目次に戻る

トップへ戻る

次へ

鳥屋のエッセイ
P.1


キツツキの脳震盪(のうしんとう)

キツツキが木片を飛び散らせながら、木の幹に穴を穿つ勢いは凄まじい。
脳震盪を起すのではないか、という心配が時々話題になるほどだ。
営巣シーズンになると、一斉に巣穴堀りが始まるので、林の中を探せば脳震盪で気絶したキツツキが落ちていて拾うことが出来る、という話がある。
この話はマユツバだろうが、コゲラが時々見せるジグザクで無秩序な飛び方は、脳震盪を疑わせるに十分である。

野鳥関連の本を読んでいたら、脳震盪を起さない理由として、キツツキの身体が「クチバシの衝撃を全身で受けるような構造」になっているからだという解説があった。
具体的にどういう構造なのかの記述はなかったが、この手の後講釈はアヤシイものが多い。

先日、コゲラが木の枝を突ついている姿をデジカメの高速連写機能を使って撮ってみた。
写真は4コマだが、木を突いた瞬間の画像には、飛び散る木屑とともに、コゲラが眼をつぶっている様子が写っていた(4コマ画像)。
なぜ眼をつぶったのだろう?
衝撃の大きさに思わず眼をつぶったのか、それとも、飛び散る木屑が眼に入らないように、いつもこうしているのか。(4コマ画像のアニメ)
ワンシーンだけの撮影なのでデータ不足だが、小さな発見ではあった。


(後日の追記)
某HPの掲示板に、木を突いた瞬間に眼をつぶったコゲラの画像が貼られていて、「眼をつぶることがあるんですね」とコメントされていた。これを見て、もしかしたら突くたびに眼をつぶっているのではないかと、またまた好奇心が復活した。
コゲラの木突つきは振動しているかのように高速だから、突いた瞬間に必ず眼をつぶるのであれば、ものすごい速さの瞬きを、パチパチパチパチと繰り返すことになる。
眼をつぶらないとすれば木屑の飛散から眼を守れないし。
さて真相は?








手づかみでタカを捕まえる

10月下旬頃、サシバは琉球列島を通り、島伝いにフィリピンに渡る。
この渡りのバンディング調査が行われ、宮古島で2486羽を捕獲し、足環を付けて放鳥したことがある。
その後、この足環の再発見率は4%(104羽)もの高率になり、サシバの移動データが充実したというのだが、驚いたことに、この高率の理由は「狩猟」にあった。
フィリピンではタカを食料にしているのである。
この4%以外にも、もっと多くのサシバが捕獲されているはずだから、バードウォッチャーとしては気になる話である。

さて、この狩猟方法だが、鉄砲で撃つのではなく、なんと手づかみだという。
渡るサシバの通路に当たる島々では、高い樹の上にブラインドを張り、その中に人が潜んでサシバを待つ。
そして、海を越えて来たサシバが羽を休める為にブラインドの上の枝にとまったら、下から手を出してサシバの足をムンズと掴むのである。
日本国内でブラインドから出るのは、カメラマンの望遠レンズだが、フィリピンでは狩人の手が出るのだ。

原始的な狩猟方法だが、意外にも効率が高いようで、バンディング調査のためにこの方法を採用したところ、1〜2シーズンで1000羽のサシバに足環を付けることが出来たそうだ。
この秋、全国各地で大勢のバードウォッチャーに見送られたサシバのうち、いったい何羽が食べられたのだろうか・・・









コンビニはバードウォッチャーの強い味方

バードウォッチングに出かけるときは、いつもコンビニで昼メシを調達する。
早朝でも開いているし、店は明るくキレイだし、オニギリは旨い。
こんな便利な店が無かったころを思い出す度に、コンビニは我々バードウォッチャーの有り難い味方だと感謝している。

オニギリの年間売上は、セブンイレブン1社だけでも800億円だそうだ。
1個100円だとすれば8億個、1日当たりなら実に200万個。ボクがいつもの2個を食べている時に、100万人が同じモノをモグモグやっている・・・ちょっと胸が悪くなりそうな、すごい販売量である。

販売力が強大なら、きっと仕入れ先に対してもオソロシク強いのでは?と、○○ミリーマートの人に尋ねてみた。
雄弁な彼の説明によれば、コンビニの仕入れ先に対する影響力、支配力はすさまじい。
流通業界のキャプテンと見られている百貨店は総売上額こそ大きいが、取り扱いアイテム数が多いため、1アイテム当たりの平均売上は、たったの2百万円にしかならないのだそうだ。
ところが○○ミリーマートの品揃えは3,000アイテムしかないので、1アイテムあたりの平均売上は、なんと1億円にもなると言う。
1億)÷(2百万)=50倍
金額で見れば、仕入れ先やメーカーに対する○○ミリーマートの交渉力は、百貨店の50倍も強い・・・50倍もコワーイ存在なのだ(セブンイレブンは、さらにその2倍もコワイ!)。
しかも、自動車や家具や着物や電気製品のような高単価商品ではなく、わずか数十円から数百円の低単価商品だけで、1アイテム1億円もの仕入れボリュームというのは、どんな仕入れ先もメーカーも「すっ飛んで」しまうほどのバイイング・パワーだと言う。

いつもオニギリを売ってくれる小さなお店には、野鳥に例えればルリビタキのような、小さくて可愛い小鳥のイメージを抱いていたのだが、とんでもない。
実は猛禽類のようなスーパーパワーだったのかと、大いに驚かされる話であった。







デジカメを双眼鏡に繋いだ「デジ双」

双眼鏡は並列した二つのスコープが連動する仕組みになっている。
だから、片方を覗いて鳥にピントを合わせ、もう一方にデジカメを繋いでおけば、鳥を見ながら撮ることが出来るはずだ。
この方法なら動く鳥を追従出来るだろうから、飛行中の鳥が撮れるかもしれない。
そこで、手持ちのカメラと双眼鏡を、塩ビの水道管パイプを使って繋いでみた。
このデジカメは秒間15枚連写が可能だから、連続写真も期待できる。
デジカメ+スコープをデジスコと呼ぶのだから、これは、さしずめ「デジ双」かな。

早速試してみた。左手で双眼鏡を持ちながら指でピントリングを操作し、右目で覗く。
右手はカメラを持ちシャッターを押さえる。
結構ややこしく、操作も忙しい。
まずは、庭の花を試し撮りしてみた。
花は動かないから、上手く撮れる。
双眼鏡は10倍の高倍率で、手持のブレが出やすいものの、明るく晴れてシャッター速度が上がれば、空飛ぶ野鳥の面白い写真が撮れる可能性はありそうだ。

久し振りに晴れてくれた日曜日、いよいよトビモノを撮ってやろうと、新兵器を抱えて近所の公園に出てみた。
しかし、野鳥はこちらの望み通りに飛んでくれるものではない。
たまに飛んだとしても、双眼鏡の視野の中に入れないうちに飛び去ってしまう。
うまく視野にとらえても、飛びながら遠ざかって行く鳥や、近づいてくる鳥は、ピント合わせの追従が難しい。

散歩中の人に怪訝な顔で見られながら悪戦苦闘・・・。
1
時間ほどでメモリー全部を使い切ったけれど、ほとんどがNG。
かろうじて撮れた貴重な連続写真がこのムクドリである。

他にダイサギとコサギを撮ったが大ボケ小ボケ・・・労多くして成果が少なかった。
せっかくの苦心作だが、新鋭デジ双はたった1日でオクラ入りとなった。








野鳥の野外スタジオ

某公園にノゴマが出ていると聞いて出かけた。
教えられた場所に着くと、十数人のカメラマンが一ヶ所に密集して望遠カメラを並べている。
居並ぶカメラが狙っているのは、5〜6メートルほど先の、芝生に突き刺している木の枝。
枝には赤い実がいくつもぶら下がっていて、小鳥がとまれば絵になりそうだ。
若いカメラマンが枝の前に座り込んで、小鳥の餌になる虫(ワーム)を丹念に仕掛けている最中だった。

仕掛けが出来上がると、カメラマンたちは静かに小鳥の出現を待ち始めた。
数分後、枝のすぐ脇の茂みから、喉の赤いノゴマのオスが姿を現した。
彼はいったん芝生上で立ち止まり、しばしカメラマンの様子をうかがってから、撮影舞台である枝の上にヒョイと飛び乗った。
ノゴマが餌を食べ尽くすまでの短い時間は、カメラの連写音が鳴りっぱなしだった。
ノゴマが茂みの中へ消えると、再び、餌の取り付け。
餌の取り付けとノゴマの登場が数回繰り返されて、ノゴマはモデル料を稼ぎ、カメラマン達はそれぞれに満足な撮影が出来たようであった。

滞在期間の短い旅鳥のノゴマを、どうやって、あそこまで慣らしたのだろう。
初めて会えたノゴマの綺麗な赤い喉も印象的だったが、それ以上に、カメラマン達の「野外スタジオ」にはあきれるというか、度肝を抜かれた。

・画像参照ノゴマ








鳥見ツアーのお値段

与那国島バードウォッチングツアーに参加したYさんから、鳥見の成果を知らせるメールが送信されてきた。
リュウキュウヨシゴイ、ムラサキサギ、シロハラクイナ、カラムクドリ、シロガシラ、ムネアカタヒバリ、セジロタヒバリ、ズアカアオバト・・・・・ボクがまだ出会ったことのない野鳥の名前がズラリと並んでいて、まさに垂涎ものである。
さらに「ツメナガセキレイなどは掃いて捨てるほど居て、しまいには誰も見向きもしなくなった」という、随分ゼイタクな報告だった。

「いいなぁ、行きたいなぁ」と思い、費用を尋ねたら34日で136.000円と結構なお値段ではないか。
しかも民宿風の旅館に3人相部屋で共同風呂、食事は質素。
もちろん名所観光などは全く無いという。
これ、高いんじゃないかなと思いながら、たまたま足元に落ちている新聞を開いたら、イタリア8日間100.000円、フランス7日間139.800円、エジプト10日間159.800円という広告が並んでいた。

Yさんによれば「これでも他社よりは安い」のだと言う。
鳥さえ見せておけば満足するお客ばかりなのだから、これで良いのだろうが、旅行業界にもいろんな商品があるものだと感心した。








繁殖期には眼の色変えて・・・

ダイサギとチュウサギは良く似ていて、見分けるのが難しい。
両者は入り混じって行動していることが多いから、奴ら自身にも紛らわしいのかもしれない。

サギ達は繁殖の時期になると「眼の色を変えて」嫁さん婿さん探しを始める。
ダイサギは眼先が青くなり、チュウサギは眼が赤くなって目先が黄緑色になる。
この婚姻色の違いは、両者の交雑を防ぐ仕掛けなのかもしれない。
DNAに色の好みが書き込んであれば、異種の色香に惑わされることはないだろう。

ひとつの種(しゅ)が存続するには「他種と交雑しない」ことが必須条件だ。
アフリカの
ライオンとアジアにトラは、その生息域が離れているから、自然のままで交雑することは無いのだが、動物園では一代雑種「ライガー」が生まれる。
両者を隔てている障害(距離など)を、人為的に取り除いてやれば、交雑しうるのである。
トンボとりの話だが、ヤンマのオスをおびき寄せるために、異種のトンボの腹部に白い絵の具を塗り、竿の先に繋いで振り回す方法がある。オスは白い腹をみると、メスだと思って飛びかかってくるのだ。

こんな事例から悪趣味な空想をするのだが・・・繁殖時期のサギ達を捕まえて、片っぱしから別色のアイシャドウを塗って野に放したら、どうなるだろう? 
空前の大混乱が起きるかもしれない。







バードウォッチャーとカメラマンの違い

バードウォッチングを始めて間もない頃の話。
利根川の河原に、珍鳥ケアシノスリが居ると聞いて出掛けてみた。
現地に到着し、堤防から双眼鏡で見回すと「居た居た・・・」。
鳥ではない。遠くに20人位だろうか、バードウォッチャーの一群を発見。
カモメの舞う場所に行けば、イワシが獲れる理屈と同じで、あそこへ行けば居るに違いない。

「出てますか?」
「あの枯れ木に止まるらしいですよ」
指差す方向、だだっ広い河原にポツンと一本、背の低い枯れ木が見えた。
今はまだ居ないが、時々現れて枯れ木のてっぺんに止まるのだという。
20人のウォッチャーがたむろする堤防からの距離は、およそ150メートルある。

枯れ木の方を見ると、木から15メートルほどの至近距離に10人ほどのグループが見えた。
反射的に「あんな近くに寄れるのは、何か特権の有る人達かな」と思った。
「あれは・・・?」
「今日はカメラマンが増えましてね」
高倍率のスコープで観察するだけのウォッチャーは150メートルでも構わないが、カメラマンは接近しないと写真が撮れないのだ。
ウォッチャーの距離は「観察出来て、しかも鳥を追わない距離」という経験の積み重ねから自然、身についている。
接近し過ぎて鳥を飛ばせば仲間に睨まれる、という縛りもかかっている。

近距離のカメラマンは静かに、忍者のように潜んでいる。
ウォッチャーグループは安全距離に居るという安心感があるし、女性が多いので、賑やかにおしゃべりしながら、ウロウロ動き回っている。
それにしても、15メートルと150メートルの2グループに、はっきり分かれているのは、面白い風景だった。

バードカメラマンとは・・・迷彩を施したバズーカ砲を抱えて、一人で茂みに潜む、静かな兵士。
バードウォッチャーとは・・・おしゃべりしながらゾロゾロ、ウロウロ。半数が女性で、時々オヤツを回しあう、一見、物見遊山的なグループ。
ウォッチャーとカメラマンの違いは、まあ、こんな感じかな。



目次に戻る

トップへ戻る

次へ