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鳥屋のエッセイ
P.2



アリスイの長い舌

秋川の河川敷でアリスイを見つけた。
雑木にとまった姿をデジスコ撮影しようと、液晶画面を覗き込みシャッターチャンスを待っていると、アリスイのクチバシから驚くほど長いヒモのような舌が、スルスルと伸びて出るのが見えた。
これは写真に残したい貴重な瞬間だったが、舌はすぐに引っ込んだし、初めて見て驚いたこともあって、惜しくもシャッターは押せなかった。

クチバシから出た舌の長さは、アリスイの後頭部からクチバシ先端までの寸法を大きく超えているように見えた。
この長過ぎる舌はいったい何処にどうやって収納されているのだろう。
収納は、折り畳んでいるのでもトグロを巻いているのでもなく、多分キツツキ科に特有な舌骨・・・アゴから後頭部、頭頂を通り、鼻のところまで頭蓋骨をグルリと一周する舌骨構造・・・の伸縮によるのだろうと思う。
それにしても長かった。

アリスイはその名の通り、アリを主食としており、長い舌はアリやアリのサナギを舐め取る生活に適応進化したものである。
哺乳類のアリクイの舌も同じように細長いし、哺乳類の住まないオーストラリアには、アリクイと良く似た有袋類のフクロアリクイが居る。
全くの別種でも、同じニッチ(独特な生存領域)を選択すると、似たような身体になることを収束進化と言うそうだが、身体の一部とは言え、鳥と四つ足動物がソックリになるというのは面白い。

もう一度長い舌を見せてくれないものかと、レリーズを握りシャッターを半押ししたまま、液晶画面に眼を凝らし、まばたきを我慢して待ったのだが、アリスイは舌を見せることなく飛び去ってしまった。








野鳥の一夫一婦制

オシドリ夫婦という比喩があるが、ヒトと同じように一夫一婦制をとる野鳥は多い。
最近、野鳥の番(つがい)観察研究の本を読んだが、野鳥の一夫一婦の現実が解って、とても興味深かった。
この野鳥研究は、ヒトの一夫一婦制を考えるうえでも、なかなかの示唆を与えてくれる内容だった。

野鳥の一夫一婦システムは、要約すれば次のようなものらしい。
@メスは、誰からも妨害がない状況下で、格好良いオスが寄ってくれば、交尾をする。
Aしかし、もてるオスは多くのメスに人気があるから、これと番って子育て(営巣)出来るチャンスは当然少ない。番わずに交尾だけをして母子家庭で子育てすれば、給餌不足のため巣立ち雛数が減ってしまう。だからメスは平凡なオスと営巣して、自分の子孫を確実に残す道を選んでいる。(そうしない性質のメスの遺伝子は、多くの子孫を残せないので淘汰されてしまう)
B営巣したオスは、絶えず囀りや示威行動で他のオスの侵入を防ぎ、テリトリーを守り続ける。しかしこの守りは完全ではなく、妻の婚外交尾は防ぎきれない。

見た目は一夫一婦制だが、Bの防衛体制が不完全なため、雛の中には夫以外の子供が混じってしまう。
夫以外のオスというのは、もてるオス・・・囀りが多彩だったり、尾羽が長かったり・・・メス好みの、格好の良いオスなのである。
一夫一婦の形態をとりながらも、優れたオスの子孫が増える性淘汰のシステムも組み込まれているのだ。

日本のオオヨシキリの親子関係をDNA鑑定すると、10%前後が夫以外の子供だという・・・なるほど、オオヨシキリのオスが一日中、ギョギョシ、ギョギョシ、ケシケシケシ、とやかましく囀り続けるのには、かくも深刻な事情があったのか。
さらに、オオヨシキリ以上にすごいのが居る。ゴウシュウムシクイという鳥では、夫以外の子供が、なんと60%以上を占めるという。

これを擬人的に見れば乱脈至極な話なのだが、野鳥の世界には倫理がないから不倫もあるわけが無く、法がないから不法も無い。まさに色即是空で、ごく自然な行為なのだろう。
最後に付け加えると・・・あの仲睦まじそうなオシドリ夫婦も例外ではないという。空即是色。








野鳥への給餌

毎冬2〜3回だが、狭い我が家の庭が雪化粧を見せてくれる。
雪の積もった庭のバードフィーダーを見ていると、いつも思い出す話がある。

日本の話ではないのだが、雪の多い土地に住んでいる人が庭にバードフィーダーを設置し、毎日欠かさずに給餌を続けて、訪れる野鳥を眺めては楽しんでいた。
そんなある時、旅行のため留守をすることになり、ほんの数日間バードフィーダーの給餌をストップした。
旅行から帰って庭を見ると、雪の上に飢えて死んだ小鳥が何羽も落ちていたそうである。

野鳥が雪国の冬を生き延びるのは容易ではない。
食いだめの出来ない野鳥は、苦心して餌場を開拓し、春までを食い繋ぐための、毎日の行動パターンを見つけ出す。
しかし、この野鳥たちはバードフィーダーが出現したため、地道な開拓努力を放棄して、すっかり人の給餌に依存しきっていたのである。

昨今はバードフィーダーがブームである。雪の多い山間部のペンションなどが、宿泊客サービスのために設置する例も見られる。
さらに大規模なのは、町や村を挙げて実施している、白鳥やその取り巻きであるカモ類への給餌である。
一見、これらは愛鳥的な行為なのだが、実際は逆で、野鳥たちのリスクを増大させている。








大きいメスと小さいオス

お馴染みの猛禽であるオオタカの体長は、メスが56.5センチなのに、オスは50センチしかない。このようにタカ類はメスの身体がオスよりも大きいという例が多い。
その理由として、オスは小型化することで獲物を狩る機動性を確保し、巣を守ることの多いメスは、地上戦を有利にするために大型化したのだと説明されている。

タカに限らず、生物界にはメスの方が大きいという、ノミの夫婦現象が多く見られるのだが、あきれるほど極端な動物が居る。
アンコウの一種であるビワアンコウは、メスの体長が120センチもあるのに、オスは僅か1.1センチしか無い。
オスはメスの生殖器付近に噛み付いてヒモか寄生虫のようにぶら下がり、メスから栄養を貰って暮らすのである。

人間世界にも、これに良く似た、ヒモとか寄生虫と呼ばれるオスが居るけれど、アンコウに比べれば、まだまだ善良かもしれない。
アンコウのメスに噛み付いたオスは、やがてメスの身体と癒合して完全に同化し、死ぬまで寄生生活を送るのだそうだ。
悪い虫に取り付かれたアンコウは、気の毒としか言いようが無い。








足環調査の害

いつも見せていただいている、某ホームページの掲示板にバンディング調査の体験談が書かれていた。
カスミ網で21羽の小鳥を捕えたが、放鳥までに2羽が死んだらしく、体験者は複雑な思いを語っていた。

この事例の死亡率は10%以下だったが、恐怖にさらされて開放された小鳥達には、人には分からない何らかの悪影響が残ったのではないだろうか。
軽い足環とはいえ、小さな小鳥のことだから長距離を飛ぶ「渡り」の負担になるのではないか、釣り糸が足環に絡むのではないか、などなど心配である。

フィールドでの野鳥観察からバンディングの意外な影響が見つかっている。
オーストラリアのキンカチョウは、青や緑の足環をつけた個体は異性に嫌われて一生独身生活を余儀なくされるそうだ。この逆に、赤い足環を付けたオスはメスにもてて、ピンクと黒のメスはオスに良くもてるという。
アメリカのハゴロモガラスは、赤の足環をつけると、なぜか縄張りが守れなくなる、という観察報告もある。
野鳥の世界には、人智の及ばない事実やカラクリが沢山隠れている。

行動観察のためのバンディング調査などには、一回限りの調査も多いはずで、そんな短期利用のために、野鳥に一生涯の足環生活を強いるのは気の毒である。
短期間に劣化して脱落する素材の足環は作れないのだろうか。
あるいは、恐い思いをさせる小鳥への、せめてものお詫びに「もてもてリング」なるものを開発してはどうかな・・・








タカの渡り、帆翔と滑翔 

「帆翔」という言葉にはゆったりとした感じある。翼に風をはらみ、青空を背景に悠然と舞うタカの姿が眼に浮かぶ。
タカの渡りは、晴天の日の上昇気流を捉え、羽ばたくことなく帆翔し高度を上げて、次にグライダーのように空を滑る「滑翔」で旅立つ。

高さをどれだけの移動距離に変換出来るかを滑翔効率と言うそうだが、ノスリの滑翔効率はおよそ11・・・高さの11倍の距離を滑翔出来るらしい。
500メートル上空から滑翔すれば5.5kmを移動出来る計算となる。
ちなみにグライダーの滑翔効率は35もあるそうだ。
タカがさらに遠方へ飛ぶためには、次の上昇気流をみつけて再び高度を回復する必要があり、単純化して言えば鋸刃型の飛び方をすることになるわけだ。

タカの渡りは、羽ばたきを節約した省エネ型の飛翔に特徴があるのだが、上昇気流や上向きの風を捉えなければならないぶん、天候や地形や時刻に依存し制約される。
だから、上昇気流の発生しやすい地形や、上向きの風が生じる尾根沿いの通路などが、タカの飛ぶコースに不可欠となる。
渡りに好都合な諸条件が限定されるために、自ずとタカたちは同じ時刻に同じ場所に集まるのではないだろうか。
集まったタカが上昇気流をとらえてタカ柱状態となるのは、仲間の動きを見ることで上昇気流を「可視化」し、最適な位置を探るためだとの説もある。

上昇気流は陸上で発生し水上では発生しにくいから、タカは広い水域を越えるのを避け、陸地沿いか島伝いのコースをとることになる。
日本のサシバは琉球列島伝いにフィリピンに渡るし、北米から南米に渡るタカは中米の狭い回廊を通り、欧州からアフリカに渡るタカは地中海を東か西に迂回して、イスラエルかジブラルタル海峡を通る。
イスラエル空軍は、ノスリ等と衝突して戦闘機が墜落する事故が多いため、レーダーで渡り鳥の監視をしているという。レーダーに映るほど多くのタカが一斉に渡るのである。
このデータは渡りの研究をする動物学者たちの有益な資料になっているそうだ。







ヘビを襲うモズ


2001
年の4月末。筑波山近くの田園地帯を走行中、竹薮にチュウサギとゴイサギのコロニーを見つけた。
車を停めて、ゴイサギの巣材運びと、チュウサギが天女の羽衣のような飾り羽をヒラヒラと見せ合う華やかな様子を見上げていると、すぐ傍を流れる小川の岸辺でホバリングしているモズが居るのに気付いた。
モズは地面から1メートルぐらいの高さでホバリングしながら、しきりに急降下を繰り返しては地上の何者かを攻撃していた。

驚いたことに、攻撃されているのは体長1メートルほどのシマヘビだった。
ヘビは鎌首を上げて、モズが降下するタイミングを計り、逆に食らいつく動作で応戦している。
ヘビはモズを丸のみ出来る大きさである。
ヘビがモズを襲うというのなら理解できる。しかし眼前の光景は反対で、明らかにモズの側が攻撃を仕掛けていた。

ボクは、モズが食いつかれ、呑み込まれてしまうのではないかとハラハラしながら見入ったのだが、ヘビは6〜7回目の攻撃を受けたところで反転し、後ろを見せて逃げ出した。
ヘビは追撃を受けながら斜面を下りて川の中に入り、水面をクネクネと泳いで逃げ去った。
モズが無事に飛び去るのを見送ってほっと安堵したのだが、同時に、息詰まる攻防がごく短時間で終ったのが惜しくてならなかった。

モズはなぜ無謀な攻撃したのだろう?
ヘビと縄張りを争う筈は無いだろうし、モズが営巣中だったとしても、戦いのあった場所周辺は開けていて、巣に危険が差し迫っていた状況とも思えない。まさかとは思うが、ただ単純に獲物として狙ったのだろうか。

小さなモズの勇猛ぶりに感動して、この目撃以来、ボクはモズに畏敬の気持ちを持つようになった。


画像参照モズ








モズとホオジロの食糧事情

今年も冬鳥たちが里にやってきた。
モズの高鳴きが聞こえ、ホオジロも姿を見せた。
冬は小鳥たちが食料の確保に苦心する季節である。

生餌を主食とするモズにとって、冬は特に厳しい季節だ。
モズが春までを生き延びるためには、一定のテリトリー確保が不可欠となる。
到着早々の高鳴きは、自分の縄張りを主張する叫びなのである。
テリトリーへ侵入するものがあれば、断固としてこれを追い払う。
侵入者が、先日まで一緒に子育てをしたパートナーであったとしても同じだ。
冬は色気より食い気の季節なのである。

こんなモズとは異なり、ホオジロたちは穏やかなもので、いがみ合うことはない。
ホオジロ1300羽(!)を捕らえて解剖し、胃の内容物を調べた旧農林省の調査によれば、7〜8月はほとんどが甲虫などの動物食だが、1〜2月はイネ科やカヤツリグサの種子など、ほぼ100%が植物食だったという。
ホオジロは、生餌とか種子とかの選り好みをせず、季節ごとに手に入りやすい餌を食べているのだ。

我が家にもホオジロが居るようで、食卓を観察していると、スーパーの店頭事情が簡単にわかる。
しばらくキャベツが出ないなと思って尋ねれば、間違いなくキャベツの値段が高騰している。
高騰した特定のものが食卓に載らないのは仕方ないけれど、暴落した白菜が続く時はウンザリする。



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