金大フィルはアマチュア・オケである。従って、その個々の奏者の技術的能力は、プロに比べるべくもない。特に弦楽器奏者の大半は、大学時代に初めて楽器を手にするというハンディを背負っている。しかし、それだからと言って音楽が出来ないわけではない。このサイトのすべての演奏がそれを証明している。 アマチュア・オケである金大フィルではあるが、時に、アマチュア・オケであることを忘れさせてくれるような演奏にめぐり合うことがある。木管楽器や金管楽器の一部には、惚れ惚れとするような演奏を聴かせてくれたプレーヤ達がいた。これを金大フィルの名手達と呼ぼう。 これまであまり採り上げられなかった、木管奏者のソロやアンサンブル、そして、金管奏者にスポットがあたるだろう。また、歴代のコンサートマスター達にも注目しよう。丹念に音の記録を辿ってみようと思う。 ![]() ![]() 最初に、79年のチャイコフスキーの木管奏者達にフォーカスしてみよう。1979年の第40回定演の頃、急速に団員数が増えている真っ最中だ。2管編成のオケから、4管編成への脱皮をしていた頃だ。別の特集でも、述べているが、金管楽器の表舞台への登場だけではなく、木管セクションも大きな一歩を踏み出した演奏だ。チャイ5の曲全体を大きく印象付けている冒頭のクラリネットのシュリュモーの響きは見事である。アレグロ・コン・アニマに入っての木管のアンサンブルは堂に入っている。この特集の冒頭を飾るに不足はない。
![]() 時は、チャイコフスキーから15年下る。金大フィル歴代の数多くのコンサートマスターのソロの中で、これほど、安定していて、かつ色気さえ感じさせる絶妙なソロはこれを置いて他にない。特にソロ・フレーズの終わりから3つ前のE音のポルタメント気味の心震える音色、Fisへのsfなど・・、すごい。そして、それに引き継いでクラリネットのソロも立派である。このクラは、3楽章の長大なソロでも素晴らしかった。惜しむらくは、もう少し音量があれば・・・。弦楽器の細かい音符も克明に弾かれていて、油断すると?金大フィルだということを忘れる。 このラフマニノフは、全体に非常に充実した演奏だ。特に弦楽器の好調ぶりが目立つ。長大なロシアの風景画とも言える、第1楽章のアンサンブルを、どうしてこう上手く乗り切っていったのか知りたいところだが、このコンマス(小路晋作氏)の影響力は大だろう。オケに自信を与えている。百合の間で、他の楽章も聴くことができる。
![]() ブラームスの交響曲は、簡単ではないものの比較的アマチュアオケが取り組みやすい。しかし、その演奏の成否を握る一つの要素は管楽器のソロの技量の如何にある。特にホルンは、ブラームスが愛好した楽器で、見せ場の連続である。第1交響曲においても、特に4楽章におけるアルペンホルンは、引き続く主部への大事な橋渡しとして重要な見せ場だ。また、それに引き続くトロンボーンのコラールは、この部分がトロンボーン奏者にとって、この交響曲の最初の音符である点で、大変な心理的重圧を与えるソロとしてあまりにも有名だ。しかも、ピアノで高いAの音である。 有名な話がある。かつて、ウイーン・フィルがベームと来日して(75年)、伝説な「ブラ1」を演奏した時、このコラールで第2Tb奏者が、音程が合わなかったためか、ものすごい形相に顔をゆがめたとのこと。これを聞いた(見た)、日本中のプロのTb吹きは歓喜の声を上げたという。あの、ウイーン・フィルでさえ、この部分はこうなるのだ!と・・。 金大フィルの81年のブラ1は、いろいろな傷はあるものの、ソリストは見事であった。第2楽章のヴァイオリンソロ、多少の音程の甘さはあっても、果敢に弾いている。続くホルンのソロの音色も素晴らしい。第4楽章のアルペンホルンはさらに見事の一言。このホルンを聞いた音大生(武蔵野)のホルン吹きは、一般大学のオケでは信じられないくらいの腕前だと、脱帽していた。自分も、今でも全く同感である。そして、問題のTbソロ、多少の硬さはあるが、これも、大成功だ。
![]() チャイコフスキーに、金大フィルが最初に本格的に取り組んだのが、この「白鳥の湖」だ。このHPのほかの部分でも繰り返し述べているが、掛け値なしにこれはすごい。トランペットは、有名なテーマを最初はmollで次にdurで2度演奏するが、4人のTp奏者が一音たりとも外すことなく、完璧に吹ききっている。しかも、100%全開である。Tpを鳴らすということのこれまさに見本である。特に、2回目Durの部分で、2フレーズ目の前に、ノン・ブレスでクレッシェンドをするのところなど、決まっている。最後の昇天の部分で、ホルンがHの音を外すのはご愛嬌。 この金管セクションのメンバーはそのまま、同年のアンサンブルコンテストの全国大会まで行き、見事金賞、全国制覇をした。
![]() ブルックナーの7番からは悠然とした、山水画を見るようなイメージが浮かぶ。1楽章のこの部分はとりわけ、大好きな場所である。この演奏では、管楽器のソロが素晴らしい。偶然、録音のマイクが遠く、遠近感が上手く出ているせいもある。クラリネットやフルートのソロは安心して聴くことができる。続く、チェロの表情も切実で心に沁みてくる。細かいターンは多少誤魔化していても、ブルックナーそのものを感じる。ヴァイオリンの音がもう少し濡れていたら・・・。バックを支える中低音金管のサウンドも暖かくて良い。 この92年の演奏会の頃、金大フィルはいい具合に「熟れてきた」ように思う。日本人はまだバブルの余韻に浸っていた。 それにしても、録音がやたらマイクオフで、しかも、会場の雑音が多いのはちょっと不思議。実況中継風なのは良いのだけれども、お客の?おしゃべりまで良く入っている。
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