MADGAME
2.

今回の標的『鴉猫の牙』
鴉猫とは、この世界に突然変異として現れた亜種であり、特別。何故か崇められ今や神に近い存在とまでされている。
牙、とは制裁の例えであり、つまりは神の罰 とされている言葉だ。

自殺禁止令の施行も虚しく、自殺者は募る一方だった。
其の現状を商売にしよう、そう企む者たちが現れたのだ。それが MG−mad game−
娯楽が足りない青年、金銭が足りない青年、そんな者たちは世間に溢れている。
緊迫感が足りない大人、享楽が足りない大人、そんな者たちも世間には溢れている。
其の両方を巻き込み、自殺志願者を巻き込み殺人ゲームが始まるのだ。

「鴇、吟、準備出来たか?」
『…はい』
『オッケーっスよ』
「…標的は凡そ2.7`地点、敵さんとは0.8、鴇は後6,7分で接触する。吟、お前はそのまま標的向かえ、方向は10時」
『敵、全員ですか?』
『了解っス!』
「ああ、4人そっちにいった。お前につけてあるからな、2人分」
『え…宗途の分もですか?』
「なんだ、不満か?」
『…いえ』
「なら問題ないだろう。敵接触の後1人と判れば吟の方へ向かう、とりあえず数は減らしてやれ」
『…判りました』

死にたい者たちが書き込む掲示板がある。
それに返信が入ると有無を言わさず標的となる。自殺が禁止されているこの世界では、殺人がビジネスになったのだ。
代償はその人の資産全て。死んでしまうのだから残すものなどないだろう。もし足りないようであれば大量の保険金がかけられる。
既に警察など機能していないと同じ事。誰も疑いを持たずにごく当たり前に処理されている事だった。

「…面倒だな」
ポツリと呟いた後、適当な街灯に背を預ける。
体に残るのはさっき亮が吸っていた煙草のもの。嫌煙家の自分には嫌悪を覚える臭いだ。
一人はただなんとなく面白そうだったから。
一人は大金が入ってきて生活が楽になったから。
そして一人は、このゲームを止めるわけにはいかないから。
3人が3人、別の思いを持ち乍集まり、そしてゲームは続いていく。
一通り記憶を巡らせた後、芯哉は街灯から背を浮かす。それと同時に自分の周りを人が囲んだ。
「…慧谷さん、人数違う…」
『さっき一人離れた。片付け次第吟を追ってくれ』
「…了解」
相手に聴こえないようにひっそりと通信をとる。状況を送ってもらってから、芯哉は通信を一度断った。
ガタいの良いのが3人。此方を見て何やらニヤニヤと笑っていた。
「なんだ、女みてえな奴だな。よく残ってるもんだ」
「なぁに、ちょっと可愛がってやろうじゃねぇか、偶の楽しみだ」
品のない発言に些かなる頭痛を覚え米神に手をやる。その呆れにも取れる立ち振る舞いは相手に不快を与えたようだ。
「余裕だな、兄ちゃん。自分の立場わかってんのか?」
「…立場?何か問題でも?」
わざと煽らせる言い回しはいつもの事。そうすると相手が勝手に手を出してくれるという事は亮から教わった。
案の定飛び掛ってきた相手をかわし、つまらなそうな動作で更に煽ると、もう行動は手に取るように解った。
…よくここまで残れたものだ。と言われた台詞を音無く唇の動きだけで呟く。
一人の足を払い同士討ちを狙う。よくもまぁこんなに思い通りに相手が動いてくれるものだな、と感心しつつ取り合えずと相手の意識を奪った。
「くだらない…」
一言吐き捨てると沸々と何かが込み上がっていく。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
『…き、……鴇!』
「…っ慧谷さん?」
いつの間にか復活している通信機能から亮の怒鳴り声が響き、芯哉の意識は浮上する。
そして気づいた。自分が何故か銃を持ち今にも相手に撃とうとしていることに…
『気がついたか?ならいい。そいつ等は放って置いて吟の方へ向かえ。方向はそこから10時と11時の中ほど』
「宗途と標的の位置関係は?」
『もう接触するな。その3、4分後には敵さんとも接触が入る。行けそうか?』
「行きますよ。情報送っておいて下さい」
『…RMF、オフになってるからオンにしとけ、そしたら情報入れる』
「あ…すみません」
『大丈夫だ』
相手の言葉を聞くと、カチリと耳につけてある機械を弄る。もう一度ボタンを押すと右目に映像が浮かぶ。

RMF―リアルモーション機能―
亮が創ったチップ式の機械。此れを敷地内にセットし、通過する者があれば亮のPCに其の情報が入ってくる。相手の行動を逐一知ることが出来る機能。そんな感じである。

芯哉は走り乍情報を頭の中に入れていく。データを見ただけで判る。先程のは単なる数合わせ、もしくは油断させる手段でしかないほど強い者だと。
「…慧谷さん。宗途には連絡いれているんですよね?」
「ああ、でもダメだな。切ってやがる…」
「また…ですか」
溜息吐くと少しばかりスピードを上げていく。ここまで進めておいて相手に標的を取られてはたまったものではない。
芯哉は吟の実力を知らなかった。大抵は自分が相手を倒しているから…
彼の歩調が徐々に速くなっているのは其の影響もあるのだろう。


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