「改革ガイドライン」ではなく            
市立病院の公的医療責任を守ろう


 甲府市議会3月定例議会 代表質問 山田 厚

                2009年3月5日

         

1 問題がある「公立病院改革ガイドラン」

 について


 

●総務省は2007年に「公立病院改革ガイドライン」という通達を出しました。この通達には困ったものです。市民の健康や公共の福祉という視点がなく、採算性から自治体病院の統廃合、縮小や経営形態の見直しをせまり、とにかく国の医療費支出を削減させようというものです。
 
それを各自治体病院の「改革プラン」にいれさせ、この3月までにその一定の実効性を求めています。

●これを自治体が、従順にまた機械的に、言うことを聞いていたら、大変なことになります。
 給与の引き下げ、業務の過密多忙化などによる病院職員へのしわ寄せ。不採算な診療科目の休診、病床数の削減、差額ベッドなどで患者泣かせがはじまります。さらには、独立行政法人化、民間譲渡や病院の廃止、までもが目指されてしまいます。
 また、自治体病院でのさまざまな改悪は、全国の民間病院・診療所の医療環境の悪化にもつながります。

●このような、いのちと健康に直接関係する重大問題に対して、なんで、厚生労働省ではなく、総務省からの指示なのかも、まったく理解できません。

●そもそも『改革ガイドライン』とは「通達」です。「通達」とは行政の運用と事務上では意味があるものですが、法令ではありません。

 総務省も公的には「改革ガイドラインは強制ではない」としていますし、鳩山邦夫総務相も国会答弁で「技術的な助言、単なる指針だ」と答弁しています。

 

●しかし山梨の県立病院の議論とその結論を見ても、「経営形態の見直し」から入り、「官から民へ」の「独立行政法人化をどうするか?」で、終始しています。あきらかに「改革ガイドラン」に半ば強制されたような議論の入り方と結論だったといえます? 

今後の甲府市自主的な基本的な見解について

今後の予定をお聞きします

@ 市立病院をもち、市民の健康といのちに責任をもつ甲府市として「改革ガイドライン」について、基本的にどのように考えておられますか?
 また今後、どのように自主的に対応していくのかをお聞きします。

市長答弁

:急激な少子・高齢化の進行や疾病構造の変化などにより、医療を取り巻く環境が急激に変化するなか、本市においては、平成11年度、新病院を開院し、小児・周産期医療や救急医療などの政策医療にも積極的に取り組み、その責務を果たしてまいりましたが、その後、厳しい医療環境の下、高度で良質な医療の提供と健全な経営の両立に取り組むことが喫緊の課題となってまいりました。

このため、平成16年度に設置した、「市立甲府病院経営協議会」から提言を得る中で、「市立甲府病院経営改善計画」を策定し、病院経営の改善に努めてまいりましたが、大幅な医療制度の改革と深刻な医師不足などにより、病院の経営状況は更に悪化し、一層の改善が必要となっております。

このような状況の下、「公立病院改革ガイドライン」の指針の基づき、病院事業を経営する自治体は「改革プラン」の策定を進めておりますが、全国の公立病院は、その地域性や医療機能が異なるため、甲府市立病院に最も適した「改革プラン」を策定してまいります。

いずれにしましても、新たに設置した「市立甲府病院経営協議会」からのご助言、ご提言をもとに、引き続き、地域医療の確保のため、公立病院としての役割を果たすとともに、効率的で健全な経営基盤の確立が図れるよう努めてまいります

2 市立病院の経営上の健全性について

●自治体病院の目的とは、地方公営企業法によると「経済性を発揮するとともに、その本来の目的である公共の福祉を増進するように運営されなければならい」としています。

 つまり、
「本来の目的」とは「公共の福祉を増進」することです。そのための「経済性」ですが、最近の病院経営の困難さは、病院自体の責任ではありません。主な責任は国の医療政策にあります。

●まず、市立病院の場合も同じですが、全国の病院の外来・入院
患者数が減少しています。病院収入の基本は、患者からの診療収入です。患者が病院にこなければ当然、収入は減ります。

●それでは、今の日本人は健康で受診は必要ないのでしょうか? 逆です。 

 国民の病気などの自覚症状のある人の割合である有訴者率は、3人に1人となり、かなり増えています。 働いている方の全国の定期健康診断結果でも健康不良の割合である有所見率は2人に1人であり、激増しています。
 さらには、急速な高齢化社会です。高齢化社会は、それだけより医療を必要とします。

●ではなぜ、患者が減るのか? 私は、市民に受診抑制傾向があるからだと思います。国によるこの間の患者負担の引き上げが生活を圧迫しています。

 また、この時期には所得が少なくされ、格差と貧困が進みました。そこで2002年度頃を転機に病院の患者が減少しはじめているのです。

●また診療報酬マイナス改定がありました。診療報酬とは保険医療の報酬です。厚生労働省の告示によって改定されるものです。

 この医療収入の基本である診療報酬が、小泉改革の時期に激しく下がりました。

1997年度の診療報酬を100%とすると今年度までの引き下げ率は91.49%となりました。つまり、かつて診療による1万円の収入があったものが、同じ診療でも今では9149円の収入にしかならないのです。官民を問わず、どの病院もその経営を悪化せざるをえません。

●また、小泉改革の中で、各自治体病院への国庫補助金の打ち切りも激しいものでした。 同時に、自治体病院への地方交付税の算定も著しく減額されてきました。

●たとえば、基本である1病床当たりの単価が、毎年下げられ、10年前は1ベッド当たり71万円であったものが、今では48万円にされ33%も減額されています。

県の市町村自治体病院への財政援助も微々たるものです。地域の病院は、その自治体の市町村民だけが利用するものではありません。近隣全体の住民が必要とします。したがって、県は県立病院のみを考えていればいいのではなく、市町村の自治体病院への援助を、忘れてはならないはずです。

1)病院会計の現状と病院会計への一般会計からの援助について

●また、自治体は、地域医療の要である自らの自治体病院を財政的に支える責任があります。そのため各自治体の基本会計である一般会計から、病院会計への繰出金があります。

●この繰出金とは、病院会計の赤字補填ということではありません。

 自治体病院が担っているさまざまな不採算医療は、診療報酬が正しく反映されていない状態が多く、また、ここでの診療報酬の大幅な引き上げだけでは、患者負担の増大となってしまいます。
 それだけに一般会計からの繰出金は不可欠です。この繰出金は、あの総務省の「繰出基準」を基に病院の状態から各自治体が判断するものです。

●ところで、甲府市の一般会計から病院会計への繰出金が、繰出基準より約2億円も少なくなっています。私は、この減額はおかしいと思います。

2)差額ベッドなどの増床・増額などの患者負担の抑制について

今、全国の病院では、次々に差額ベッドが広げられています。引き金は国立病院及び大学病院の差額ベッドです。それまで病床数の20%以下に制限されていたものが、独立法人化し規制緩和され、差額ベッド数の制限が50%以下にまで広げられました。その料金も高額です。

●私は、県立病院も独立行政法人化することによって、今後、差額ベッドを増やし。使用料も高額になるのではないかと危惧しています。

 市立甲府病院の場合、現在、差額ベッドは全体ベッド数の18%で、使用料はいまのところそれほど高額ではないと感じていますが、しかし今後、周りの影響も含めてどうなるのか心配です。

 

質問します

@ 市立甲府病院の場合、2008年度までの3年間で同じ診療をしたとして、診療報酬のマイナス改定による影響額は、おおよそいくらになるのか? お教えください。

A また、市立病院への国庫補助金と、県からの交付金などはいくらになりますか? 
さらに地方交付税の市立病院への算定額はいくらとされているのか? 2008年度でお教えください。

B 病院経営がいままでになく苦しいときに、どうして一般会計の繰出金額が基準額より少ないのか? 理解できません。説明をおねがいます。

C 患者泣かせである差額ベッドを増やし使用料を高額化することは、ぜひとも避けるべきですが、いかがお考えでしょうか?


病院事務局長答弁

診療報酬改定につきましては、保険財政の状況や、物価・賃金等の経済動向、さらに、全国の医療機関の収支状況等を踏まえ、初診料、入院基本料及び手術費等の診療報酬本体と、薬剤や診療材料などの薬価等に関して、2年に一度、行われております。

全体の改定率につきましては、平成18年度において、マイナス3.16%、平成20年度において、マイナス0.82%であり、これに伴う影響額は、3年間で、1億7,000万円程になると見込まれます

病院事務局長答弁:

平成20年度の国・県からの補助金は、院内保育所運営費補助金、感染症指定医療機関運営費補助金など、1,100万円余が見込まれ、地方交付税は、普通交付税の基準財政需要額への算入額5億4,900万円程と、特別交付税への措置額2,800万円程で、5億7,700円程が見込まれます。

また、平成20年度の一般会計からの繰入金につきましては、総務省の繰出基準に基づく繰入額を算定しますと16億900万円余となりますが、自らの経営努力により、14億5,000万円の繰入金を見込んでおります。

病院事務局長答弁

市立甲府病院においては、これまで、相談窓口の充実、給食業務の委託化、助産師外来の開設、更には「患者満足度調査」を行うなど、患者サービスの向上に努めてまいりました。

当院の差額ベッド数は71床であり、利用状況については、平成19年度58.3パーセント、平成20年度1月末現在で45.8パーセントとなっております。

今後、差額ベッドの利用状況や患者様の意向調査を行うなかで検討してまいりました。

3 市立甲府病院の公的責任について

1)患者負担への安心安全な医療と

医療従事者の勤務状態・福利厚生の充実について

●「手術をしてまだ胸のガーゼが染みているのに、退院させられ、家には自分しかいないのに・・・退院後が大変だった」こういった話は、よく聞くようになってきました。

●国はこの間、「入院の短縮が医療費の削減となる」として、より入院の短縮を強調してきました。そして、入院が長くなると診療報酬を引き下げ、入院期間つまり平均在院日数の短縮にむけ、強い財政指導を行ってきました。

●入院の無理な短縮は、患者にさまざまな負担を与え、安心できる術後・病後ともいえなくなります。

●病院経営にとってみても、無理に急いで入院患者を退院させても、入院待ちの患者が絶えずいない限り、たいていは空きベッド状態が多くなり、病床利用率の低下をまねき、当然、収入を押し下げることにもなります。

●政府は入院を短縮させ、今度は病床利用率の低下を問題にしてきています。病床利用率が低い場合は「改革ガイドライン」によると、ペナルテイとして病院への地方交付税の削減を行うとしています。また病床の削減や診療所にすることも求めています。

●もっとも日本の病院全体が、国の指導にそのまま従って入院を短縮し、それによって病床利用率を低下させているわけではありません。

 国に、とにかく従順なのは公立病院であり、特に自治体病院です。民間である医療法人の病院では、ほとんど短縮していません。

市立病院の場合、10年間で平均在院日数は10日間も短くなっています。これは、全国の自治体病院の平均より、かなり短いものであり、同時に、病床利用率も収入も下がります。私は、行き過ぎはないのか?とこの短縮に心配しています。

 

●また、入院の短縮化で、特に心配なのは、医療職員への影響です。勤務時間や拘束時間も延び、診療の速度、ベッドの回転率が高まります。
 ゆとりがなく苛酷な労働環境だと、心身の疲労から医療ミス・医療事故を必ず引き起こします。全国の事例を見ると、医師や看護師などの法定労働時間が守られていないなかで、さまざまな医療過誤・医療事故を生じさせています。

●全国で医療裁判も多発し、そのための支出も増大しています。市立病院も例外ではありません。

2)医師・看護師の充足率と確保の現状について

●市立甲府病院の医師不足も深刻であり、医師の確保は極めて重要です。病院で医師が1名欠員となると1億円もの減収になるといわれています。そしてお金だけの問題ではありません。地域にとって必要な医療が受けられないことになります。

●また、看護師も不足しています。増員をおこない入院患者に対する割合である7対1の新基準を取得すると、入院基本料で20%増収となり、看護師の増員の人件費支出を上回る収入増となります。患者のためにも71の新基準を早期に目指す必要があります。

●新たに医師や看護師を確保することもむずかしい状態ですが、今いる医師や看護師などを留めて置く確保も重要です。

 離職を抑制し、定着率をよくするためには、労働条件・労働環境・福利厚生をよくするしかありません。また、新たに確保する場合も同じことが言えます。同時このことが医療の安全と安心を確保することになるのです。

質問します

@ 市立病院の平均在院日数の著しい短縮化で、患者、および医療職員に無理をきたしていませんか? 医療における過重労働は必ず心身の疲労による医療ミス・医療事故を生じさせます。その状況と対応をお聞きします。

A また、2008年度は医師の欠員による収入の影響額は、いかほどになりますか? 
 自治体病院としての責任をはたすために、どのような医師確保の努力をされていますか?おききします。

B 市立病院では、看護師の7対1の新基準を確保する場合、看護師増員による給与支出はいくらか? また診療報酬の増収はいくらか? そして相殺すると収入増はいくらとなるのか? お聞きします。

C 公的責任を持つ市立病院のよさは、たくさんあるはずです。そのことが意外とアピールされていません。さまざまな病院機能取得、医療機器の整備、助産師外来の開設、特に
大切な医療相談の充実など、立派な努力があります。

 もっと市民とのつながりをもとめ、必要なアピールはすべきだと思いますが、いかがでしょうか?

病院院長答弁:

市立甲府病院の近年の平均在院日数は、平成17年度15.2日に対し、平成20年度は、13.8日と短縮しておりますが、この主な要因は入院から退院までの標準的な治療と看護スケジュールを定めたクリテイカルパスの積極的な導入や、医療技術の進歩等によるものであります。

また、昨今の診療科の偏在のなか、当院においても消化器内科専門医が不在となっております。

 特に消化器内科につきましては、総合病院の中心的診療科であり、病院の機能や経営に深刻な影響を及ぼしているものと考えております。

現在、専門医が不在となっております消化器内科と精神科の病院収益への影響額は、平成20年度1月末現在で、概ね3億7千万円余となっております。

このため、山梨大学を中心に、招聘に取り組むとともに、昨年12月からは、新たに、市立甲府病院ホームページや、社団法人全国自治体病院協議会などを通じ医師の公募を始めたところであります。

また、医師不足による勤務医の過重労働が社会問題となっているため、平成19年6月からは、救急輪番日翌日の勤務緩和に取り組むなど、意思の勤務条件の整備に努めているところであります。今後も医師の安定的確保に努め、良質な医療を継続して提供できる体制を構築してまいります。

病院事務局長答弁:

 平成18年4月の診療報酬改定により、7対1入院基本料の看護師加算の割合は大きくなったことから病院間での看護師獲得が激化し市立甲府病院におきましても必要看護師の確保は喫緊の課題となっております。

 なお、病床利用率75%を基に7対1入院基本料を算定しますと、収入が、約2億8千100万円、人件費増額分が、約1億4千万円で、1億4千100万円程の増益が見込まれます

病院事務局長答弁

市立甲府病院では、これまで、病院のホームページや広報誌「やすらぎ」、更には院内の待合室に設置しているディスプレイ等により、各診療科の案内や専門外来、ドクターの健康講座などの情報を提供してまいりました。

また、昨年10月に開設した助産師外来につきましては、広報「こうふ」に特集を組み掲載したところであります。

今後は、患者サービスの向上に向け、医師、看護師等の医療スタッフや新たに導入する高度医療機器などの医療機能の紹介を、様々な媒体を通じて情報発信に努めてまいります。