ジュニア版 神社仏閣ミニ辞典             P 5
        ー入門篇・仏教の部ー 
                                                  参考文献:仏教入門(藤井正治)・仏教(渡辺照宏)
                                                         仏教経典選(筑摩書房)・お経(講談社)

 

・・・経典について・・・


 経典(お経)とは
 

 釈尊の教えを集めたものを経蔵といい、戒律に関するものを集めたものを律蔵、教えの解説を集めたものを論蔵といいこれらを合わせて三蔵(*1といい広い意味のお経で一切経とか大蔵経ともいいます。
 
 このほか経蔵のみを経典という場合もあり「般若心経」や「法華経」などの個別の経典をお経ということもあります。
(*1西遊記で有名な玄奘を三蔵法師と言っていますが、これは三蔵に通ずる高僧と言う意味です。インドから三蔵を持ち帰ったからとも云われています。
 

 経典の成立
 
 釈尊が入滅後してからおよそ200年後(紀元前二世紀頃)第三回の結集(*1‐2)が行われこの時はじめて経・律・論の三蔵の原型が出来上がったとされています。
 ただしまだ依然として口伝口誦によるもので経典が始めて文字に書かれたのは紀元前一世紀から紀元前後と言われています。

 現存する経典を成立した順序によって分けると原始経典、大乗経典、密教経典となります。


(*1‐2)結集(けつじゅう)
 編集のことですが,文字で書き残すのではなく、教えについては十大弟子のひとりのアーナンダ(多聞第一と云われた)が、戒律についてはウバリー(持律第一と云われた)がそれぞれの記憶によって朗誦し、それを出席者一同が吟味、異議がなければ全員で合誦し各自の記憶の中にとどめたものを口誦により伝えていったのです。
 

 原 始 経 典

 原始経典は紀元前一世紀ころから数世紀にわたり逐次成立したものでパーリ語(古代西北インド地方の俗語)の経典(南伝大蔵経)とこれに相当する漢訳(阿含経)が主なものです。

 両者を対比してみますと

   
南伝大蔵経  

  
 阿 含 経
   

 
収録内容・方法

 
 長   部
 
 長 阿 含
 
 長大な経典を収録        
 中   部  中 阿 含  
 中くらいの長さの経典を収録
 相 応 部  雑 阿 含  
 ふさわしい内容ごとに収録
 増 支 部  増 一 阿 含  
 数字を基準に分類収録
 小   部  ・・・・・・・・・・・・  
 15の経典から構成されている

  となりますが収録経典の内容には若干の違いもあります。
 
 長   部
・・・・・代表的な経典に「シンガーラの教え」があります。
      これは長阿含では「六法礼経」と呼ばれています
(*2)
 
 中   部
・・・・・著名な経典として「摩羅迦小経」が編集されてい
      ます。中阿含では「箭喩経」と呼ばれています。箭とは
      矢のことで、「毒矢の喩」
(*3)として知られています。

 
相 応 部・・・・・耕田、末利(マツリカー)、芥子粒などの経典が
      編集されています。
(*4)

 増 支 部・・・・・第三集に「比丘(僧侶)たちよ。三支(支=項目)を
      成就する友とは親しむがよい。与えがたきをよく与え
      (布施)為しがたきをよく為し(持成)、忍びがたきをよく
      忍ぶもの(忍辱)、これすなわち三支なり」と説いていま
      す。

 小   部
          
@法句経(ダンマ・パダ)・・・・・ダンマとは真理、パダは
       ことば と言う意味で「真理のことば」とも訳され、世界
       的に最も広く親しまれている経典と言われています。
       いくつかを次に紹介します。

        ・デーガーブ王子物語=怨みは怨みを抱くその日ま
        で止むものではない。怨みは怨みをすててこそ止
        む。(5句)
(*4の2)

        ・己に勝つ=戦いで百万の敵に勝つよりも、一人の
         己に勝つ者こそ、最上の戦勝者ならん。(103句)

        ・身から出た錆=鉄より生まれし錆が、鉄より生じて
         鉄を損なうごとく、罪なす者は己がなす業ゆえに、
         地獄に陥る。(240句)

      A経集(スッタ・ニパータ)・・・・・スッタとは経、ニパータと
       は集めるの意味で長短種々の詩句を集めたものです
       次にいくつかを紹介します。

       ・第一章 蛇の章から
            「あたかも母が己が子を身に替え守るがごとく
             一切の生きとし生けるものに対して、無量
            (限りない)の慈悲心を起こすべし。(149句)

       ・第四章 八つの詩句の章から
            「人びとは、我がものと執着せしもののために
             憂う。自己(おのれ)の所有せしものは、い
             かなるものといえども常住にあらず、この世
            のものはすべて変滅する。」(805句) 

      B本生経(ジャータカ)・・・・・ジャータカとは「本生経」とか
       「本生話」とか訳され主として釈尊の前世物語です。
        釈尊が現世において仏陀となられたのは、無数の
       過去世において、あらゆる善行と功徳を積んだからと
       いう考え方から、当時民間に流布していた興味深い
       伝説や寓話を利用してつくられたと言われており雪山
       童子物語(*5)や貧女の一灯(*6)など547の物語が
       収められています。


 新年の読経(田村仁・仏陀の風景)


(*2)シンガーラの教え(六方礼経)
 ラージャゲリハに住む長者の息子シンガーラに対して父母、先生、妻、友人、聖職者、使用人に対して奉仕すべき事柄を説いています。

(*3)毒矢の喩(たとえ)
 煩悩から抜け出すための修行をしないで解決不能の論議(人間は死後も存在するか否かなど)に固執することの誤りを毒矢にたとえて諭されています。

(*4)
 耕田・・・1人の農耕中のバラモンに対し説法が農耕に劣らないものであることを説いたものです。
 末利・・・コーサラ王国の王妃末利に対し相手の立場に立ってものごとを考えることを教えています。
 芥子粒・・・死者の出ない家から芥子粒一つを持ってくるように云って悲しみを味わっているのは自分だけでないことを諭されました。

(*4の2)
 第二次世界大戦後、日本の戦争犯罪者に対する国際裁判が開かれた時に、セイロンの代表がこの句を引用して、全員無罪を主張されたことは、有名です。

(*5)雪山童子物語
 釈尊が菩薩時代ヒマラヤ山中で修行中に諸行無常を謳った偈(げ=仏やその教えを譖えた詩句)の前半が聞こえてきたので、その歌の主が人を悪鬼であることを知りながら、後半の偈を聞きたいばっかりに一身を投げ出したという物語で法隆寺の玉虫厨子の台座に描かれている右側の絵が「施身聞偈」左側が「捨身飼虎」の図とされています。




玉虫厨子施身聞偈図
  (法隆寺・国宝)

(*6)貧女の一灯
 仏の供養のためにさしだした貧しく信心深い老婆の小さな一本の灯明が長者のだした大きな灯明が消えても、なかなか消えなかったという話で「貧者の一灯」という諺はここからきているようです。


 

 

 大 乗 経 典

 



















 

 
  
(般若心経)


 大 乗 経 典は紀元前後から5〜6世紀にかけて成立したもので原始仏典が現実の描写をを建前として教訓的実際的であるのに対して、日常経験を超越した瞑想の描写が多く、多岐多様にわたっています。以下に代表的な経典を紹介します。

 般若経・・・般若経とは単一の経典の名称ではなく膨大な般若経
       典群の総称で量の大小によって大別すると次のよう
       になります。

      短い詩頌形のもの・・・・般若波羅密多心経(般若心経)
                    金剛般若波羅密経 (金剛経)
      八千頌
(*7)・・・・小品般若経(小品)、道行般若経

      二万五千・・・・大品般若経(大品)、光讃般若経、
                放光般若経   
  
      十万頌
・・・・大般若波羅密多経(大般若)

  (1)般若心経(般若波羅密多心経)
       我が国ではもっとも知れ渡っている経典ですが、この
       世のすべてのものに絶対的なものはないのでそのこ
       とをよく知り、こだわりの心を捨てた時に人の苦は無
       くなることを繰り返し説いています。(詳細は
こちら

  (2)金剛経(金剛般若波羅密経)
       昔から般若心経や法華経とともに多くの人びとに信仰
       され読まれてきた経典ですが、代表的な教えに執わ
       れのない心
(*8)や悪業の消滅(*9)といわれるもの
       があります。
  

 華厳経・・・華厳宗の根本となっている経典で大別すると、釈尊
       の悟りの世界を説いた「毘廬遮那品」と菩薩が仏の境
       地に向かって進みゆく過程を説いた「十地品」と本経
       の教えを実際に体得させるために善財童子の求道物
       語として説いた「入法界品」に分けられます。

   「毘廬遮那品(章)」
・・・すべての世界は、限りない因縁によっ
            てなりたっている。それはわれわれが現実に
            経験する世界(事法界)だけでなく、目に見え
            ない真理の世界(理法界)も同様で、この二
            つの世界もお互い関連しあった縁起の世界
            であり、さらに 「一即一切・一切即一」
(*10)
               
の世界観が説かれています。            

   「十地品(章)」・・・十地とは十の境地という意味で菩薩の境
            地から仏の境地へ進む過程を十段階にわけ
            て説いています。

   「入法界品(章)」・・・求道心にもえた少年の善財が文殊菩薩
            の指導に従って諸国行脚の旅に出て、その
            間に53人の善知識(良き指導者)によって、
            最後に普賢菩薩のもとで法界(理想の境地)
            に達するという物語で、日本の東海道五十三
            次もこの物語に由来しているといわれます。
  
 維摩経
・・・ヴァイシャリーに住む維摩(詰)という在家信者と智慧
       第一といわれた文殊菩薩を主人公とした物語風の経
       典で、長者でありながら救世主のごとく尊敬された維
       摩を大乗仏教の理想として描いています。
        その中の「入不二法門品(章)」では釈尊の教えを言
       葉だけで理解しようとする誤りを”沈黙”によって説い
       ています。[維摩の一沈黙雷のごとし]とはこのことを
       指したものです。

 勝鬘経(しょうまんぎょう)・・・アヨーディーヤ国の王妃である勝
       鬘夫人が釈尊に対し、釈尊の説かんとするところを逆
       に説法し、それに対して釈尊がいちいち肯かれるとい
       う構成になっています。「釈迦に説法」とはここから来
       ているようです。
        経典では修行者の求める願いは「摂受正法」
(*11)
        
であり、真実の教え(大乗の教え)を究め、悟りに達す
       ることができるのは、各人に備わった”如来像の働き”
       であること=如来像思想=
(*12)を説いています。
 
 
 
法華経・・・詳しくは「妙法蓮華経」といい二十八品(章)から成り
       立っていますが三部門に分けて説明されています。

   ・第一部門(第1章〜第10章)
       従来釈尊の教えには声聞乗・縁覚乗・菩薩乗の三乗
       
(*12−2)があるとされて来ましたが、ここでは三乗の
       教えは仮の教えで本当の教えはこれらを総合統一し
       た「一乗の妙法」のみであるとして三車火宅の譬
(*
         13)
で説明しています。
  

   ・第二部門(第11章〜第20章)
       仏の命は永遠であるとする
久遠本仏思想(歴史上
       の釈尊は本来は永遠なる仏であるという思想)が説か
       れています。この思想は仏の寿命は時間的・空間的
       な制約を超えていて、無限の過去から無限の未来に
       至るまで、ありとあらゆるところで教えを説きつづけ人
       々を救ってくださるという考え方です。

   ・第三部門(第21章〜第28章)
       法華経の功徳や効能を強調した部門で、なかでも観
       音菩薩が人々の苦難を救い、願いをかなえて悟りへ
       導いてくれることを説いた第25章は古くから独立した
       「観音経」として広く親しまれています。

 浄土三部経・・・阿弥陀信仰にいう阿弥陀仏の住む西方極楽浄
       土を主題としたのが「無量寿経」・「阿弥陀経」・「観無
       量寿経」の三経で浄土三部経といわれています。

  (1)無量寿経(大経)
       阿弥陀仏がまだ法蔵菩薩という修行者であったとき、
       人々を救済のため48の誓いをたて、これが完全に実
       現できるまでは、たとえ仏になれる状態にあったとして
       も仏にはならないとの願をかけ、一層の修行の後遂
       に理想の浄土を建設し、「阿弥陀仏」になったという仏
       の慈悲
(*14)を記しています。
        そして極楽浄土の素晴らしさとそこに行くにはいか
       に修行すべきかを説いています。

  (2)阿弥陀経(小経)
       主な内容は @極楽浄土が如何に素晴らしく荘厳き
         わまりない仏国土(仏の住む世界)であるか、しか
         もそこには無限の光と命をもった阿弥陀がおられ
         ること。  A阿弥陀仏の名号
(*15)を聞いて一心
         不乱に念仏を唱えると、臨終の時来迎によって必
         ず仏国土に往生することができること。
         B釈尊だけでなく六方(東・南・西・北・下・上)の諸
         仏もこぞって称賛する阿弥陀仏を信じること。 そし
         て最後にこの経典を賛美して結んでいます。

  (3)観無量寿経(観経)
       マガタ国のビンビザーラ王お妃である韋提希夫人に
       対して釈尊が極楽浄土に生まれる方法として三福
       
(*16)と十六観といはれる十六の観想(瞑想)方法
       
(*17)を説いています。


(*7)頌
 インドでは詩の一節にあたる32音節を単位として頌と名づけこれを使って文章の量を示しています。

(*8)執われのない心
 修行者の心には執われや計らいがあってはならない。執われの心を起こすことは即ち迷いであり、何ものにも執着心をもってはならないと説かれています

(*9)悪業の消滅
 金剛経を人々に説いて聞かせても人々から軽蔑されるかも知れないが、それにより前世の悪業を消滅させ、悟りへと導いてくれることが説かれています

(*10)一即一切・一切即一
 全体の中に個があり個の中に全体があることがわかった時に、この世の実相を誤りなく把握できるという教えで奈良の大仏の台座の蓮華の花びらに描かれた仏を中心に囲んでいる菩薩が全体と個の関係をあらわしているといわれます。

(*11)摂受正法
 真実の教えを受けいれ身につけることで、真実の教えとは”大乗の教え”であり、大乗のみが唯一の真理であるとしています

(*12)如来像思想
 人はだれでも、悟りを開き、仏陀になる可能性をもっているという考え。

(*12−2)三乗
声聞乗・・・釈尊から直接説法
 を聞いて悟りを開くという教え

縁覚乗・・・他からの教えによら
 づ自ら、自分だけの悟りを開く
 教え

菩薩乗・・・六波羅密の修行に
 より誰でも菩薩になれるという
 教え
 

(*13)三車火宅の譬
 火事になっても遊びに夢中になっている子供に日頃欲しがっていた玩具(羊の車・鹿の車・牛の車)が外にあるからと云って外に避難させたところで一人一人に立派な大白牛車を与えたという話で玩具を三乗、大白牛舎を一乗に譬えたものです



 仏典の整理(帝国書院・仏教の世界)






 高麗版大蔵経の版木
(仏教入門・松尾剛次)

(*14)慈悲
 人々を苦悩から救い安穏自由な境地に導くこと







(*15)名号
 称号のことでこれを聞いたり唱えたりすると大変な功徳があるとされます。

(*16)三福
 三善ともいわれ、世福・戒福・行福の三つをいいます。
 世福とは父母に孝養をつくすなど10種の善行を行うこと。
 戒福とは仏法僧の三宝に帰依し戒律をまもること。
 行福とは悟りに向かうという誓いをたて修行すること。

(*17)十六の観想
 はじめの十三は日没の瞑想からはじめて極楽世界や阿弥陀仏の瞑想など、あとの三つは浄土への行きかたを説いています。


阿弥陀聖衆来迎図
(有志八幡十八箇院蔵)


 

 

 密教経典
 
 密教経典は三世紀頃から大乗経典に部分的に陀羅尼(真言) =呪文、として取り入れられ、それが五世紀になって始めて呪法 だけを説く独立の法典(孔雀明王経)として成立しました。
 その後代表的な密教経典といわれる大日経は七世紀半ば西南インドで、金剛頂経は七世紀末東南インドで成立しています。

 大日経・・・大日如来はその弟子金剛菩埵の問いに対し、菩提
     心(悟りを求める心)・大悲(大いなる慈悲=人々を苦悩
     から救い安穏自由な境地にみちびくこと)・方便(実行に
     移す方法)により悟りに至ると説いています。
      また悟りとは、ありのままの真の己の心を知ること、そ
     の結果人はみな次第に道徳的になり、さらに高められて
     宗教的立場に向かい、最終には密教的立場にいたる、と
     しています。

 金剛頂経・・・大日経で示された菩提心を実践するための修行
     法として「五相成身観」(さとりに至る五段階の瞑想方法)
     が説かれています。
      この修行法によって悟りに入っていく境地を図示したの
     が「金剛界曼荼羅」で、大日経に基づく「胎蔵界曼荼羅」
     は仏の大悲がいかに人々に及んでいるかを示したもので
     この二つを合わせて「両部曼荼羅」といいます。

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 金剛界曼荼羅(金沢文庫・密教美術とマンダラ)


 胎蔵界曼荼羅(金沢文庫・密教美術とマンダラ)


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