エピソード6・屋根裏部屋から

二年程前から、屋根裏部屋でノートをさがしていました。

なさけなくも哀しいことに<原作を書いた証拠>として裁判所に提出するためでした。

そのノートにはくわしいアードレー家の家系図、そして、キャンディたちの誕生日、血液型など、趣味、ちょっとした癖や子供の頃のことなど、ほとんどわたしの趣味的なことが書いてあるはずでした。ほこりっぽい屋根裏部屋に入りおびただしい書類を調べることは時に哀しく、またひどく懐かしい時間でもありました。

わたしは家族にあきれられるぐらいなんでも「思い出だから・・・」と取っておきます。

屋根裏にはわたしの小学生時代の<出来の悪いテスト><絵日記><旅の思い出の品々(たいてい石とかコースターなど)><クリスマス、ハロウィーンのグッズ><古い手紙><娘が幼い頃使ったおもちゃや服><亡くなった両親の背広や洋服>・・・

そして、数々の作品ノートに原稿。

ひとが見ればガラクタ・・・けれど、わたしにとっては宝物が整理されることなく積んであります。

その中からやっとみつけたのは創作ノートの一部とキャンディの原作の生原稿でした。

わたしがきちんとした性格ならば、原稿も全部ファイルしてあったでしょう。

しかし、わたしにとってもキャンディの物語は<漫画の本>だったので原稿はもう必要ない、と思っていたのです。それでも200枚余り(完璧な原稿は数本、あとは断片的でいかにわたしがだらしないかが忍ばれる・・・)の原稿は抱きしめたいほど懐かしく、わたしは20年ぶりに何のために探しているのかを忘れて読みふけりました。

欄外に描いてあるステアの発明品のへたな絵入りの説明も胸に迫ってきます。(先生直筆のイラスト)

文だけで表現できないことはそうしてへたな絵で説明していたのです。

(いがらしさんはいつも笑っていました「わかるよ〜これでも。いいじゃないの〜」と)こうやって一緒に仕事をしてきたのに・・・と屋根裏で探し物をしたあとはひどく落ち込み、眠って時をやりすごすしかありませんでした。

生原稿、そして、<第四部の半年間のプロットが書いてあるノート(ハーディ、レッドバロン、デイジーとか殴り書きしてある・・・>、「これで十分でしょう」とわたしの弁護士がいってくれたのでそれきり屋根裏で探し物をすることはやめました。



ムッシュ・ベルナールから「付録につけるのでアードレー家の家系図書いて」、と言われたときそのノートを見せました。「この家系図のノートよくとっていたねえ!」ムッシュ・ベルナールがわたしにしては上出来と、うれしそうに誉めてくれたのが印象にのこっています。

その家系図はもっともっときちんと書かなくてはならない、また訂正しなくてはならない内容があり、あとで手を加えました。(そのときにサラ・ラガンの出生の秘密に気がついたのです。)

登場人物の誕生日などについては急がされて(言い訳ねえ・・)書いた記憶があります。それでも、ひとりひとりの生まれた日はわたしなりの<プライベートな思い入れ>があったので、この前<ガーデンテラス>で目に飛び込んできた時は、懐かしくまた、うろたえましたよ!

そして、そんなに長いこと大切に付録を保存してくれていた人たちがいたこと・・・感激しました。

わたしがうろたえたのは、(記憶と違う・・・)ふたつのこと。

ひとつはみんなに指摘されたアーチーの誕生日。
これは絶対 五月!

しかし・・・ステアは・・・??

アーチーと入れ違った、ということになりましたがノートがない以上、断言できません。

でも、わたしの<思い入れ>からいうと、それだとすっきりします。 (原作者なのにお恥ずかしく、ごめんなさいね)

あと、イライザの血液型はよ〜く覚えています。

彼女はわたしと同じAB型にしました。いじめっ子同志、責任をとったのです。



とにかく・・・

あのノート・・・・・・とても可愛いあのノート・・・そして、たぶんそのノートと一緒に<付録>もあるはずです。



また、屋根裏部屋に入ってみましょう。

こんどは重い気持ちでいやいや探しに入った屋根裏ではなく、<思い出を探すため>・・・

すこしは楽しい気持ちで入っていけるとおもいます。



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お詫びの特別付録

キャンディ・キャンディ大百科

(昭和55年版 ケイブンシャ 大百科シリーズより

水木のノートから作成した文の抜粋)



<おてんば新記録>

木登り
   ポニーの家の仲間たちと競争で7メートルもある樫の樹に30秒で登ったのが最高新記録。
   オサルさんよりうまいんだから。

けんか
   アニーが丘のふもとの子供たちにいじめられたとき、男の子3人を相手に大げんか。
   わたしのけんかは精一杯力を出してやること。そうすれば負けないわ。

いたずら
   小さいころはほんとうにいたずらっ子だったの。
   ポニー先生のベッドにカエルを入れたり、シーツをかぶってゆうれいのまねをしてレイン先生を気絶させたり。
   いたずら記録は自慢じゃないけれど数えきれないくらい。


<性格>

おっちょこちょい
   ポニー先生にお買い物を頼まれたときのこと。
   何を買うのか聞き忘れてとびだして、途中で気がついて戻ったの。
   でも、今度はお財布を忘れてたのね。こんなことしょっちゅうあるのよ。

泣き虫
   感激やで涙もろいたちだから、すぐ泣いちゃうの。
   でも、悲しいときよりうれしいときのほうがよく泣くのよ。

がんばりや
   フランス語の古詩を暗唱させられることになったときは困ったわ。
   でも一晩中かかって覚えたのよ。意味はよくわからなかったけど。

ええかっこし
   これはゼッタイにナイショなんだけどね。
   わたし、生まれつき木登りがうまいような顔をしているけどほんとは小さいころ必死で練習したのよ。
   ここまでになるには数え切れないくらい落ちてけがしたの。
   大けがしなくてよかったなあ。

好きな食べ物
   なんでも好き。
   にんじんだって、ピーマンだってモリモリ食べちゃうのよ。
   でも、なかでも好きなのはチョコレートボンボンかな。
   スイートなもの大好き!

好きなこと
   たくさんあって、こまるなあ・・・
   そうね、そのひとつ・・・・・・わたしは早起きで有名なんだけれど、朝寝も大好き。
   とくに目が覚めたあと、ベッドの中でボーッと想像しているのが好きなの。
   それから草の上でうたた寝するのもすき。
   青空や白い雲をみながら、眠るとすてきな夢がみられそうでしょ。



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(C) Keiko Nagita
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