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鳥屋のエッセイ
P.3



ホオジロのテリトリー争い

チョッピーチリー、チョピーツク
ホオジロが梢にとまり天に向かって一生懸命囀る姿を見ると、草木が芽吹き、野鳥が伴侶を求め始める、生気あふれる春の到来を感じる。
冬場に群れていたホオジロのオスたちは、繁殖のために分散し、一斉にテリトリーを主張し始め、メスを呼び始めるから、里山一帯はホオジロの歌声で満ちる。

ひとつのテリトリーの大きさは、直径100メートルに満たない小さなもので、オスはこれを守るために、テリトリー内にある幾つかのソングポストにとまっては、ナワバリ放送をして回る。
そして巡回の途中で他のオスの侵入を発見すれば速やかに撃退行動をとるのだ。

このオス同士の遭遇戦の勝ち負けを観察した報告が面白い。勝敗結果は下記の傾向が顕著だという。
1.自分のテリトリーの中央部での戦いは勝つ
2.テリトリー外縁部での戦いは互角
3.テリトリーの外では負ける

不思議なことに、強いヤツはどこで戦っても強い、というわけではない。
防衛戦には強いが侵略戦には弱いのである。
マイホームを守ろうとする必死さの違いだろうか。
戦いに明け暮れれば強い個体でも傷つくだろうから、結局、各々のテリトリーが安堵されやすい穏やかな勝敗ルールの方が、種全体としての繁殖効率が高いのだろうと思う。
こんなナワバリ事情を知ると、ホオジロの囀りが一層心地よく聞こえる。







ヒナの首を絞める話

最近読んだ野鳥研究本からの受け売りだが。
野鳥が何を食べているかを調べる方法には、採餌を目視観察する方法、糞や吐き出したペリットを調べる方法、捕獲して解剖し胃の内容物を見る方法などがあるそうだ。

そういった類のひとつに、雛鳥が食べたものを調べる「首絞め法」という、恐ろしそうなのがある。
親鳥の留守を狙って、巣内の雛鳥の首をヒモで縛る方法だそうで、こうすれば飲み込んだ餌が胃袋まで届かず食道内に溜まるから、後でつまみ出して調べられる。
首絞め法は「絞め殺さない程度に縛るのがコツ」だと書いていた。
また、首を絞めず嘔吐剤で吐かせる方法もあるそうで、「この嘔吐剤は身体に悪くない」とも書いていた。
これを読み「フィールドの研究者は野鳥に優しいなあ」と、決して皮肉ではなく感心したものである。

成鳥の調査方法で一番手っ取り早く正確なのは、なんと言っても「解剖」である。
農林省がホオジロの食性を調べるために1300羽の成鳥を捕らえて解剖したことがあり、季節別に何を食べているかが詳細に判明している。
こんな大量殺戮事例があるのだから、首絞め法というのは名前が怖いだけで、やはり野鳥にやさしい調査方法に違いないと思う。








コミミズクの良く回る首

フクロウは首が良く回るので、商売に縁起の良い鳥とされている。
その首は270度も回るそうである。
フィールドでコミミズクの首の回り具合を撮影してみたら、真後ろまでを振り向けているから、どうやら360度回るようだ。
画像

人の視野の広さは170度あるが、フクロウは110度しかないという。
しかも、目玉の向きが固定されているから、左右を見るためには首を振るしか方法がない。
コミミズクが周囲を見回す様子を撮影し、画像4枚でアニメを作ってみたが、眼は動かずに首だけの動きで見回しているのが実に異様である。
眼をキョロキョロ出来ないぶん、首が良く回るようになったに違いない。
アニメ画像

フクロウ類は左右の耳の構造が異なっているため聞こえ方が異なり、この効果で音源の方向を正確に検出出来るのだそうだ。
顔の正面に向けて、向きが固定された目玉と、この特殊な耳は、暗闇で獲物の位置を正確に測るための高性能装置なのだろう。
ということを念頭に、さっきのアニメを見ていると、コミミズクの顔が、索敵のために回るレーダーアンテナのように思えてくる。







追われるヤマセミ

3月中旬、先輩に連れられてヤマセミ観察に出掛け、営巣地と休憩ポイントを見てきた。

ヤマセミと言えば人里離れた渓谷をイメージするが、意外にもその営巣場所は周囲に住宅が散在する町中の河川敷内にあり、我々が到着した時はヤマセミの番(つがい)が巣穴掘りの最中だった。
巣穴の場所は、蛇行した川の流れが崩した背丈ほどの崖(土の壁)で、増水すれば浸水の恐れがあり、近所の悪戯小僧が崖の上に腹這って手を伸ばせば届きそうな位置にあった。
ヤマセミも山間の大きな崖に営巣したいのだろうが、そうした適地が悉くコンクリートで覆われてしまったために、こんな町中にまで進出したに違いない。

我々の居る堤防上の遊歩道から、対岸の巣穴までは150メートル以上離れていたが、ヤマセミを警戒させぬように、しゃがみ込んで観察を始めた。
しかし、まもなく川遊びの人が河原に入り込んだため、番は上流の方へ飛び去ってしまった。
まだ8時半だというのに、河原の人出を見れば今日の巣穴工事はもう不可能に思われた。
これから育雛期に向けて川遊びやバードウォッチャーやカメラマンが増えるだろう。
結局この巣穴は放棄されるのではないかと懸念しながら、上流にあるヤマセミの休憩ポイントに向かうことにした。

気の毒なことに、ヤマセミは上流でも追われていた。
いつもヤマセミがとまるという3ヶ所の休憩ポイントのうち2ヶ所には、十数メートルの至近距離にカメラマンのブラインド(テント型)が設置されていたのである。
ヤマセミはブラインドを避けるだろうと考えて、このポイントでの待ち伏せをあきらめ、川沿いの道を歩きながら探索したところ案の定だった。居場所を失ったヤマセミは、人や車が通る舗装道路脇の木の枝で小休憩していた。
このヤマセミはその後、ブラインドの無い休憩ポイントに移動して落ち着いてくれたので、それからはゆっくりと観察することが出来た。

この日は楽しいバードウォッチングだったが、営巣地を追われカメラマンにも追われる、ヤマセミの窮状を目の当たりにして、考えさせられた一日でもあった。







クロガモ哀れ

夕暮れの波崎海岸で釣り糸の絡んだクロガモに出会った。→画像参照

最初はクロガモが居眠りをしているのかと思ったのだが、眼を閉じてコックリ、コックリと船を漕ぐように首が下がりクチバシが下に着いてしまうのは、かなり衰弱していたのだろう。
それでも周囲への警戒心が残っていると見えて、時々眼を開けるのだが、すぐにまた緩やかに首を落としながら、スーと眼を細めてしまう・・・命の灯が尽きていく様子を見るようで痛々しかった。

釣り糸であれ、鉛弾であれ、人のレジャーが残したゴミである。
人類を代表する気は無いのだけれど、このような野生動物の受難を見ると罪悪感を覚えてしまう。
この日は好天で気持ちの良いバードウォッチングをしていたのだが、このクロガモに出会って気分暗転、胸に苦いものが残った。







野鳥の囀りの「聞きなし」

音楽の素養が無いせいか、野鳥の声がなかなか憶えられない。
聞いた時には記憶したつもりでも、あくる日には忘れている。
夏鳥は木の葉で姿が見えないから、声で聞き分けたいのだが、テレコで繰り返し聞いて憶えても、翌シーズンまでにほとんど忘れてしまう。

そこで「聞きなし」を活用出来ないかと思い、インターネットで探してみたが、残念ながら見つかったのは、もともと特徴的なため憶えやすい野鳥の囀りばかりである。
誰か「バードウォッチャーのための聞きなし」を作ってくれないものだろうか。
英語の学習みたいにウォークマンで、囀りと聞きなしを交互に聞いて憶えられれば便利だと思うのだが・・・

せっかく調べたので、以下にその一部を掲載する。

サンコウチョウ 「月日星(ツキヒホシ)、ホイホイホイ」→鳴き声 
メボソムシクイ 「銭取り、銭取り」
メジロ 「長兵衛、忠兵衛、長忠兵衛」→鳴き声
イカル 「お菊、二十四?」「これ、食べても良い?」→鳴き声
コジュケイ 「チョットコーイ」「カアチャン、コワーイ」→鳴き声
ONETWOTHREE
キジバト 「ほうとう、食べたか」「デデッポッポー」
ホトトギス 「特許許可局」「テッペン、カケタカ」「包丁、研げたか」
鳴き声
イソヒヨドリ 「ホットケーキ」鳴き声
キビタキ 「ツクツク法師、ツクツク法師」→鳴き声
シジュウカラ 「土地、金、欲しいよ」
ジュウイチ 「十一(じゅういち)」
ヒバリ 「日一分、日一分、利取る、月二朱」
「天まで上ろう、天まで上ろう」
鳴き声
ルリビタキ 「ルリビタキだよ、ルリビタキだよ」→鳴き声
アオバト 「アーオ、アーオ」
フクロウ 「ボロ着て、奉公」「五郎助ホウホウ」「糊つけて干せ」
「ふるつく亡魂(ぼうこん)」
鳴き声
ホオジロ 「一筆啓上、つかまつり候」「源平ツツジ、白ツツジ」鳴き声
「札幌ラーメン、味噌ラーメン」「ちんちろ弁慶、皿持って来い」
ツバメ 「土食って、虫食って、シブーイ」
センダイムシクイ 「焼酎一杯グイー」「鶴千代君(つるちよぎみー)」→鳴き声
給料安―い」
サンショウクイ 「ピリリリ・・・(と辛い)」



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