■ご注意!
当SSでは、Kanon、ONE、MOON.のキャラが登場しますが、各キャラクタの設定や行動が本編、並びに元ネタとは「微妙に異なる部分」が多々有ります。
パロディですので、あまり深く追求せず、どうか広い心でお読みになって下さい。







































 うっすらと瞼を開けると、青い空が目に入る。
 その空は何処までも高く、何処までも青い。
 青い空に浮かぶ雲の流れは速く、それでいて頬を撫でる風は穏やかだ。
 背中に感じる大地の温もりもどこか心地良い。
 眩しくも暖かな日差しを受けながら、こうして地面に仰向けで大の字を書いて寝転がっていると、嫌な事、面倒な事、都合の悪い事、そして思い出したくない事は全て忘れる事ができそう――そんな都合の良い感覚に囚われてしまいそうになる。
 麻酔を受けたように朧気な俺の頭が、鳥の鳴き声らしき音を確認する。
 見れば白い鳥達が、鳴き声をあげながら飛び交っているのが朧気に見えた。
 恐らく、カモメだろう。
 特徴のある翼の形が見て取れるが、海から遠いこの街にカモメが居るというのも何処か不思議な感じがする。
 ……いや、ぼんやりとした意識の中で見える景色故に、それらは幻なのかもしれない。
 その考えを証明するかの様に、俺の混濁とした意識の中には、身を包む陽気とは無縁の光景――雪で化粧をした木々の姿がぼんやりと浮かんでいる。
 そして青空と重なるように、綺麗な夕焼け空を同時に認識している。
 青い空、夕焼け空、背中で感じる温もり、風に乗って宙を舞うカモメ達、純白の世界――はたしてどれが現実の光景で、どれが幻なの、今の俺には判別がつかない。
 だが、そんな夢と現の狭間でまどろんでいる様な感覚は、どこか心地が良いものでもある。
 二つの世界に同時に存在している感覚と、身体と精神の両面で感じるある種の快感。
 そんな寝起きの心地よさを感じていた俺の意識が新たな情報を感じ取った。
 ――ゆ……ち。
 それは音声。人が発する声。
 ――ゆういち。
 それは名前。俺の名前。
 ――祐一っ!
 俺を呼ぶ声。聞いたことがある声。よく知っている声。従姉妹の声。
 彼女の名は……。
 名雪――その声の主の名を思い浮かべた瞬間、俺の意識の中から雪に覆われた世界と茜色の空が、光の中へ溶け込むように消えてゆき、眼前には青く美しい空だけが残っていた。











■プロローグ









 視界いっぱいに広がる青い空と、背中を伝わる地面の熱を現実の情報として確認した俺は、上半身を起こし改めて周囲の景色を伺う。
 瓦礫に囲まれた不毛な大地――既に見慣れたとは言え、目の前に広がる景色に俺は諦めたように溜息を付くと、ゆっくりと背伸びをした。
「う〜ん」
 背中から腰にかけての筋がいい具合に伸びて心地よい。
 そのままもう一度空を見上げてみる。
 青い空の中を、翼を広げて気持ちよさそうに遊弋しているカモメ達の姿が見て取れた。
 どうやら彼等は現実の存在だったようだ。
「祐一〜」
「祐一起きなさいよーっ!」
 とすれば、少し遠くから聞こえる俺を呼ぶ若い女の声もまた、幻ではなく現実のものという事になる。
「お〜い!」
「いやっほ〜っ!」
 少女達の声に続き、楽しげにはしゃぐ男達の陽気な声も聞こえてきた。
 声のする方を見れば、先程の声の主と思われる少女達――従姉妹の名雪と、居候二号こと真琴が、水着姿でジェットスキーに二人乗りして、水面を気持ちよさそうに疾走していた。
 名雪の姿を追ってみる。
 白いビキニの水着で青みがかった長いストレートの黒髪を靡かせているその姿は、普段の天然っぷりと比べれば幾分か輝いて見えなくもない。
 いや、正直な感想を言えば結構いい感じだ。
「あ、祐一〜!」
 俺の視線に気が付いたのか、名雪が楽しげに声を張り上げながら手を振ってきた。
「あ〜っ! 祐一も一緒に遊ぼうよーっ!」
 名雪の背中にしがみついていた真琴も一緒になって俺の方に向かって身を乗り出しながら叫けびはじめる。
 今の状態でそりゃ危ないんじゃないか? ――そう考えた直後、名雪と真琴のジェットスキーはバランスが崩れてひっくり返った。
「きゃぁっ!」
「わっ!」
 叫び声と大きな水音、そして波紋を残して二人の姿は水中へと没した。
 二人の姿が消えた近くを、別のジェットスキー二台が波飛沫を立てながら疾走してゆく。
「お〜い水瀬、真琴ちゃん大丈夫か?」
「脇見運転は危険だよ」
 乗っているのは、北川と南だった。
 無論、二人とも名雪達同様に水着姿だが、別に野郎共の水着姿を拝んだところで何の得にもならないので、すぐに意識の外へ追いやった。
「ぷはっ! うん、そうだね。ははは」
「あぅー」
 水面に顔を出した名雪が、少し照れ笑いを浮かべながらも楽しげに、声をかけてきた友人に答えている。
 真琴は少し水でも飲んでしまったのだろうか? 少し苦しげな表情で咽せていたが、直ぐに立ち直って俺に対してあれこれと文句を叫んでる。
 溺れたのが俺の責任だとでも言っているのだろう。
 全く心外である。
 真琴の文句を聞き流し辺りを見回すと、北川と南が引いたウェーキを受けてゆらゆらと揺れている名雪達のジェットスキー奥の方に、ボートが二艘見えた。
 モーターボートではない、所謂普通の手漕ぎボートだ。
 目を細めて焦点を合わせる。
 手前の方に乗っているのは、どうやら長森と七瀬の様だ。
 七瀬がその持ち前の男顔負けのパワーで持って、一心不乱にオールを漕いで、先を進む住井のボートを追いかけている。
 住井の漕いでいるボートと競争……いや、大方住井が七瀬を挑発でもして、怒りに燃えた彼女が住井を追いかけ回しているのだろう。
 付き合わされてる長森が気の毒に思えたが、ここから伺う限り意外にも楽しいご様子で、七瀬の叫び声に混じって時折彼女の笑い声や声援も聞こえてくる。
 ひとしきり池を見回し終わると、目線を陸地へと向けてみた。
 水辺には、決して辺りの風景に似つかわしいと言えない派手なビーチパラソルの下、ビーチチェアに寝そべる水着姿の女性達の姿が見えた。
 奇妙な事に野外だというにも関わらず、その傍らには扇風機が置いてあり、彼女達に涼しげな風を送り込んでいる。
 何ともシュールな光景だが、ケーブルを追って行くと近くの廃墟にもにた建物へと繋がっているのが判る。
 その建物には「大衆食堂」と投げやりな文字で書かれた看板があり、入り口の両脇には「おでん」「ラーメン」といったノボリが風に靡いている。
 その雰囲気は大衆食堂と言うよりは、むしろ浜茶屋のそれに近い。
 視線を再び、ビーチパラソルの下へと戻すと、その影の下で並んだチェアに寝そべっている美坂姉妹の姿が見えた。
 やがて片方のチェアに寝そべっていた栞が上半身を起こすと、横にあるクーラーボックスからアイスらしき物を取り出した。
「お姉ちゃんもアイス食べます?」
 隣で寝そべる姉に向かって笑顔で尋ねると、香里が答えるよりも早く、嬉しそうに蓋をあけスプーンで掬い口に運び始めた。
「貴方一体幾つ目よ……ホント、太っても知らないわよ?」
 香里の方はと言えば、そんな妹に一瞥をくれただけでサングラスをかけ直すと、読みかけの本に視線を戻してしまった。
「そんな事いう人、嫌いですー。ついでに、お姉ちゃんみたいなおっきい胸も嫌いですっ! 女子高生のクセに女子大生やOLみたいな雰囲気を出せる所なんか大嫌いですっ!」
 隣で寝そべる姉の胸に恨めしそうな視線を送っていた栞は、少しいじけた様に愚痴っていたが、アイスを再び食べ始めると直ぐに笑顔に戻った。
「ふふっ何よそれ……」
 香里は呆れた様に振る舞いつつも、手にしていた本を僅かにずらして愛おしげな視線で自らの妹を眺めており、相変わらずの妹馬鹿っぷりには、少しばかり微笑ましさを感じる。
 なお、同じ台詞を北川や俺が言えば鉄拳制裁は確実だ。
 姉妹のすぐ隣には、四名の女性が敷いたレジャーマットの上に座っており、沢山の弁当が広げられている。
 そしてそれらの中央に居る川名先輩は実に幸せそうな表情を浮かべている。
「雪ちゃん、秋子さんのお弁当すっごく美味しいよー」
「たしかに美味しいけど、みさきの食べてる姿を見ているだけで私はお腹一杯になるわ」
『良いダイエットなの』
 川名先輩の食事に圧倒されている深山先輩と澪ちゃん。
「あらあら、そんなに急がなくても沢山あるから、ゆっくり食べてね」
 秋子さんはそんな三人を見ながら、いつもの笑顔でお茶を飲んでいた。

 見回した通り、今この周りに居るのはクラスメートや特に親しい者達だけだ。
 皆、何を気にするでもなく、各々やりたいことをやってこの瞬間を楽しんでいる。
 まるで夏休みを利用して訪れた旅先における一コマの様に、平和でのんびりとした光景が広がっているが、そんな平和的な光景の中に異彩を放っている物体があった。
 それは陸上を進む乗り物ではあったが、タイヤの代わりに存在している無限軌道――キャタピラは、その物体が普通の自動車とは明らかに異なる用途の為に作られた存在である事を示している。
 弁当箱の様に扁平な車体に巨大で無骨な大砲を載せ周囲に威圧感を放つ物体。
 レオパルド1A4。
 旧西ドイツ軍のMBT――つまり戦車だ。
 そのジャーマングレーで塗られた車体が、強めの日差しを受けて鈍い輝きを放っている。
「さて食事も消化出来た事だし……」
 俺は身体を起こして立ち上がると、薄汚れたジーンズに付いた埃を払い、そのレオパルドへ向かって歩き始める。
「よぉー佐祐理さーん」
 近づくと俺は片手を挙げてその最上部――つまり砲塔上部で両手で持った双眼鏡で周囲を見回している佐祐理さんに声を掛けた。
「あ、祐一さん。起きたんですね?」
 佐祐理さんは双眼鏡を放すと、いつもの笑顔で俺に微笑みながら返事をしてくれた。
 照りつける太陽よりも眩しい笑顔は相変わらず。
 頭に被ったサンバイザーに、山吹色のビキニと同じ色のパレオを纏ったその姿は非常に美しいが、手にした双眼鏡はまるで彼女を浜辺の監視員に思わせる。
「ああ、そろそろ行くか?」
 そう言いながら、俺がレオパルドの車体へと登ると、砲塔を挟んで反対側の車体の上に寝そべっている女性が居ることに気が付いた。
 その女性は、我が校の保険医であるはずの天沢郁未先生であり、やはり水着姿で日光浴としゃれ込んでいる。
 サングラスをかけ、伏し目がちに長い髪を掻き上げる姿には、抜群のスタイルも相まって思わず息をのむほどの美しさ――というより豊艶さが……。
 思わず唾を飲み込んだ俺の首筋に、突如として衝撃が走った。
「ぐおっ」
 脳味噌へダイレクトに伝わるあまりの痛さに、俺はレオパルドから転げ落ちると、そのまま地面の上を転げ回った。
「……祐一、変な事考えてた」
 首を抑えて地面をのたうち回る俺に、控えめで、それでいて力強い声がかけられた。
 俺と佐祐理さんを除いた他の者には判らないと思うが、少し怒気も含まれている。
「ってててて……舞、お前なぁ」
 痛みが和らぎ俺が声の主へと目を向けると、そこには淡いブルーのビキニに、やはり水着に合わせたパレオを纏った舞が仏頂面で突っ立っていた。
 しかしその表情にも、多少の怒気が含まれているのが俺には判った。
 少し睨む様な視線と共に手を差し出してきた舞に、俺は喉まで出かかっていた文句を飲み込み彼女の手を取った。
 容赦無い手刀を俺に喰らわした張本人に助け起こされるのは、あまりいい気分とは言えないが、無論そんな事を口に出す事はしない。
「……っ」
 痺れる首筋を手でさすると少し痛みが走る。
 相変わらず容赦のない攻撃だったが、いつも手にしている日本刀で殴られなかっただけまだマシなのだ。
 それでも、舞の力の加減を無視したツッコミチョップは十分痛かった。
 攻撃を受けるまで気配すら感じなかったのだから、彼女を敵に回すような真似は決して避けねばならない。
 もっとも、彼女がこうして俺に暴力を振るうのは、その殆どが「嫉妬」や「照れ」によるものであるから、それは愛情の裏返しによるものだと言える。
 郁未先生に見とれた事に問題があったのならば――と、俺は舞の身体をまじまじと見つめてみた。
「うーむぅ」
 郁未先生にも劣らないスタイルの良さを誇るその姿が俺の目に眩しく映る。
 俺の視線に気付いたらしい舞が、羞恥さに顔を赤らめて俯くと、思わず抱きしめたい衝動が押し寄せる。
「ままままままま」
 舞の名を呼ぶのも一苦労だ。頑張れ俺!
「舞〜、ゆーいちさーん」
 レオパルドの上から、俺と舞を呼ぶ佐祐理さんの声が届くと、夢から覚めた様に意識が覚醒する。
「ほ、ほら、佐祐理さんが呼んでるぜ?」
 見とれていた自分が恥ずかしくなって俺は慌てて取り繕う。
「……」
 舞は黙ったまま頷くと、俺達は揃ってレオパルドへと向かって歩き始めた。
「よっ相沢!」
 突然、俺を呼ぶ声が横合いから聞こえてきた。
「何だ折原?」
 姿を現したのはクラス一、いや校内一の変り者と呼ばれている折原浩平だった。
「いや、特に用件は無いのだがな。ほら、今日は良い天気だろ?」
 何時になく真面目な表情をしているが、どうせろくな事を考えているはずはない。
「ああ、今日に限らずだがな。で、天気の話をする為に俺を呼び止めたのか?」
「いや、別に天気の話ってわけじゃないが、世間話を始める時はやっぱ天気の話題からだろう? 常識を知らないのかお前は。全く……そんなんでよくご近所付き合いが出来るな」
 やっぱり話が脱線してきた。
「まぁお前の非常識っぷりは取り敢えず置いておくとしてだ……」
「非常識の塊に俺の常識を疑われるとは思わなかった」
「それで天気が良いとだ……」
 折原は俺の皮肉を無視して言葉を続ける。
 しかも、何故か舞の方をちらちらと盗み見ながら。
「人間ってのは何処か開放的な気分になるんだ。そんな状態で人目を離れた場所へ男と女が向かったとしたら……果たしてその場で一体何が起こるか?」
「勿体付けてないでさっさと言え」
 俺が急かすと、折原は俺と舞をしばし見比べてから口を開いた。
「その、何だ、こんな真っ昼間から川澄先輩と二人きりで逢い引きなんぞして身体が持つのか? 幾ら他人が居ないからといって青姦は……」
 俺が文句を言うよりも早く、顔を紅くした舞が素早く折原の元へダッシュし、そのままの勢いに任せて折原の脳天へ手にした日本刀を容赦無く振り下ろしていた。
「〜〜〜〜〜〜〜ッッ!」
 声にならない悲鳴を上げながら、折原は頭を抱えてのたうち回っている。
 いくら鞘の部分とは言え実に痛そうだ。
「あはは〜、舞ったら顔真っ赤ですよ〜ひょっとして佐祐理達はお邪魔ですか?」
 一部始終を眺めていたらしい佐祐理さんが、レオパルドの上から声を掛ける。
 そんな言葉に舞が素早く反応して、一気に砲塔までジャンプすると、笑顔のままの佐祐理さんにチョップを一閃。
 だが、それは明らかに折原への一撃とは違う優しいチョップ。
「あははー照れてる舞は可愛いですねー」
「……」
 やはり笑ったままの佐祐理さんにもう一発チョップを入れると、照れ隠しのつもりか、無言のままハッチを潜って中へと入ってしまった。
「折原、養生しろよ」
 今だ地面で頭を抱えて蹲る折原に言い残すと、俺はレオパルドによじ登る。
 すぐに騒音と共にその車体が揺れ始めた。
 中で舞が運転しているのだろう。
 レオパルドは俺と舞と佐祐理さん、そして郁未先生を乗せたままゆっくりと走り出した。
「みなさーん! ちょっと出かけてきまーす!」
 佐祐理さんの元気な声が辺りに響くと、周囲で遊んでいた皆が俺達へ向かって「いってらっしゃーい」と声を掛けたり、またある者は手を振って、見送ってくれる。
 休憩を切り上げた俺達は、戦車に揺られながら日課となりつつある調査活動へと出掛ける。
 ふと見れば、車体の上で寝そべったままの郁未先生が、首だけを起こして辺りを見回していた。
 俺もつられて周りの光景を見回す。
「ふぅ……」
 ふと溜息をつき、レオパルドの砲塔上部にあぐらをかいて座り込み流れる景色を見る。
「しっかし……本当に無茶苦茶な光景だな。まるで……」
「はい?」
 俺の呟きが聞こえたのか、隣に居た佐祐理さんが俺に振り向いて首を傾げている。
「いや、この光景がまるで」
”ギ〜ン ゴ〜ン ガラ〜ン ゴロ〜ン……”
 俺の言葉を遮るように、突然辺り一面に学校のチャイムの音が鳴り響く。
 しかし、それは以前聞き慣れていた音とは異なり、どこか壊れたような、曇りがちで、少しテンポが遅く半音のずれた音色だった。
 そんなチャイムの音につられて、俺と佐祐理さんはその発信源であるはずの建物を見上げる。

 名雪や北川達が遊んでいた大きな水たまり――それは巨大な池と言って差し支えないだろう。
 その池の中心に浮かぶようにして我らの母校の校舎は在った。
 いや、校舎であった物と形容する方が正しいだろう。
 何故ならそれは、チャイム同様、かつて慣れ親しんだ姿とは異なる姿へと、大きく変貌しているからだ。
 全体的に傾いている校舎の一階部分は完全に水中へ没しており、中央上部には大穴が開きその内部を露呈している。
 更に校舎の至る所にヒビが入り、うす汚れたそれは、正に朽ち果てた姿だった。
 そして校舎の周囲の建物。
 住宅として存在した周囲のそれらは、校舎以上に荒れ果ててる。
 一言で言うならば「残骸」だ。
 まるで絨毯爆撃でも受けたかのように、辺り一面まともな姿を留めている建物は何一つ存在しない。


 ――荒れ果てた大地に存在する奇妙なオアシス。


 俺の目の前に広がる風景とは、そんな物だった。

”……ギ〜ン ゴ〜ン ガラ〜ン ゴロ〜ン”

 どこか狂ったチャイムの音を響かせている校舎は、太陽を背にそびえ立ち、眩しい陽光の下でも、どこか不気味な雰囲気を醸し出している。
 その頂に備えてある大きな時計に、時刻を示す針は存在していない。



 それはまるで、この世界に時間など無意味だと、物語っているかの様だった。



















Beautiful Dreamer





















続く>
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