特別寄稿・キャンディス・W・アードレーのノートより

五月の扉




その扉の前で

私は大きく息をつく

指がふるえて なかなか扉を開けられない・・・・・・

五月の扉

つま先まで 思い出がおしよせてきて



耳元によみがえってくる ワルツの調べ

軽やかな ステップ みんなの笑い声の輪舞(ロンド)

イライザとニールまで 笑っている

サンザシの花冠をつけた アニーのほほえみは

五月の光になって アーチーにふり注ぎ まぶしいほど

さあ、

ステア に パティ めがねをとって その瞳のおくの

輝きを みせて

ステア はやく パティにそのすずらんのブーケを



五月祭

緑の風の香りで息がつまりそう・・・・・・

セオドラのたねがみの感触

・・・・・・テリュース

あなたの 声 わたしだけに呼びかける その声

思い出すと もう 立っていられない・・・・・



大切な瞬間は いつも 時刻(とき)がとまっている

もういちど あのときに 戻れるならば・・・・・・

わたしは ほんとうの誕生日を知らないで しあわせ

五月じゅうが わたしの 誕生日

五月じゅうが わたしたちのフェスティバル

若葉が萌えるように 歌ってくれる

アニーとキャンディ 生まれてきて よかったね と・・・・・・



思い出は もう はちきれそうな 五月の扉

(キャンディ はやく 開けて!バースデイのおそろいの花の首飾りが

しおれちゃう・・・せっかくのアルバートさんのプレゼントなのに)

(なに してるんだろう まさか 五月だって忘れてるんじゃないだろうな)

(アニキとちがうって あめかしに決まってるじゃないか)

(そんなにオシャレだったのかなあ?)

(ステア かぎあなをのぞいちゃいけません! でも ちょっと みせて)

(ほらほら、みんな 待ってるんだぞ キャンディ!これ以上待たせると

帰っちゃうからな・・・う、うそだよ セオドラ つつくなって!)



みんなの声が 扉からあふれて 胸が痛いほど・・・・・・

あたしは 扉にてをかけて ふりかえる

「行ってくるね アンソニー・・・・・・」

ばらの香りが漂い アンソニーの笑顔もかえってくる

息をつめ

今 五月の扉を開ける


(C) Keiko Nagita
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