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 やっぱり来るんじゃなかった――ノエルは早速、自分に不向きな任務に出向いた事を後悔していた。
 「うふふふ〜」
 目の前には、テーブルに肘を付き、両手の上に行儀悪く顎を乗せたターゲットV1、天崎理理の姿がある。
 栗色をした少しクセのあるショートの髪の毛の下、大きめの目が興味を携えて対面のノエルを見つめている。
 彼女だけではない。
 テーブルにはもう一人、理理から親友と紹介された松井雪野という少女の姿もあり、こちらもノエルに対して――正確にはノエルと理理の二人に対して――ニコニコと人の良さそうな笑顔を向けている。
 更にノエルを居心地を悪くしているのは、周囲のテーブルに座る少女達からも送られている興味深げな視線だ。
 密林の奥地で姿の見えぬ敵と相対する方が、相手に遠慮が要らない分ノエルにとっては気楽だ。何しろ目に付いた者は片っ端から排除すればいい。実にシンプルだ。
 だが、例え気に障る視線を送る相手が居たとしても、今回の任務ではそれらを即座に沈黙させる事は出来ないのだ。
 改めて自分の任務が今までの物とは異質な上に、困難なものである事を自覚したノエルはそっと溜め息を付く。
 「……何?」
 やっとの事で絞り出した声は、微かに裏返ってしまった。
 「ノエルってすごいのね。私びっくりしちゃった」
 「本当に……何かスポーツでもやっているの?」
 身を乗り出さん勢いの理理が興奮気味に喋ると、隣の雪野も楽しそうに相づちを打つ。
 「……いえ。別に」
 暗殺術や戦場格闘技なら――という言葉を飲み込み、ノエルは目を逸らして素っ気なく応る。
 だが、そんな素っ気ない態度すら、理理を含めた周囲の少女達の目には、ノエルの魅力として映ってしまっていた。
 任務を円滑に遂行する為出来る限り目立つ行動は控え、ターゲットに近づく不穏分子を密かに叩き切る――それがノエルが描いていた当初の青写真だった。
 だが今彼女の置かれている立場はどうだ。
 軽く見積もっても二十名以上の好奇心に満ちた視線に晒されている現状は、とても計画通りとは言い難い。
 こんなハズではなかった――ノエルは目の前に置かれた品の良いソーサーからカップを口元へ運びつつ、頭の中でしきりに後悔を続けて思い返す。
 
 
 
 
 
 
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