プロローグ

The Three Musketeers  三銃士  Pastiche  パスティーシュ


  義理人情が高くつく
  

 銃士隊長のトレヴィルは、義弟のエサール侯とは非常に親しく、本当の兄弟として、親友として付合っていた。そういう関係だからこそ、互いに仕事の面でも助け合い、融通を利かせ、援助しあっている。
 トレヴィルとしては将来是非にも銃士隊に入れたいと思うダルタニアンを、エサール侯になら安心して託していられた。このダルタニアンという同郷の若者は、剣術は滅法強く ― 正確には『実戦』においてはほぼ無敵で ― 目端が利き、頭の良い。エサール侯の護衛隊にとって素晴らしい戦力増強になったことだろう。
 それは良い。
 それは良いのだが、同時に一部の銃士隊員の絡んだトラブルが続発するのは、どうしたことだろう。
 トラブルはこれまでもあった。喧嘩だ、決闘だ、食逃げだという騒ぎは以前から日常茶飯事だったが、どうも最近それが派手になる傾向にある。トレヴィルが見る所、一部の銃士隊員 ― 三銃士と呼ばれているアトス,ポルトス,アラミスの三人と、ダルタニアンという若者がつるんで街に出ると、必ず一騒ぎが起るのだ。しかも悪い事に相手が枢機卿の護衛士であることが多く、更に最悪な事に大抵三銃士とダルタニアンが勝つ。
 勝つこと自体は誠に結構な話だが、後で枢機卿に苦情を言われるのは愉快な事ではない。もちろん、自分の銃士達が鼻持ちならない枢機卿の護衛士達をコケにするのは爽快なのだが、それだけでは済まないのが、「最悪」の「最悪」たる所以であり、トレヴィルの辛さだった。
 最新の情報によると三銃士とダルタニアンは、サニョルという枢機卿護衛士の伍長クラスの男の他数人を、剣も使わずにコテンパンにした挙句、気味の悪いものがたっぷり巣食っていそうなドブに放り込んで、大勝利を挙げたらしい。

 せめてもの救いなのは、どんな騒ぎにしろ「ダルタニアンには責任がなく、彼は巻き込まれて止む無く参戦したのだ」と三銃士が言い張る事だった。
「いや、それは…」
といい掛けるダルタニアンを、ポルトスが羽交い締めにして、アラミスがその口を塞ぐのを目撃したのも、一度や二度ではない。そしてアトスが、例によって青白い顔にすわった目つきで、
「懲罰は我々に。ダルタニアンは被害者です。」
などと言って凄むので、トレヴィルは溜息をつくしかなかった。
 「お前のその押し付けがましい仏頂面を見ていると、説教をする気も失せる。」
 その日も、トレヴィルは執務室に三銃士と若い護衛士を呼び出し、同じパターンにはまった。眼前まで迫っていたアトスの青白い顔が、一瞬ニヤリと微笑む。本来の高貴な身分が醸し出す鷹揚な雰囲気を、この男は悪用しているとしか言いようが無い。
「説教はしない以上、更に時間の節約をしよう。お前達四人に仕事をやるから、しっかり成果を出してこい。」
「お仕事ですかぁ?」
 ポルトスが羽交い締めにしていたダルタニアンを解放しながら、能天気な声で言った。アラミスは皺になったダルタニアンの襟を直しながら、トレヴィルの方へ向き直った。アトスはトレヴィルの目の前に突き出していた頭を戻し、背筋を伸ばしながら尋ねた。
「隊長、何かというと我々をパリから出す任務を出していませんか?」
「他に何か良い手があるか?」
「ありません。」
「じゃぁ、さっさと支度しろ。目的地はバニアだ。」
「バニア?」
ポルトス、アラミス、ダルタニアンが同時に聞き返した。



 
→ 1.愛と自由のバニア騎士団
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