つんざくような歓声の中でその開催が宣言された、ミス学園コンテスト本選。
大きな体育館を埋め尽くした人、人、人……。
地元のテレビ局――KTVの協力を得て設置されたという、巨大なプロジェクターと、スモークやレーザー光線などの派手なエフェクト。
まるでK1のメーンイベントの様な音と映像による演出。
体育館中央に設置された特設舞台……いや、リングに上がった五人の女生徒と、一人の保険医が紹介され、ミス学園に相応しい人物を選定する為に五つの競技が用意されている事が発表された。
それらは美・知・徳・力・乙女の五種目で、競技内容が直接点数に繋がるもの以外は、会場内の観客達が投票を行う事になっている。
競技内容の結果を見た観客が、客観的に判断を下しもっとも優れていると思った者に点を入れるわけなのだが、直前まで行われた各種支援団体のロビー活動や工作活動、そして組織票の影響も受ける事になるので、競技の結果が必ずしも結果に結びつくとは限らなかった。
様々な思惑が交錯し、多くの人々が見守る中、第一の競技「美」が始まった。
所謂、外観的な優劣を競う部門であり、大概の同様のイベントでは水着審査によって行われる事が多い。
しかし本コンテストで彼女達が着るように指示されたのは、水着ではなく何故か寝間着だった。
これは一見して問題が無い無難な指示であるように思えた。
学校で行われているイベントだという事を考慮に入れれば、水着よりは遙かに健全に思えるだろう。
だが、問題は現実に彼女達が寝るときに着用している寝間着――格好をせよという指示であり、それを偽る事が許されなかった事だ。
しっかりと家族や友人知人からの証言が取られており、彼女達が普段とは異なる格好をしてもバレるという徹底ぶりであり、その事が本競技を水着以上に危険な物へと変えてしまった。
抽選の結果、トップで登場した(正確には「させられた」だろう)一年生の天野美汐だった。
彼女は人々の期待を裏切らずに浴衣にドテラを羽織った姿で登場し、会場を多いに盛り上げた。
しかし「鶴来屋」とプリントされた浴衣は、明らかに市販品ではなく温泉旅館の備品であり、彼女の趣味が通常とは異なる物だという認識が産まれた。
結果から言えば、その認識は多いに誤りだったわけだが、この時点で彼女は「変わり者」であると言う意見が大勢を占めていた。
それでも顔を真っ赤にして羞恥に耐えつつ、それでもなお必死に義務づけられた自己PRを行い受け答えようとする彼女の態度は、観る者達を大いに悶えさせる事となった。
会場に居た人々――特に年輩の男性は、そんな彼女の姿に今は少なくなった大和撫子の姿を見て涙を流した。
彼女の支援団体「みっしんぐりんく」のリーダーを勤める某生徒などは、涙を流しながら――
「彼女が持つ慎ましさと真面目さが葛藤を繰り返す様を刮目して見よ!」
「我々は間違ってはいなかったぁぁっ!」
「俺は今モーレツに感動している!」
――等と叫びつつ、しきりに頷いていた程だ。
次いで登場した二年生の長森瑞佳は、シャツとズボンからなる何とも普通の寝間着姿だった。
そのトータルバランスの高さから大会本命との声も聞こえる彼女であるから、ただの寝間着姿と言えども侮れない。
普段決して見る事の出来ない彼女の寝間着姿を見て、喜びの声を上げている男子生徒の多さからも、彼女の人気が高い事が伺えた。
恥ずかしがりつつもしっかりと自己PRをこなし、司会の質問にも的確に答えるあたりに、彼女の生真面目さというか、付き合いの良さが現れていた。
しかしコンテストという状況においては、後述する面々のインパクトも手伝って、周囲には少々地味な印象を与えた事は、彼女の支援者にとっては想定外だっただろう。
しかし言い方を変えれば、彼女のごく普通の出で立ちは、観る者の精神に安らぎと安定をもたらしたとも取れる。
前述した二名が登場した時、会場内にどよめいた声や歓声は男子の物が殆どだったが、三番手となる三年生の川澄舞が登場した際は、今まで聞こえなかった黄色い悲鳴――女子の歓声が沸き起こった。
彼女も前に登場した長森瑞佳と同様にごく普通のデザインの寝間着であり、某サン○オの有名ファンシーキャラクターがプリントされた可愛らしいものである以外に、特別な部分はなかった。
だが、長森瑞佳が「如何にも」的なイメージであったのに対し、普段の彼女の外見的イメージとは明らかにかけ離れた物だった事が、単なる寝間着姿をして、場内の女生徒達に「キャー! 先輩可愛い!」と揃って叫ばせたのだ。
更に外見的な変化として、普段束ねている長い髪の毛をストレートにして登場したのもインパクトが高かく、その流れるように美しい髪の毛は、それだけで十分な破壊力を秘めており、男子の関心をも惹き付けた。
私の近くに居た男子生徒も「なっ、ストレートだとぉぉぉっ! それは反則だっ!」と、叫び声を上げていた。
確かに、恥ずかしそうに俯く姿はかなり反則的だろう。
普段のクールな雰囲気とのギャップも手伝い「川澄舞侮りがたし」――と多くの人々を萌え苦しませた。
何と言っても普段のイメージとの落差が激しければ激しい程、今まで彼女が抱かれていた「クール」「不良」「根暗」「不思議」といったマイナスイメージを打ち砕く力は増す事になり、女生徒が大半を占めていた彼女のシンパは、これを機に男子生徒を引き入れる事となった様だ。
ただ自己PRは殆ど喋らず、ただ一言「祐一の為に頑張る」と呟いて、会場内の雰囲気を瞬時に凍り付かせたのは、明らかにマイナスだっただろう。
その瞬間に会場を包んだ殺伐とした雰囲気は凄かった。
私の中に眠る中途半端な不可視の力にも反応する程の殺意が、会場内のある一点へと集中していたのだから、それらが向けられていた男子生徒はさぞ堪えただろう。
普段のイメージとのギャップという点では、次に登場した二年生の美坂香里も強烈だった。
堅物的イメージが強い彼女だっただけに、その寝間着姿は実用一点、長森瑞佳と同じレベルだと思われていた。
しかし大方の予想を覆して、彼女の寝間着は非常にメルヘンチックだった。
フリルやリボンといったもので派手にデコレーションされた淡いピンクの寝間を身につけた彼女は、それだけでも十分センセーショナルだったが、更に予選期間中に見せたアダルティな下着効果がここでも効力を見せ、相乗効果となって一部の人々に押し寄せる。
実際、私の耳にも「寝間着はあんなに可愛らしいのに、その下はセクシーな下着なんだぜ……何だかすげぇ、美坂さんすげぇよ」――そんな声も聞こえてきた。
しかも自己PRや続く質疑応答での言動が支離滅裂で、傍目にも狼狽えているのが判る程であり、普段の理路整然とした彼女とは思えぬ一面を露呈させ、見る者達を色んな意味で唖然とさせた。
この世の中には「ツンデレ」という言葉が有るが、恐らく彼女は”そう”なのだろう――そんな事が、漠然と頭に浮かんだ。
そんな見慣れぬ彼女に内から沸き起こる衝動を堪えきれなくなったのか、例の金髪奇行少年が奇声を上げながら特設ステージに上がりそうになったが、屈強な警備員達によって阻止される一幕もあった。
まぁ、これはこれで美坂香里の持つ魅力が、ただならない物だと言う証明に他ならないだろう。
美坂香里のインパクトが冷めぬ内に、次の爆弾――すなわち、三年生の倉田佐祐理が登場した。
……薄いベージュのネグリジェだった。
恐らく会場内に居た全ての人間の予想と期待を裏切らない、見事なお嬢様的寝間着だった。
スポットを浴びて浮き上がる、高校生にしては随分と完成させられた身体のラインが、悔しい程に官能的であり、同性の私の目にすら眩しく見える。
上質のシルクと思われる生地は、下着や肌が透けて見えそうな程薄く、見えそうでも見えないチラリズムの半歩手前という憎たらしさが、余計に人々の興味と右脳を刺激する。
実際、ネグリジェで隠された部分は見えていないのだが、ボディラインはやたらハッキリとしているので、まるで本当に身体が透けて見えている様な気がしてくるから、何とも不思議なものだ。
自分が透視能力に目覚めたと勘違いし、ヒートアップし過ぎてステージへ雪崩れ込もうとした一部の観客達と、それを阻止せんとする警備員達によるガチンコおしくら饅頭が展開するなど、場外の騒乱ぶりも手伝ってなかなか見応えがあった。
しかし周囲の反応を余所に当人はいたって平然としており、司会の質問にも平時と変わらぬ姿勢で答え、その貫禄の違いを見せつけた。
これは彼女が社交界など、人目を惹く場に慣れていた事によるものだろう。
なお、本校の生徒会長を務める男子生徒は、彼女が姿を現した瞬間、前屈みになって鼻血を吹き出しながら気を失った。
最後に登場したのは我が親友、保険医・天沢郁未だ。
当初彼女は、天涯孤独にして一人暮らしという立場を利用し、コンテスト用に用意した何とも色気のないスエットを着用して会場に出ようとしたが、更衣室の前で張り込んでいた私が――
「郁未のルール違反を訴えるわよ?」
「今、会場内の群衆が怒りを爆発させたら……流石の郁未も色々と大変でしょうね。色々と……」
「それから、マスコミの力を侮らない事ね。ふふふ」
――と、誠心誠意説得したところ、身体を震わせて私を睨み更衣室へ戻って行った。
再び彼女が更衣室から姿を現した時、先程の野暮ったい格好とはうって変わった物――居候中の私にとっては馴染みのある格好となり、特設ステージへと上がって行きました。
今にして思えば、私の取った行動は自殺嘆願書にサインをした様なものでしたが、こうして今も元気に生きているわけだから、私は神に愛されているのだろう。
コンテスト終了直後、目を黄金色に輝かせて怒濤の勢いで迫る郁未を、強力な不可視の力で止めてくれた鹿沼葉子という女性には心より感謝したい。
それはともかくとして、その後の出来事を、私は恐らく一生忘れないでしょう。
彼女の寝間着と言えば、大きめのブラウスの他はショーツだけ……という俗に言う裸ワイシャツなのだ。
ノーブラである事は言うまでもない。(私が事前に念を押した)
郁未が登場するや否や、会場内の喧騒がピタリと止み、そして一瞬を置いて爆発した。
校内におけるアイドル的な校医の艶姿は、それだけの破壊力を秘めているのだ。
学生時代には憧れの先輩(男)を押し倒してその貞操を奪い、FARGO内で当時はノンケだった私の身体を弄りまくり、教団員による辱めさえも甘んじて受けた”あの”郁未が恥ずかしがっている!
そしてそんな郁未を見て大歓声――というよりも絶叫を上げる三千人の群衆。
六千の瞳が食い入るように捉えているその格好は、”私が”させたのだ。嗚呼、何と素晴らしい。
そう思うと、自分が郁未より、何かと有利な立場に居るという優越感を感じて、私の神経は興奮で焼き切れそうになりました。
しかし、興奮に神経を麻痺させられたのは、何も私に限った事ではない。
特設ステージ上に佇む郁未本人も、そうであった事は間違いなかったはずだ。
恐らくは衆人環視の下に自分を晒した事で、郁未がその内面に隠し持っている淫猥な質のスイッチが入ったのだろう。
でなければ、自己PRの時に見せた余裕や、その後に続く競技における開き直った郁未の態度が説明できない。
無論、その祭りが終わり理性と羞恥心が戻れば、たちまち自己嫌悪と、私に対する恨みの嵐が彼女に襲いかかるのだが、それは先の話だ。
とにもかくにも、最初の競技で、郁未は吹っ切れたのだと思う。
全員の紹介が終わったところで、再度ステージ上に全員が並び――それはそれは壮観な眺めでありました――、第一ステージの投票が行われた。
投票は、チケットと交換で手渡されるスイッチにて瞬時に計測が行われ、ステージ上部に備えられたモニターに結果が表示される仕組みでした。
ドラムロールとスポットライトによるお約束の演出の元、第一ステージの覇者に輝いたのは、案の定と言うか……郁未だった。
コンテストに対する当初のスタンスを棚に上げ、初戦の段階とは言え郁未がトップに立った事を、私は取材を忘れて、まるで自分の事の様に喜びはしゃいだ。
興奮して、隣の席に座っていた名も知れぬ男子生徒を叩いてしまったが、これは仕方がない事だろう。うん。
次点は僅差の倉田佐祐理で、この二人が票を大量に集めた。
その後は美坂香里、川澄舞、天野美汐、長森瑞佳と続いたわけだが、この結果を考えると、これはもう見た目のインパクトがそのまま点数に影響したとしか思えない。
事実――後で判った事だが――明らかに他の少女のシンパであるはずの生徒までもが、反射的に郁未や倉田佐祐理へ投票を行った事が確認されている。
「これはこれ、それはそれ」「理性と煩悩は別問題」「エロは別腹」――というやつだ。
そんな馬鹿な! と思う無かれ。
「裏切り者は見つけ次第粛正だ!」と鉄の掟を振りかざし息巻いていた文芸部の部長――美汐派の中でも最もタカ派として恐れられている生徒――でさえ、一瞬己の女神の存在を忘れ目の前の豊艶な姿に目を奪われたというのだから、一般大衆の関心が流動的になったのは仕方がない。
とにもかくにも本選は、こうして一気にトップギアへ入った様な熱気を持って始まった。
なお、投票権を持っているのは会場内の三千人であり、集めた票数がそのまま得点に繋がる。
つまり一つの競技において、独りで全ての票を得れば三〇〇〇点となる。
当初は二五〇〇人、二五〇〇点満点で行う予定だったが、予選突破が当初の五名から六名になった為、入場者も無理矢理五〇〇人を詰め込み――当然その殆どが立ち見である――間に合わせたとの事だ。
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天野 |
長森 |
美坂 |
倉田 |
川澄 |
天沢 |
美 |
208 |
190 |
407 |
891 |
355 |
949 |
知 |
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徳 |
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力 |
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乙女 |
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合計 |
208 |
190 |
407 |
891 |
355 |
949 |
※第一競技終了時における得点。
十分間の休憩を挟んで、第二の競技――「知」が始まった。
衣装は元通りの制服や白衣に戻っていたのが残念ではあったが、学園におけるミスコンという性質上仕方がない仕様だろう。
休憩時間の間に特設舞台の上には、よくクイズ番組で見かける早押しボタン付きの回答者シートが六つと、の十メートル四方程度のパネルが設置された。
知部門競技は、ジャンルと難易度によって異なる得点が設定されている問題を選び早押しで答える、所謂パネルクイズ形式で行われた。
ジャンルは、「一般教養」「雑学」「芸能」「スポーツ」「学園」「保健体育」だった。
最初の四つは判る。「学園」というジャンルにしても、学校や学園関係者に関する内輪問題という事で納得できるが、最後の保健体育は何だろうか? 一般教養からわざわざ独立させ、しかも全ての問題が他のジャンルの物よりも点数が高く設定されている部分に、運営者側の思惑が露骨なほど滲み出ている。
一次競技の優勝者である郁未に第一問目の選択権が与えられ、彼女が無難に選んだ「一般教養の一〇点」問題から始まった。
保険医なのだから、保健体育から始めるべきだろう――そう思ったのは、私だけではないはずだ。
(事実、彼女が選んだ時、僅かながらブーイングが起きた)
三年、二年、一年それぞれの学年主席が本選に残っているだけに、彼女達の活躍が期待されたが、二年主席の美坂香里と一年主席の天野美汐は、第一次競技の精神的ダメージが回復していないのが明白であり、最初から照れの無い倉田佐祐理、彼氏の影響でお祭り騒ぎに耐性があるという長森瑞佳のマッチレースになる事が予想された。
パネルに組み込まれた問題は思いのほか無難なもので、どんな難問にもすんなり答える女生徒達には驚かされるものの、問題そのものに驚かされる事は無かった。
一般教養に関しては、出場者の学年による不公平を是正する為、高校一年までに習う範囲が出題されていたが、高得点の問題になればなるほど、その難易度は高くなり、恥ずかしながら私なんぞ二〇点以上の問題は全く解けなかった。
それは我が親友の郁未にしても同様だろう。
第一次競技で既に開き直ったらしく、照れは無くなっていたものの、出題される問題に目を点にさせて、その学力の低さを露呈させる事となった。
ええい、不甲斐ないぞ天沢郁未っ! 貴様は身体と色気だけで頭空っぽのオッパイ芸人か?! ――と声高らかにエールを送るも、それで瞬時に学力アップする事もなく、彼女が回答ボタンを押す機会は非常に少なかった。
川澄舞に関しても、コンテスト自体に対する照れは無いものの、知識に偏りがあるのか、回答するシーンは殆ど見られなかった。
となれば当初の予想通り、倉田佐祐理と長森瑞佳のマッチレースが展開すると思いきや、意外にも天野美汐が踏ん張りを見せ、会場は大いに盛り上がった。
しかし彼女はもっと、こう……コンテストに対して否定的な立場だと思っていたが、普段の制服姿に戻って精神の安定を得た事も手伝い、倉田佐祐理、長森瑞佳という、三年の主席と二年の高成績者を相手取って、五分の戦いを見せた。
更に問題が消化されて行くに従って、徐々に落ち着きを取り戻した美坂香里も勝負に参加すると、人前で劇を演ずる演劇部のアドバンテージを生かし、少々のんびり屋な一面を持つ倉田佐祐理や長森瑞佳、そして上がり症な天野美汐を上回る反応速度を発揮し、早押しを連発。
先程とはうって変わって毅然とした態度を見せる彼女に、またしても金髪奇行少年が有り余るリビドーを解放してステージへ突入するも、再び屈強な警備員に捕縛された。
そんな一幕も在ったが、その他には特に問題が起こる事もなく進んで行き、気が付けば保健体育の問題を残して全ての問題が終了した。
やたらと高い点数が設定されている事もあって、郁未と川澄舞以外の者は逆転の可能性が残されていた。
しかしその高得点が故に、中身は保健体育とは名ばかりのエロ問題である事は疑いようもない。
これはつまり、恥ずかしい答えを彼女達の口から言わせよう――というのが、運営者側の魂胆である事は明白で、ぶっちゃけるならばセクハラ行為そのものだ。
三流芸人や、恥知らずな視聴者を集めて行われる質の悪い低俗な深夜番組ならばいざ知らず、それなりに名の通った私立校で、白昼堂々公然と行われるセクハラ的活動に、女子生徒達は一斉にブーイング……かと思いきや、女子も一緒になって楽しげに声援を送っていた。
恐らくは会場内の毒気に煽られて、公正な判断が出来る者は殆ど居なかったのだろう。
ちなみに、気になる「保健体育」の問題だが……
10点問題が『夕方に降る雨は夕立と言うが、では朝に降る雨は?』という、何とも低俗で頭の悪い内容で、郁未が問題の途中――「では朝に……」の辺りで――で反射的にボタンを押したのが印象深い。
そして思い切り「あ、朝立ち!」と答えて場内の爆笑を誘った。ちなみに正解は、ただの「雨」である。
郁未……あんたって子は……。あまりにもお約束過ぎて涙がキラリ☆
しかしその他の問題も五十歩百歩だった。
『「いっぱい」という文字の「い」を「お」に変えたら何と言いますか?』
当然、正解は「おっぱお」だが、やはり反射的に答えてしまった美坂香里が「おっぱい……あ、違っあーっ! 違うの、違うのぉ〜」と自分自身の答えに照れてしまって、せっかく取り戻した落ち着きを再び手放してしまった。
その後は、顔を伏せて、ひたすら恥辱に身体を震わせる事となり、そんな弱気な彼女にリングサイド――特設ステージの真横から、彼女の妹が「何やってるんですかお姉ちゃん! 美坂の名に賭けて勝利を手中に収めるまで進むしかないんですよ? さぁ判ったなら顔を上げて戦うんですっ! 羞恥心なんてものは野良犬にでも食わせちゃって下さい。ハリー! ハリー! ハリー!」と、容赦のない激が飛ぶ。
とまぁ、こんな具合で運営者側の思惑通り、選手達は頬を赤らめ、恥ずかしさに身を震わせたりしていたのだが、彼等にとって想定外だった事がただ一つあった。
三年の倉田佐祐理である。
彼女は終始落ち着き払っており、わざとらしい問題に引っかかる事なく淡々と正解を述べ、そして例え答えが卑猥な物を連想させる様なものであっても、笑顔を崩すことなく平然と答えて見せた。
開き直った郁未にしても、そういった問題を答える事に躊躇は無かったはずなのだが、彼女の頭脳はあまりにも単純過ぎた。
反射神経は高いので早押し自体は出来ても、答えを間違えてばかりで、その後の倉田佐祐理に正解をかっさらわれるシーンが続いた。
最後に残った問題――『「食べな、新潟盆地の米を」を逆さまから読んで下さい』も、恥を恥と感じていない様な倉田佐祐理がストレートに(そしてパーフェクトに)答えた事で勝利。累計得点でもダントツのトップに躍り出た。
それにしても、「知」勝負を簡素にまとめるのであれば、郁未はことのほか馬鹿だったという事だろう。
もしあの六人が同条件の元で学力試験を行えば、間違いなく郁未は最下位だろう。うん。我が親友ながら実に恥ずかしい限りだ。
まぁ、どの程度の学歴詐称を行ったのかは判らないが、実際の学歴は高校中退の郁未が……現役の、それも学年主席が連なる場所に同席させられたのだから、この結果は仕方がないかもしれない。
保険医という立場の彼女が、幾ら名ばかりとはいえ「保健体育」の問題で生徒達に遅れをとった事に関しても、仕方がないだろう。
何しろ郁未が保険医をしていられるのは、単にFARGOでの人体破壊向けの医学講座と、不可視の力のお陰なのだから。
ん? そう考えると、あの組織も、彼女の就職斡旋には役だったわけで、何とも複雑な気持ちになった。
なお、第二競技結果の詳細は、下記資料を参考のこと。
教養 |
雑学 |
芸能 |
スポ |
学園 |
保体 |
10 |
10 |
10 |
10 |
10 |
15 |
20 |
20 |
20 |
20 |
20 |
30 |
30 |
30 |
30 |
30 |
30 |
45 |
40 | 40 |
40 |
40 |
40 |
60 |
50 |
50 |
50 |
50 |
50 |
75 |
60 |
60 |
60 |
60 |
60 |
90 |
70 |
70 |
70 |
70 |
70 |
105 |
80 |
80 |
80 |
80 |
80 |
130 |
100 |
100 |
100 |
100 |
100 |
150 |
※参考資料:第二競技「知」の結果。
|
天野 |
長森 |
美坂 |
倉田 |
川澄 |
天沢 |
美 |
208 |
190 |
407 |
891 |
355 |
949 |
知 |
580 |
685 |
660 |
950 |
75 |
50 |
徳 |
|
|
|
|
|
|
力 |
|
|
|
|
|
|
乙女 |
|
|
|
|
|
|
合計 |
788 |
875 |
1067 |
1841 |
430 |
909 |
※第二競技終了時の得点。
第二競技を終了して倉田佐祐理が他者を圧倒、その親友である川澄舞が遅れを取るという状況の中で、第三の競技「徳」へと雪崩れ込む。
|