『 座敷ぼっこ』

座敷ぼっこ

戦争が激しくなりだした夏、小学6年生だった僕は疎開先の田舎の小学校に通っていた・・・。


 
  「安藤」・・「はい」
  「井上」・・「はい」
  「上田」・・「はい」
  2学期が始まり、定年間近の老教師が出席をとっている。

  「山田」・・「はい」
  「渡辺」・・「はい」
  全員の名前を呼び終えて、先生はしばらく考えていた。

  「おかしいな・・・」
  「何がおかしいんですか? 先生」すぐに学級委員が質問する。
  「確かこのクラスは35人だと思ったのに、今は36人になってるんだ」
  ザワザワとみんなの声がする。
  「誰か転校して来たのですか?」
  「いや・・そう言う話は聞いていない」
  教室の中はさらにザワザワと騒がしくなった。

  「これは座敷ぼっこの仕業かも知れないな・・」
  「先生。座敷ぼっこってなんですか?」学級委員はまた質問する。
  「先生が子供の頃の事だけどな。友達と遊んでいると いつの間にか1人増えてるんだ」
  「誰も気づかないんですか?」
  「そうだ。確かめると最初から居た子ばかりなんだ」
  「みんなの思い違いじゃ・・?」
  「いや、確かに増えている。だけど誰が増えたのか誰もわからない・・」
  「そんな馬鹿な事・・」
  「そのうち誰かが 座敷ぼっこが来た、って話すんだよ」

座敷ぼっこ


( 何を言ってるんだ。これだから田舎の学校はいやなんだ・・ )
僕はのんびりと話す老教師と それを信じる田舎の子供にうんざりしていた・・。