2000年6月のお仕事日記(下)
6月18日 キリのいい数字
今日は夜からのご出勤。
25年にもわたって、原発建設の是非をめぐっての議論が続けられている奥能登・珠洲の市長選挙がある。
私はなんとなく、ホントに、なんとな〜く、原発に反対だ。
かといって、節約とはまったく無縁で、電気も水もじゃんじゃん使う。
家中ありったけの電灯やらテレビやらステレオやらのスイッチを入れて、シャワーもずっと流しっぱなし。
もちろん、歯磨き中は蛇口全開。節約家の人や、エコロジーな人々は怒るんだろうなぁ。
それでも、そんなこと気にせずに、何となく幸せな気になって暮らしていけるこのクニが、嫌いじゃない。
でも、原発の近くって住みたくないよなぁ・・・その程度だ。
で、そんなこんなを考えているうちに、原発推進派の市長が誕生した。
それはそれでいいのだが、いかんせん数が怪しい。
当選候補9300票、落選候補6690票、で、無効票が100票。
どこの選挙でも、こんなにキリのいい数字って見たことないよなぁ。
だれか、握ってポイ、とかやってんじゃないのー?
何と言っても市幹部を中心に不正選挙をやってのけた町での選挙である。
大いなる偏見だと前置きしてあえて言うが、私は田舎の人間の選挙を信じることができない。
あれ?こんなこというと、民主主義を否定することになるか。
なんかおかしいな、私の言うこと。
6月21日 こっちのみーずはあーまいの?
仕事ができない奴は嫌いだ。
仕事しない奴も嫌いだ。
我が職場にはもっとやな奴がいる。
しゃべればしゃべるほど、頭の悪さをさらすのに、そのことにすら気付かないで、延々大声でしゃべっている。
そんな奴の顔を見るのがイヤになると、私は昼から酒を飲む。
ビールもいいが、ワインもいい。
少ししつこいくらいのソースがかかったパスタなんか食いながら、溜まった愚痴を赤いワインで流し込む。
けっ、なんて気障なのかしら私って、と気付いた頃に昼休みは終わる。
私は再び現実に引き戻される。
息が詰まる。
でもね、息が詰まるのは、さっき飲んだ酒のせいなんだよ。
そう言い聞かせるために、私は昼から酒を飲む。
6月22日 素人娘の投票行動(2) 伝統
ちょっと気になる人がいて。
って、選挙の候補者なんだけどさ。
いい奴なのか、やな奴なのか、明るいのか、暗いのか、わかってんだか、わかってないんだか。
さっぱりもって分からないので、一度会いたいと思っていたら、ミニ集会をやるという電話が。
たまたま家出先から帰っていたところで、なんてラッキー、と、いそいそ出掛けてみた。
しかし、本人が来てないじゃないの、まったくぅ。会いたかったのに。
町の集会所には近所の人たち20人がご参集。
「お世話になったから」「お父さんが立派だったから」。
候補者本人よりも、死んだ親父の思い出話が口々に語られる。
私はこの候補者に投票することを決めてはいたが、ここにいる人たちとの考えのギャップに悩んだ。
選挙運動、そして政治家選びは想像以上に古いもの。
選挙はあと数日で終わる。
しかし、この「伝統」との闘いはこれから始まる。
虎穴に入らずんば虎児を得ず。
明日は総決起大会。見に行っちゃおーっと。
6月23日 素人娘の投票行動(3) 祭り
で、総決起大会。
知り合いの議員さんにちょいと挨拶して、会場入り。
取材陣についていったモンだから、思いがけず一番前で見ることに。
うーん、なんだかわかんないけど、すごい熱気だぞ、これって。
しかし、見るからにちぐはぐ感が拭えない集会。
細川のお殿様がペンで記者を指しながら会見した、あの頃の幻想から脱皮していないような、
はたまた、もっと以前の選挙戦を思い描いているかのような。
やっぱり、私の思っていることとちがーう。なんでだろ、なんだろな、なんじゃらほい。
虎穴に入った成果はあまり得られなかったけど、とにかく選挙はお祭りだ、ということだけはわかった。
お祭り好きとしては、楽しいお祭りにするための労力は惜しみたくない、と思う。
候補者本人は遠いところにいて、今日も「会え」なかった。
たぶん私はいま、彼に恋をしている。
6月24日 素人娘の投票行動(4) 恋い焦がれて
友人と19時に待ち合わせているので、その前に不在者投票に行こうと出掛ける。
市役所までの通り道に職場があるので寄ってみたら、同僚がやり残した仕事をさせられる羽目に。
他人のミスで自分の予定が狂うほど苛立つことはない。
つながらないケータイと見つからないファイルに苛つく心を抑えて仕事を終えたのが18時55分。投票に向かった。
すると、向こうからたすきを掛けた男が歩いてくるじゃぁないの。
目が合って、引き寄せられるように握手をして、「がんばって」「ありがとう」と言葉を交わした。
政治とはほど遠いところにいる子供のように、柔らかくて暖かい手のひらの感触。
ずっと前から会いたかった、という錯覚。やっとめぐり逢えた、という大いなる勘違い。
そして私は彼の勝利を確信した。根拠はない。
ただ、私は自分自身の強運だけを信じた。
6月25日 素人娘の投票行動(完) 愚かなる選択
贔屓の候補は、小選挙区で落選した後、比例で復活当選を果たした。
ってことは、私の強運は、そんなレベル、ということか。
ベストではないが、まんざら悪くもない結果をもたらす程度の運。
運も実力のうち、というから、我が人生において、多少のプラス材料ではあるが、
裏返せば、それだけではベストの結果が得られない、ということでもあるな。
要するに、努力しろ、ってことか。しょうがねーな。
それはそうと、全国で自民の得票率がトップだったここの県民って、いったい何者?
不景気って、何が不景気なんだよ、デパートなんか毎週末混み混みじゃん。
自民政権に再びのバブルを夢見たのか、はたまた首相のお膝元だからなのか、
それとも口のうまいタレントが立候補してたから?
いずれにせよ、この街を愛する私にとって、この結果は恥以外の何物でもない。
6月26日 踊り疲れた阿呆
「選挙は祭りだ」
職場ではそう言われている。
踊る阿呆に見る阿呆、というやつだな。
ふつうなら、踊ってりゃそれだけで済むのだが、踊りながら見物するのは結構厄介だ。
常々体調は悪かったが、どっと疲れが襲ってきて起きられなくなった。
早朝4時半ごろに帰宅した後、ばたんきゅー(懐かしいやろ)で眠りに落ち、目覚めは夕方6時過ぎ。
ふと童話「あかいくつ」を思い出す。
よくは覚えていないけど、赤い靴はいて踊ってばかりいたら、そのうちその靴が脱げなくなって、
人の葬式にも赤い靴で出かけることになって云々、とかいう話だったよな。
あれって、何をどう教訓にしろというのだろう。
考えようとしたが、ストーリーが思い出せないので、やめてしまった。
6月28日 食い倒れ番外編
たまには犬の顔でも見に行こうかと、実家に帰る。
夕飯時に母親に何が食べたいかと聞かれ、鶏の挽肉と牛蒡と人参とキクラゲの煮物をオーダー。
いくら外食好きといっても、店ではどうやっても食べられない名もなき料理でたまらなく旨い。
ついでに出てきた豚の生姜焼きも、店とは違う厚切り肉で、これまた美味。
ただ、滞在中に誰とも目を合わさぬまま、帰ってきたような気がする。
目を見て会話したのは、柴犬の「さくら」ぐらいか。あいつは私の分身だ。