運動は体に悪いか!?
ひと頃、運動をすると大量の酸素を呼吸するので活性酸素が発生し、体に悪いという説が唱えられました。たしかに、活性酸素の発生量だけ見れば安静にしている方が少なく、運動によって発生する活性酸素が筋肉痛の一因となっているようです。また激しい持久トレーニングを積んでいるスポーツ選手では、抗酸化性が高まりすぎて活性酸素を必要とする好中球などの微生物に対する殺菌能が低下し、感染症にかかりやすくなる可能性があります。
* 以下は、トライアスリート以外の一般の人へのお話
しかし、総合的には運動不足が健康に良いはずはありません。適度な運動を習慣的に続けているかぎりは活性酸素が体内に蓄積することはなく、むしろ筋肉組織中のSODが増加し、酸化ストレスに対する適応性が高まることも最近では知られています。最大酸素摂取量の60%未満の強度で、持続時間が60分までの有酸素運動であれば著しく筋肉が損傷されることはありません。筋肉痛にならない程度の軽い運動からトレーニングを始めれば安全です。
運動する前に一定期間ビタミンEを服用するといっそう効果があるようです。
*以下は、トレーニングがよくできているアスリートへのお話
第5回佐渡、第9-10回宮古島でデータを取った焼津市立総合病院循環器科の長崎文彦さんの研究によると…・・持久的能力(最大酸素摂取量、AT値)の優れたアスリートでは、ロングトライアスロン完走後も、血液中に活性酸素はほとんど増加しなかったそうです。ただし、レース前半にオーバーペースだったと自覚した選手はやや増えました。
(*いまのところ、血液中の活性酸素を直接測定することができないので、過酸化脂質、尿酸、プリン代謝産物といった物質を測定することによって間接的に判断しているので、ひょっとすると本当は活性酸素が増えている可能性を否定はできないのですが。)
長時間の運動によって体内に大量の活性酸素が発生し、これによる活性酸素障害が起こる危険性は十分にあったにもかかわらず、このような結果になりました。
すなわち、よくトレーニングを積んだアスリートの体内では、酸化ストレスへの適応として、抗酸化機構が十分発達していると考えられます。動物実験でも、トレーニングによって抗酸化酵素の活性が高まったり、酵素量が増えたりあるいは過酸化脂質(広義の活性酸素の一種)の分解能や排泄能力が増加するのではないかとのデータが出ています。
オーバーペースの選手については、有酸素運動レベルを超えていたため(酸化ストレスがある)と考えられ、無酸素運動は酸化ストレスとなってプリン代謝産物が増加するという従来の研究とも一致します。
したがって、有酸素運動の範囲でレースペースが維持できれば、酸化ストレスは最小限に抑えることができると考えられます。
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