水瀬家を後にして、今日の寝床たる郁未のマンションへ向かう途中、私はあのコンテストの結末を今一度思い浮かべてみる。
数々の勝負を経て見事優勝に輝いたのは、一年生のダークホース・天野美汐だった。
彼女は控えめに喜んでみせると同時に、まるで力が抜けた様に、その場で膝をついた。
すぐ脇に居た郁未が手を当て――恐らく不可視の力を用いた治療だろう――彼女の体調は回復したが、随分と気苦労を重ねた末の勝利だったのだろう。
それにしても……こうして当時の事を関係者から話を聞き、そして細かく思い返してみれば、彼女は控えめながらも、コンテストには積極的な姿勢を見せ続けていた事が思い出せる。
となれば、優勝も彼女が望んだものであるはずなのだが、どうしても彼女が「ミス学園」という地位を、自ら欲するような人物とは思えない。
では優勝賞金や商品目当てに優勝したのか? と言えば、やはりそうも思えない。
事実、彼女はあの表彰式で賞金はすべて寄付しているのだ。
であるなら、彼女が優勝にこだわった理由はなんであろうか?
それこそが、あれだけの盛り上がりを見せながらも、コンテストが急速に風化した原因に関わりがあるのではないだろうか?
悩んだところで出るはずの無い答えを模索しながら、雪道をゆっくりと進んでいた私の目が、件の彼女の姿を捕らえたのは偶然の産物だった。
古風な買い物篭を手にしてゆっくりと歩いている彼女こそ、あのコンテストの優勝者にして、初代ミス学園となった天野美汐その人である。
だがそんな肩書きは最初から無かったかの様な、ごく自然な態度で、彼女は周囲の景色に溶け込んでいた。
特別声をかける者も居ない。
インタビューは禁じられていたが、挨拶くらいは良いだろう――そう思い、私は気軽に声をかけた。
幸いにして彼女は私の事を覚えていてくれたらしく、気軽な挨拶にも相変わらず折り目正しく応じてくれた。
そんな気さくな対応に、私は思わず「ちょっとだけ」――そう思ってコンテストの話を聞いてみた。
取材ではなく、あくまで私個人の興味としてである。
不躾だと煙たがわれると思ったが――
「確か巳間さんは、郁未先生の御友人でいらっしゃいましたよね? ならば構いません。いえ、むしろ聞いていただきたく思います」
何と意外にもあっさりOKが出た。
■天野美汐の話
「私が話をする理由ですか? それは、この街の人々の優しさを知って戴きたいからです。
今、私が平穏無事に生活を送る事が出来るのは、単に皆さんの優しさの賜物と言っていいでしょう。
確かに私はあのコンテストで優勝し、一応は初代ミス学園という肩書きを戴いておりますが、それをひけらかす様な事はしたくありませんし、その立場を使って何か利を得る様な真似はするべきではないと思ってます。
そしてそれは、街の皆様も口に出す事こそありませんが、納得していただいておりまして、それもまた優しさの現れと言えるでしょう。
あれから、何か変わった事ですか?
変わったというよりも、戻ったと言うのが正解だと思います。
勿論、いずれは私が受けた恩は返さなければなりませんので、出来ればこの街の為に、より良い街作りに貢献できる様な仕事に就きたいと思いますし、そうなる為にも努力は続けてゆく所存です。
え? コンテストの直後に一体何が起きたのか……ですか?
恥ずかしい話なのですが……」
彼女ははにかんでから、ゆっくりと当時の事を私に語り始めた。
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全ての競技が終了し、ステージでは表彰式が始まった。
「それでは、表彰に移りたいと思います。それでは栄えある初代ミス学園に選ばれた、一年一組の天野美汐さん、どうぞこちらへ!」
住井護の声と、盛大な拍手に後押しされて、天野美汐が恥ずかしげに赤らめた顔を伏気味にして、しずしずとステージ中央へと進む。
マイクを向けられ、更にかしこまった表情を浮かべ、彼女は必至に絞り出した声で感謝の意を表した。
「身に余る光栄をいただき、大変恐縮でございます。私を応援して下さった皆様に、心より感謝を申し上げます」
言葉は非常に少なかったが、丁寧な挨拶だった。
だが、その後暫くして賞金の授与となった時、このコンテストは思いがけない方向へと進む。
五〇万円の目録を渡す段階になって、司会を務めていた住井護が、ある物を提示した。
それは『恵まれない子供達に愛の手を』と書かれた箱――つまり募金箱だった。
その後、住井護と幾つかのやり取りをした後、天野美汐は唐突に倒れてしまう。
保険医である郁未が直ぐに駆け寄って介抱するが、直ぐに回復をしないため、彼女は保健室へと連れて行かれた。
郁未の親友という立場を利用して保健室へ行けば、私もリアルタイムでその後の顛末に関われたのかもしれないが、先程の郁未暴走の一件が在ったので、それを実行する勇気は無かった。
表彰式はしばし休止となり、その後会場内がざわめきはじめると、マスコミ――特に多地方から訪れた者達――は、本コンテストの詰めの甘さと、体調管理面の不備や、学生主体イベント故の欠点を指摘し始めた。
流石に私はそこまで露骨に思わなかったが、せっかくの盛り上がりに水を挿された事に対する落胆は大きかった。
その後――十五分程して表彰式は再開し、天野美汐が手にした賞金を全額寄付し、そして大会主催者が稼いだ利益も全て寄付へと回す旨が発表され、七日間に渡る狂乱絵巻は終幕となった。
――それが、私の知る顛末だ。
色々と郁未に問いただしたい事もあったが、デスクに無理矢理取材をねじ込んだ私としては、直ぐに東京へとんぼ返りしなければならなかった為、今の今までそれも出来ずにいた。
だが、天野美汐の話を聞き、その裏で有った出来事を私はやっと知るに至った。
「恥ずかしい話なのですが……私は、その……貧しいのです」
彼女はそう話し始めた。
つまり、天野美汐は非常に質素な生活を余儀なくされていた。
自宅は一軒家ではあるが、今時珍しい平屋建ての建物で、それ故土地がそれなりに広いものの、建物自体は相当古く、一言で現すならボロ屋だそうだ。
事業に失敗した祖父が、土地と建物だけを残してこの世を去り、後を継いだ父は、彼女がまだ幼かった頃、事故によって半身不随の重傷を負ってしまったと言う。
仕方なしに周囲の土地を売って祖父の負債を返却したは良いが、父親が事故の後遺症で寝たきりとなった為、その世話と、働き詰めの母親の苦労を軽減させる為、彼女は幼少の頃から家事一切を取り仕切らざるを得なくなった。
だが、その母親も過労の余り数年前に亡くなり、その母親が命と引き替えに蓄えた貯蓄と、国からの補助金、そしてアルバイトによる僅かな賃金を細々と使って彼女は家計をやりくりしてきたと言う。
であるから、天野美汐が持つ類い希な家事能力とは、彼女の不幸と不遇がもたらした必然的なものであり、彼女自身が望んで会得したものではないのだ。
(ちなみに育児に関しては、近所の家庭でホームヘルパーの真似事をやった時に身につけたらしい)
それでも彼女は学業と生活を両立させ、父親を甲斐甲斐しく面倒をみつつも、成績は常に上位をキープするなど、彼女なりに充実した日々を送っていたのだ。
しかし、そんな彼女の生活に影が忍び寄る。
数年前、この街に進出してきた土地ブローカーが、更地のままだった旧天野家の土地を買い占め、豪勢なマンションを建設した。
昨今彼女のシンパによって、そこに出入りしている姿が目撃されていたのは、その入り口を利用しなければ、奥にある自分の家に辿り着けないという、立地的な問題の為だった。
日照権さえも無視して彼女の家を取り囲む様にして建てられたマンションは、土地を買い取ったブローカーと深い関係にある県外の建築会社によるもので、その会社には以前から焦臭い噂が付きまとっていた。
そして土地ブローカーはー――平たく言えば地上げ屋で、更に実態を語るなら立派なヤクザだ――非合法な手段を用いて、寝たきりの父親から天野家の土地権利を二束三文で買い取った。
彼等は天野美汐と父親に法外な値段の家賃を要求し、それが嫌であれば立ち退くよう要求した。
まだこの地が村に過ぎなかった頃、曾祖父が切り開いて手にした土地を、天野美汐は何としてでも守りたかった。
だが他人を頼るには彼女の友好関係は余りにも狭すぎたし、行政は既に規定の援助を行っている為、それ以上の事はしてはくれないだろうし、民事である以上は警察も介入出来ない。
だから法外だと知りつつもその家賃を納め、いつか自分が土地の権利を取り戻そうと、交遊を省き努力に努力を重ねた。
だが、その手段にも限界はある。
更に家賃を釣り上げられ、家を追われるのは時間の問題という状況に追い込まれた彼女に、賞金が出るミスコンの存在と、自分がエントリーされたという事実は、まさに天から降ってきた話だった。
彼女自身の性格としては、当然拒むべきイベントであったが、立場がそれを許さず、彼女は出来る限り積極的にコンテストに参加する事にしたのだ。
そして彼女は見事逆転勝利を収め、念願の賞金や商品を手にしたのだが……そこにあの運営側の仕打ちだ。
主催者側――特に住井護としては、学生が賞金を受け取るマイナスイメージを払拭し、更に世間に貢献させる事でコンテスト自体のイメージアップを図ろうと、あの企画を立ち上げたのだろう。
私としても、その考えには大いに賛同できるもだが、今回ばかりは間が悪かった。
優勝した天野美汐の性格を考えれば、当然彼女は断る事など出来るはずもない。
だが、それでも彼女には賞金が必要だった。
彼女の頭で葛藤が渦を巻き、その凄まじいストレスが彼女の神経を焼き付かせ、あの場で倒れるという事態へと発展させたのだ。
当時はただの疲労だと思われていたが、つまりはそういう事だったのだ。
保健室へ運び込まれた彼女は、介抱してくれた郁未に対して自分の置かれている状況を説明し、そしてその話を、丁度見舞いに訪れていた主催者達――住井護や協賛企業の担当、各種団体の代表者、地元マスコミなどが聞いてしまった事で、事態は大きな変化を遂げる。
つい今し方まで行われていたコンテストで天野美汐の人となりに感動したばかりで、しかも未だに祭りの高揚感が冷めきれない人々が彼女の立場に同情し憤慨するのは、極めて自然な成り行きだろう。
そして自分達に何か出来ないか? という議論に発展し、カンパを集い彼女を支援すべきだという無難なものから、ヤクザを駆逐すべきだという過激な意見が飛び出した。
だが、これ以上話を大きくしたくない、周囲に迷惑をかけたくない――という天野美汐の意志を受け、人々は自分達が拳を振り上げる事を思い留まった。
その場に居合わせた人々が、自らの無力さを痛感して打ちひしがれていたそんな時、保健室に居た女性が一言――
「そういう事でしたら私に任せて下さい」
と、何食わぬ澄まし顔で言い放ったらしい。
その女性とは、先だって私の危機を救った金髪女性――元FARGOのA−CLASSナンバーにして、郁未の友人でもある鹿沼葉子だった。
彼女の言葉に、郁未も――
「あ、そうか……そうね、私達に任せておいて下さい」
――と、不敵に笑ってみせたと言う。
郁未は驚く天野美汐やその他の人々に対して、「そのかわり……」と前置きをして、これから起こる事に対して冷静かつ寛大に対処し、何が起きても追求はしない事を約束させた。
コンテストの閉会式が、何処かうやむやの内に終了したにも関わらず、人々が不満を漏らさずに帰路についたのは、既に各方面の代表から密かに根回しが行われていたからに他ならない。
その場に居合わせなかった他地方のマスコミが、「やはり高校生主体のイベントであり、詰めの甘さは拭えない」という評価を下したのは、そんな事実を知らなかったからだ。
街を熱狂させたミスコンは、いつしか影でヤクザ追放キャンペーンへと様変わりし、その事実は街中の人間が口を噤んだ事で闇に消えた。
そしてその日の夜、郁未と鹿沼葉子は、直談判の為に彼等の組事務所を訪ねたそうだ。
ああ……そんな面白いイベントだと知っていれば、私も喜んで参加したのに……。
直談判がただの方便であって、その実態が殴り込みである事は間違いない。
で、そのヤクザはどうなったか?
この世に二人しか存在しない不可視の力の所有者が揃ってカチコミに行けば、その結末は容易に想像が付く。
近隣住人の話によれば、その日の深夜、組事務所からは狂ったような凄まじい悲鳴が発せられ、その後暫くして慌てて立ち去る数台の車の音が聞こえたとの事だ。
余程恐ろしい目にあったのだろう……その日の未明までに、組員達は揃って夜逃げしたらしい。
一夜明けて翌朝、近隣の住民が恐る恐る事務所を訪ねてみると、其処には組長ただ一人の姿しかなかったと言う。
しかもその組長にしても――
「す、すのこを買いに行かなければ……」
――と、意味不明な呟きを繰り返すだけの存在となっており、そのまま病院送りとなってしまった。
なお、翌朝び天野家の郵便受けには、土地の権利書が無造作に入れられていたとの事だ。
更に余談だが、天野家周囲のマンションは、その建設の際の手抜き工事が発覚し、現在では住人達が訴訟を起こしている真っ最中だとか。
土地の権利は元通り天野家に戻り、天野美汐は憂いのない生活を取り戻す事が出来た。
表彰式の時点でそうなる事を予想していたとは思えないが、天野美汐は郁未や鹿沼葉子の言葉と、バックアップをするという人々の言葉を信じて、手にした優勝賞金を全て寄付をした。
グッズ販売などで随分と利益を出していた住井護と折原浩平も、そのほぼ全額を寄付する事を決め、話を大きくさせない為にも、優勝者のCMモデル化や、その他の特典を全て排した。
街の人々も、その結果だけをコンテストの結末として受け入れ、以外の事には全て口を噤む事にした。
狂気すら感じる程の盛り上がりを見せたイベントの結末がその程度で、よく人々が納得するなと思う方も居るだろう。
だが、それは間違った認識だ。
あれ程の盛り上がりが有ったからこそ、人々は団結する事が出来たのだ。
一気に消極的になってゆく街の様子は、他地方から見れば、街が一気に興味を失った様に見えたのだろう。
全国区に広まりつつあったあのコンテストの話題は急速に風化し、以後その話題を蒸し返す様なマスコミも殆ど現れず、希に居たとしてももう人々の関心を惹く話題にはなり得なかった。
こうして街とそこの暮らす人々の生活は、あっという間に本来の姿へと戻り、コンテストに参加した者達も以前の生活へと戻った。
だが、コンテストを通じて一つになった人々の心と優しさが、ある家族を救ったのだ。
ただその手段にイリーガルな部分があるのは否めなく、自然に人々はあのコンテストの話題を忌避する様になった所為で、ミス学園という存在も自然と消えていったのだろう。
つまり……街中の人間が隠蔽工作に関わっていた――それこそが、あの騒動の顛末というわけだ。
私という部外者を迎え入れてくれたのは、外部からの関心がすっかり薄れ、ほぼ完全に地元住民以外の人間の記憶から消えた事で、唯一の見届け人として選んでくれたのかもしれない。
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天野美汐と分かれ、郁未のマンションへと辿り着いた頃には、もう辺りは暗くなりはじめていた。
三ヶ月ぶりに訪れたマンションは、当時と何一つ変わらぬ姿で私を出迎えてくれる。
インターフォンを鳴らして、暫く待つと、ガチャリ――と鍵が下ろされた音が聞こえた。
私はドアノブを回して、とびっきりの笑顔と共に言い放った。
「というわけで、一晩宜しくっ!……って、何で葉子さんが此処に?」
私を出迎えたのは郁未ではなく、あの時私を助けてくれた鹿沼葉子、その人だった。
「久しぶりにお会いしたので、居候させて頂いてます」
その言葉に、何となく勝ち誇った様なニュアンスが含まれているのは、気のせいではないだろう。
「郁未〜〜っ!」
私はありったけの声を総動員して叫ぶと、出来る限りの勢いでマンションの中へと突貫した。
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そして今、私は自宅のアパートにて、先日行った取材をまとめている。
だがその結果を公表する気は毛頭無い。
会社からは、何かとどやされるかもしれないが、それでも構わないだろう。
今更あのコンテストの話題を蒸し返したところで、誰にも得は無いのだ。
さて、それでは最後に今回の騒動の主役たる彼女達の近況を、私が調べた範囲で簡単に纏めておこう。
今回の騒動の中心とも言える天野美汐。
彼女は相変わらず高級マンションの日陰に隠れる、古めかしい平屋の一軒家に暮らしている。
懸念された闇討ちやお礼参りの類は無く、以前同様、慎ましくも平穏な生活を送っている。
口数の少なさと丁寧な物腰は相変わらずだが、それでも以前に比べて気ままに話せる友達が増えたという。
それは彼女個人にとって、家の維持以上に大きな収穫だったのではないだろうか?
なお、生活が安定した事を受け、部活動にも加わる事となり、今では文芸部に籍を置いているとの事だ。
あの過激な部員達の顔を思い出すと、一体どの様な活動が行われているのか非常に興味をそそる。
一度その部活動の光景を見てみたいと思うのは、私だけではないだろう。
美坂香里は、引退・卒業した深山雪見に代わって演劇部の部長に就任した。
先代譲りの指導能力と、本人が持つ統率能力によって、きっと演劇部を今まで以上に盛り上げる事になるだろう。
更に彼女は三学期行われた生徒会選挙に立候補し、初の女性生徒会長を兼任する才女ぶりを発揮している。
流石に進級後の学級委員長には就かないと予想されるが、受験を控えた学年を考慮すれば、それだけでも驚異的な能力であろう。誠に恐れ入る。
彼女を病的に慕う青年を撃退し、何かと手の掛かる妹にやや過保護な愛情を注ぎ、親友の面倒を見ているのも相変わらずだとか。
長森瑞佳は、折原浩平との交際が丸一年を迎え、その関係も順調らしい。
彼氏の方は相変わらず馬鹿をやり続け、その暴走を彼女がその身を挺して食い止めているのも相変わらずとか。
流石に一年も付き合えば、何かあるのが普通だと思うが、事情通の話を伺う限り、相変わらず一線を引いたプラトニックな関係が続いているらしい。
微笑ましさが有って良い関係だと思うが、それ故に、彼女のシンパは今でも彼女を想い続けているとの事だ。
周囲を巻き込みながら馬鹿をやる彼氏と、そして笑顔で彼氏の世話を焼く彼女の姿は、もう少し二人が大人になるまで続くのだと思う。
ちなみに、彼女に想いを寄せる七瀬留美も相変わらずらしく、そんな彼女を拒まない姿勢も手伝い、一部では長森瑞佳に二股疑惑が持ち上がっているらしい。
倉田佐祐理は、何とあのコンテストで見せた姿勢が、父親の逆鱗に触れたとかで、高校卒業後に勘当同然で家を追い出されたという。
ネグリジェ姿を衆人に晒したのも不味かっただろうが、笑顔のまま「おめこのちんぼたがいになべた」と答えた姿が、倉田家の家柄を傷を付けたのかもしれない。
しかし当の本人は勘当を嬉々として受け入れ、親友と一つ屋根の下で暮らし、お嬢様から一転、苦学生としてキャンパスライフに勤しみ、バイトと学業に忙しい毎日だとか。
なおサークル等には加わっていないとの事。
彼女の親友である川澄舞は、卒業後に晴れて恋人である相沢祐一と同棲しているというわけで、必然的に倉田佐祐理も相沢祐一と同棲している事になる。
なお、彼女は大学には進まず、地元の小さな動物園に就職し、何かと多忙な毎日を送っているらしい。
商店街で彼女達の姿を見かけたが、二人とも――そう、表情に乏しい川澄舞ですら、楽しそうな雰囲気だった。
世間一般的に考えれば、背徳的な関係ではあるが、あれが彼女達にとってのスタンダードなのだろう。
ただ、世間的に好色二股男のレッテルを貼られた相沢祐一だけは、行く先々で人々にからかわれ、やっかみを受ける事もしばしばあるとか。
そんな彼は、恋人に相応しい男になるべく、最近では学業とバイトの両方に力を入れており、友人達は「最近付き合いが悪い」と嘆いているらしい。
そして我が親友――天沢郁未の状況を。
家事能力の低さと馬鹿さ加減が露呈した事も影響せず、相変わらず人気者の校医として働いている。
私生活を激写せんと頑張る生徒達も相変わらずで、イタチゴッコな日々が続いているとか。
(なお、私がばらまいた秘蔵スナップは、現在でも高値で取引されているらしい)
そして、鹿沼葉子との共同生活も続いているらしく、彼女の美貌と郁未の無節操さを考慮すると、私としては少々気が病んで仕方がない。
やはり私があの街へ越して、転職を考えるべきだろう。
となると、由衣も連れて行けと騒ぐだろうから……やれやれ、これからまだまだ騒がしい日々が続きそうだ。
でも、そんな騒がしくも楽しい毎日を、人々の優しさに溢れる北の街で過ごすのも悪くはない。
冬はちょっと寒いかもしれないが、あの街にはそれ以上に暖かい心を持った人々が居る。
そして雪が降り、東京では作れないような巨大な雪だるまを作ってはしゃぐ度に、私は思い出すだろう。
彼女との再会をもたらした、あの熱狂に包んだ七日間のお祭り騒ぎと――人々の優しさを。
人々の熱気と、狂気と、興奮と、そして優しさに満ちた日々は、今も私の中にある。
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Beautiful 7days
−了−
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あとがき |
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