健康な人の体温は、いつでも36℃前後。これって不思議だと思いませんか? どんなに冷たい風が吹いて耳が凍えそうなときでも、体温を測ってみるといつもと同じに保たれています。もちろん、寒い冬にはセーターやコートを着たり、暖房をつけたりしますが、本来、人の体には体温を保つしくみが備わっています。たとえば寒いときには体がぶるぶるふるえますね。実はこれ、筋肉を収縮させて熱を作り出す働きなんですよ。無意識のうちに手をこすり合わせたり、足踏みしたりするのも同じ理由です。
学校の理科の時間に、恒温動物と変温動物という言葉を習いました。気温によって体温が変化する動物が変温動物で、寒くなると活動できなくなり、冬眠します。ヒトを含む哺乳類や鳥類は恒温動物で、気温が変化しても体温は一定です。
人の体は、「ふるえ」のほかにも、皮膚から熱が逃げるのを防ぐために毛細血管を収縮させ(そのために手や顔が青白くなる)、立毛筋を収縮させて鳥肌が立つなどの適応をし、ある程度の寒さにさらされても、体温を一定に保つことができます。
でも極端に体温を奪われる状況では、体が対応しきれないことがあります。スポーツと体温というと、夏の熱中症ばかりクローズアップされますが、実は寒さのために体温が低くなってしまう「低体温症」も重大な問題です。
山登りの世界でも、平野部の気温と山の気温とはちがうということを(とくに初心者は)考慮しないで軽装で出かけてしまい、厳しい寒さにさらされて命を落とす人もいるそうです。日本ではまだまだこうした「低体温症」の認知が低いといわれています。スイスアルプスでは年間50〜60例の低体温症の事例があり、どこの山中からでも15分以内に最寄の病院に運び込めるようなヘリコプター救助網体系の必要性が説かれています。
体温がわずか2℃さがっても大変なことに
今年5月にカリフォルニアで行われたアイアンマン・トライアスロンでは、水温が約15℃と低く、3.9Kmのスイムの途中で意識がもうろうとなっておぼれた人や、それほど重症でなくても陸に上がってから保温のためのアルミシートにくるまって休憩した人がたくさんいたとのことです。
また7月の富士登山競走も、当日、山頂の気温が3.3℃、風速23.8mというコンディションだったため、本来山頂までの部門のゴールが5合目までで打ち切りとなりました。こうした措置により、幸い事故はなかったものの、参加者にとっては厳しいレースとなったようです。
医学的には気温が5℃以下になると寒冷注意域とされます。体温が34〜35℃まで下がると筋肉のけいれんや肉離れが起きやすくなります。34℃以下になると脳の機能が低下しはじめ、28℃以下で心臓が停止します。
低体温が起こりやすいのは、気温が低く風のあるときです。風速が1m増すと気温1℃下がるのに相当します。汗で皮膚がぬれていると気化熱で体温は急速に奪われます。睡眠不足や過労、栄養不良、貧血、空腹、飲酒も誘因となります。厳寒でなくともじわじわ体力が奪われます。冷たい水の中に長時間いる場合ももちろんです。
とくに、皮下脂肪の少ない男性は体温を奪われやすいので気をつける必要があります。
低体温症の徴候は
- 絶え間ない身震い
- 無気力、不明瞭な話し方、ぼんやりする、不随意な筋肉の動き、しわがれ声、眠気、筋肉の硬直
- 意識喪失、瞳孔拡張、光に対する瞳孔の反応が遅い
- 手足の凍結
(以上、コーチングクリニック1998・3 引用)
このような徴候が生じたら、体温がこれ以上失われるのを防ぎ、直ちに体を温めます。
冬のスポーツは、防寒用ウエアを着用し、ふだんよりウオームアップを念入りにするのはもちろんのこと、汗をかいたら着替えられる準備をし、また気温や天候によってスポーツをする時間や内容などの予定を変更することも大切です。
ところで、人と同じ哺乳類なのに寒いところや水の中でも平気な動物がいますね。たとえば冷たい海にいるクジラやアザラシは厚い皮下脂肪を、その断熱効果で体温を保っています。またペンギンやハスキー犬の足、イルカのひれは、足先(ひれ先)で冷たくなった血液が静脈を通って心臓へ戻ってくるときに体の中心部から来るあたたかい血液から熱をもらえるよう、動脈と接する構造になっています。
人にはこのような特殊な血管構造はありませんから、冷えやすい手足を保温することが全身の保温にとっても有効です。また寒い季節には皮下脂肪を蓄えようとするのも自然の摂理というわけです。でもあまりに蓄えすぎは困りますね!
次回は、「寒いときのトレーニング中に気をつけたい食事」です。
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