更新2004/01/31「ことば・言葉・コトバ」

オープン・セサミ
ブランド・ニュー・アイ「朗読を楽しもう!」
2003年12月18日(木)9:30-50 JFN提供
ゲスト=渡辺知明/聞き手=山川 牧

【オープニング】表現よみ「てぶくろを買いに(新美南吉)」(冒頭2分50秒)
――聴いていただきましたか。今日は朗読についてご紹介します。オープニングで朗読をしてくださったのは、本日のゲスト日本コトバの会の講師でコトバ表研究所を主宰なさいます渡辺先生です。おはようございます。よろしくお願いします。
渡辺 よろしくお願いします。
――いま小さい子どもの気持ちにもどって、もっと聴きたいと思いました。時間が限られているので申しわけありません。まず、朗読というのはどういうものですか? ひと言で言うと何でしょうか。
渡辺 朗読とはまず第一によむことです。声に出してよむことです。黙って読むのは黙読です。もうひとつ大事なのは、意味が分かってよむことです。よんでいる人も意味が分からなければならないし、聞いている人も意味が分からなくてはいけない。
――今の朗読には、お母さんのキツネと子どものキツネの声にいろいろな表情がついていますね。これにはテクニックは必要なのですか。
渡辺 文字を読んでしまう人がいます。字を読むひとや文を読む人がいます。また、台本のようによんでしまう人がいます。大事なのは作品なのです。だれかがしゃべっている調子でよむのです。そうすると表現して語る調子が出てきます。
――初めて朗読をする人に先生は何から教えてらっしゃるのですか?
渡辺 なにって?
――たとえば、私が朗読をやりたくて先生のところに行ったとします。そのとき、まずこれをしなさいというのは何でしょうか。
渡辺 「自分で意味が分かるようによみなさい」ということです。
――相手に伝えるときに……
渡辺 「相手に伝えるということは考えるな。自分が分からないものは相手に伝わらない」といいます。よんでいる瞬間、その都度、自分の中にイメージをわかしてよむのです。ですから、わたしは最初からでっかい声を出せということは言わないんです。「あなたは分かっているの」といいます。
――要するに、文章を目で追いかけるのではなくて、ちゃんと自分の気持ちに入っているかどうかですね。物語を選ぶのはどんな基準ですか。
渡辺 文章がいい作品のほうがよみやすいですね。
――文章がいい悪いというのは、初めての人には判断がむずかしいですね。
渡辺 ええ、一見して意味がとれないようなもののほうがやりがいがあります。それをほじくってよんでいくのです。オーラル・インタープリテーションというものがあります。つまり、声に出して文章の意味が分かることがよくありますね、むずかしい文章など。それが基本です。
――なるほど。
渡辺 だから、ちょっとちがいます、普通の朗読とわたしの考えとは。
――では、後半でも引き続きお話をうかがっていきます。

(休憩)

――オープン・セサミ、ブランド・ニュー・アイ。今日は朗読についてお送りしています。日本コトバの会の講師でコトバ表現研究所を主宰なさいます渡辺先生にお話をおうかがいしています。引き続きよろしくお願いします。
渡辺 よろしくお願いします。
――私ね、朗読って、思い出したんですけど、小さいときに母であったり、おじいちゃんであったり、よんでくれたってのがあるんですけど、そこから読んでもらうことがなかったのです。もちろん自分でよむのも大切ですが、朗読というのは昔とくらべて最近ではやられている人の数は多いのでしょうか。
渡辺 増えていますよね。目で読むよりも、自分自身が楽しいし、聴いている人も楽しいし、両方が楽しいからね。それで増えていると思います。
――若いかたも……
渡辺 若いかたは詩を読んだり、ポエトリー・リーディングというかたちですね。表現できますからね。学校でよむのは字面をよみなさいということで、字と漢字をよんでおわっちゃうけれど。表現できるのがおもしろい。ですから、わたしは朗読よりも「表現よみ」と言った方がいいと思っています。
――先生が朗読をしようと思ったきっかけは何だったのですか。
渡辺 わたしはもともと小説が好きで読んでいたのですが、声を出した方が小説がわかるなと思ったからです。
――たしかに、私の仕事がら原稿が出されますけれど、自分で声を出した方がはいりますものね。
渡辺 そうですね。また、小説の語り口という調子が声に出すことで確かめられます。歌でも楽譜をよんでもおもしろくないですね。
――歌ってみる。
渡辺 そうです。歌ってみる。それと同じです。
――生徒さんに教えてらっしゃって、朗読に向いている人、向いていない人というのはありますか。
渡辺 これには問題があります。自分が楽しむのか、人に聴かせるのかということです。自分が楽しむのだったら自分がよめばいいでしょう。それも朗読です。
――では、人を楽しませたいときに、先生がレッスンのなかで注意するのは何ですか。
渡辺 あのね、ウソをつかないことですね。つまり、自分の心に浮かんだ分だけ声に表現すればいい。心にもないのに大袈裟にいったらウソっぽく響くわけだから、まず自分が作品の中に入る。理解して自分がその気持ちになった分だけ声に出すのがいちばん大事です。
――声だけではなく気持ちがともなっていないとできないのですね。
渡辺 だから、読み込みが大事ということが言えます。
――初めてよむときは、先生に教わったり、生徒さんのなかでやるので恥ずかしさがあるでしょうね。
渡辺 ありますね。最初は恥ずかしいでしょう。大きい口をあけたり、ふだんとちがう言い方をしますからね。でも、作品の中にはいっちゃえば、恥ずかしさはなくなっちゃう。自分ではないのですから、「愛してます」なんて言っても、自分ではなく作品の中の人物が言っていると思えば、恥ずかしくなく言えますね。
――人の気持ちを、自分が代わって伝えるということでしょうかね。
渡辺 そうですね。
――朗読ってむずかしいことだと思います。書いた人や主人公の気持ちになって、言葉で発するわけですからね。コツというものはあるんですか。
渡辺 文章を正確によむことが大事ですね。そうしないで、目でパッと見て、単語に力を入れてみたりする。文章をよくよめば力の入れどころはわかるんです。意味を強めるところです。何度も繰り返してよみながら、表現までしていくということをすれば、うまくいく。
――読解力ですね。
渡辺 そうです。
――私も勉強しなくちゃ(笑)。先生のすすめられる初心者用の朗読本を教えてくださいますか。
渡辺 太宰治の書いた「思い出」という作品です。これは初心者でも気持ちがすっとはいれます。あとは、志賀直哉の作品、どれもよく文章が書けています。一見やさしいけれども読む込むと深い。わたしが好きでオススメするのは、梶井基次郎と中島敦の作品、これは文章がとてもどちらもすばらしい。味わえます。
――なるほどね。あっ、今日、先生に朗読していただいた作品を紹介するのを忘れていました。新美南吉「てぶくろを買いに」という作品でした。こちらを選んだポイントは何だったのでしょうか。
渡辺 やさしさですかね。自分が子どもにもなれるし、お母さんにもなれる。それがみなさんにどう伝わったかが問題ですけれど、やさしさがいいですね。
――十二月のこの気ぜわしい時期に、ほっとしたやさしい気持ちと、ちょうど雪も出てきましたし、時期に合ったのじゃないかな。先生はいろいろな講座を開いていらっしゃいますが、地方講演などはなさるのですか。
渡辺 お呼びが掛かればどこへでも出かけますよ。来年は福島へ行くかなという予定があります。わたしのグループで朗読劇的なものをやろうかという話が出ています。まだ固まっていません。
――決まったら、このオープンセサミでもお知らせしたいと思います。では、最後に朗読に関するアドバイスをお願いします。
渡辺 簡単なことです。頭を使ってよみましょう。カラダでよむ朗読が最近、流行っていますが、カラダにプラスして頭が必要です。読解も必要だし、作品を読み込むことは理解することです。理解が表現になったときに、ウソをつかない本物の朗読ができるかと思います。
――渡辺先生の前で私が朗読したら、「この子はこんなことを考えているな」って、性格分析までされちゃいそうですね(笑)。では、みなさんもぜひ朗読にチャレンジしてみてください。今日は日本コトバの会の講師でコトバ表研究所を主宰なさいます渡辺先生に朗読、教えていただきました。ありがとうございました。
渡辺 ありがとうございました。
――しゃべるのに、緊張しました。それでは、こちらの曲を聴いていただきます。
(了)