「というわけだから、朝寝坊なんて以ての外……って言ったのよぉ」
食事を目の前していると言うにも関わらず、理理の表情はげっそりしている。
その理由は何となく理解できたが、同じ立場にあるノエル自身にもそれが当てはまるか? と言えばそうではない。
理理も含めた周囲の女生徒達の一部をここまで落ち込ませる原因は、彼女達の目の前に鎮座する朝食だ。
トレイに乗せられたスープ皿の中には、深い緑色をしたゲル状の物体が注がれている。
その他の小皿に乗っている物も、似たり寄ったりだ。
オートミールや野戦用の栄養補給食の類である事は、その香り――というよりも臭いから、食すまでもなく伺い知れる。
スプーンで中身をすくい口に運び、数度咀嚼してから飲み込む。
なるほど。確かに料理としては最低のレベルだ――と、ノエルとて思う。
しかし、栄養補給材として考えれば、バランス、消化共にこれほど完璧な物も無かった。
実際に任務中に似たような物を口にする機会も多い上に、サバイバル訓練を受けたノエルにとっては、どちらかと言えば馴染み深いものだ。
だから躊躇する事なく、顔色一つ変えずに食事の動作を続けられる。
「食べないの?」
ふと視線を感じて、目の前の理理に問い掛ける。
「はぇ〜……ひょっとして美味しいの?」
ぽかんとした表情で尋ねる理理。
「美味しいか? と聞かれれば、美味しいとは言えない。でも栄養補給という概念から見れば嫌いじゃない」
水だけで一週間以上耐え抜いた事もあるノエルにしてみれば、それは本心からの言葉だ。
だが、そんな経験はおろか、多少の空腹にも根を上げる理理にしてみれば、素直に同意出来るものでもない。
「そりゃ、そうなんだろうけどさ……」
彼女は手にしたスプーンで皿の中身をつつきながら、近くのテーブルで美味しそうに焼きたてのロールパンを口に運んでいる女生徒を、心底うらやましそうに見つめている。
やがて覚悟を決めたか、もしくは諦めたように、一度溜息を付くと、弄んでいたスプーンを口へと運んだ。
「うぇ」
何とも行儀の悪い言葉を平然と口にして、理理は食事を続けた。
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