」
やり取りはしだいに早くなっていく
「私ヲ封ジルコト…」
「えっ、そんなことをしたら、あなたが…」
ヴィーナスは微笑みながらいう
「私ハモウ過去ノ人間、死ンデイマッタモノ、イツマデモココニ縛ラレタクナイノ…」
しばしの沈黙、そして
「…わかった、すこしまってて、」
そういって昴は洸吾のもとへ向かった。そこでもう一度ヴィーナスの顔を見つめ
「永遠(とわ)の彼方で木霊する、我の声聞こえたならば立ち上がれ…共に歩む道ならば、今解き放たん‘布’」
その呪文と共に昴は洸吾になにか別の呪文をかけ、昴はその場にしゃがみこんだ。
「昴、大丈夫か?」
「一応は…少し洸吾に力を分けただけだから、」
昴の言葉通り洸吾はゆっくりと目を開けた。
そして導かれるかのようにヴィーナスの前に立ち呪文を説いた。
「過去(むかし)を思い過去を見る…現在を歩み現在(いま)を生きる…未来を歩み未来(あす)を行く…すべてを信じ我戦う‘力’」
降り注いだ光の中、洸吾は新たな呪文を説く。
「開錠閉」
そのときヴィーナスの姿は消え、洸吾の手には橙の小さなカギがあった。そして昴に渡す。
「封印完了」
呟いた瞬間間は崩れ元いた場所へ戻った。

橙の間で起きたことは後々続くものとなった…がそのことはまだ誰も知らない…
紅の間の主、アレスを除いては…


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