物事に対する充足感と、それを失った時の虚脱感の度合いは比例して大きくなるものだが――私は今、改めてそれを実感している。
いや、私が心の中でそう感じ取っているだけではなく、それは目で確認出来てしまう程の落差となって、現実の世界に存在していると言っていい。
街を行き交う人々の姿――
駅前に存在する諸々の建築物――
ターミナルを進むバスや車――
そして街を包む空気を含めて、目に映るあらゆるものの中に、それは容易に見て取れる。
春が間近に迫り、日に日に上がってゆく気温が街に残った雪を溶かしているにもかかわらず、目に映る風景は三ヶ月前にも増して、北国が本来持つ独特の物悲しい静けさと寒々しさに満ちたものに映っている。
そのあまりの落差に、あの騒動は夢だったのでは無いか? ――ふと、そんな事を思ってしまったが、そう思うのは、何も私に限った事ではないだろう。
街全体に漂う空気には、それほどまでに明確な虚脱感が漂っているのだ。
だがあの熱気に包まれていた七日間は紛れもなく現実に起きた事であり、例え物理的な痕跡は無くとも、あの騒動に関わった全ての人々の記憶に刻み込まれているはずだ。
そして商店を営む者達などは、今年の年末を迎えて昨年の売上とを比較した時に、嫌でも思い出す事になるだろう。
些細な事から始り、街中を巻き込んだ狂乱絵巻。
人々を病的にまで熱狂させた美の闘争。
三ヶ月前、この街で荒れ狂った騒動の結末と、その後の街の様子を取材する為、私――巳間晴香は、再びこの北の地を訪れた。
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