二人がロンドン塔に戻ってくると、衛兵が驚いた声を上げた。
「皇太子殿下に、サー・デイヴィッド!ウェストミンスターではなかったのですか?」
「色々あってね、気が変ったんだ。」
ハルはするりと馬から下りると、手綱を衛兵に渡した。
「誰か来たか?」
「いいえ、とくにどなたも。」
「叔父上は?」
「サマーセット伯爵は引き続きいらっしゃいますよ。トマス・ボーフォート様は、朝からお出かけですが。」
「リンドレイは?」
デイヴィッドがたずねると、衛兵はちょっと首をかしげた。
「リンドレイ?」
「ボーフォート家の家臣だよ。ウェイルズ戦線への物資と人員補給の準備をしているはずだが。」
「ああ、あのリンドレイさんね!」
衛兵は大きく頷いた。
「朝から、出入りの業者とかと色々仕事をしているようですよ。夕方からは募集人員の整理とかで、人が来るからよろしくって、言われましたけど。お二人がいらしたと、知らせてきましょうか?」
「いや、いいよ。俺とデイヴィッドがここに戻った事は、ちょっと内緒にしておいてくれ。」
ハルは悪戯っぽく片目をつむってみせながら言った。
「サマーセット伯爵にも言うなよ。なに、叔父上には病気療養に専念していただくさ。それから…」
ハルは足元でウロウロしているフッカーを抱き上げて、衛兵に渡した。
「こいつになにか食わしてやってくれ。なんだかここで飼う事になりそうな気がする。」
「猫ですか…まぁ良いですが…食料庫のネズミ獲りをしてくれれば良いですがね。」
「大丈夫、狩猟意欲満点の猫だ。」
 そう言い残して、ハルはデイヴィッドと共に塔の中へ姿を消した。

 ハルとデイヴィッドは塔内の賄いへ潜り込み、パンやエール、チーズ、塩漬け肉、果物、豆に冬の根菜サラダなど、とにかくありったけの食べ物を掻き集めた。二人がバスケットを抱えて逃亡しようとすると、料理人や従僕達にたちまち見つかり、勝手に持っていくなとか、今日の晩餐をどうしてくれるとか、散々文句を言われつつも脱出に成功した。
 二人は複数の建物で構成されるロンドン塔の内、テムズ川に面したセント・トマス塔を登った。普段、居住用には用いられず、主に武器庫,貯蔵庫とされている。地階の南側にはテムズ川にせり出した船着き場があるはずだ。ロンドン塔には様々な商人が出入りしているが、陸路で来たものは中庭で商売をする。希に出るテムズ川経由の大きな荷物は、この船着き場が窓口になっていたはずだが、最近船着場の手入れが行き届かず、あまり人の出入りがない箇所になっていた。
 ハルとデイヴィッドは塔の少し上の小さな部屋に入った。かつては、船着き場側の衛兵の詰め所だった所だが、今は使われていない。窓には古びた木の板がはまっている。ガタガタとゆすってみると、あっけなく窓は壊れ、ぽっかりと口を開けてしまった。眼下にテムズ川が見えた。二人は大きくもない窓から一緒に身を乗り出して、下を覗き込んだ。
 今日は気温が上がらず、川霧が晴れない。しかし、そこには確かに船が一隻係留されていた。船の周りに人影はない。
「どうだ?」
ハルがたずねた。
「対岸が見えないな。」
 デイヴィッドが答えると、ハルも同意して窓から顔を引っ込めた。
「さて、我慢比べだ。日没までに片付くかな?」
 ハルは窓枠からついた埃をはたきながら、ロウソクに灯を点した。時刻は昼間。南に面した塔の、上の方の部屋にもかかわらず、窓から差し込む光はひどく弱々しかった。
 二人は部屋や外の通路を見回したが、テーブルに適当な物がない。仕方が無いので、床に獲得した食料ならべた。ハルは部屋の奥、壁に背をもたせかけて座り、デイヴィッドは窓枠に腰掛けた。狭い部屋なので、二人の間の食料は丁度良い距離になった。
 いちじくをナイフで切り分けるデイヴィッドに、ハルがエールをコップに注いで渡した。
「よし、デイヴィッド。情報を整理しよう。」
デイヴィッドは黙って頷き、大きな皿に入れて運んできた煮込みを抱え込んだ。
 「ここに、ロヌーク夫人という女性が居る。最初に姿を現わしたのはいつ、どこだ?」
 ハルの問いに、デイヴィッドは口に運んだ煮込みを咀嚼する時間を要したが、嚥下した後に答えた。
「先々月だ。ナヴァールの貴族で外交官の、アルフォンソ・ラペ氏がポーツマス行きの船の中で会っている。」
「叔父上が調べた所によれば確か、船はラ・ロシェルを出港、サンネザール、ブレスト、シェルブール経由のポーツマス入港だったな。フランスの船に間違いはないはずだ。ロヌーク夫人が乗船した場所は…デイヴィッド、覚えているか?」
「シェルブールだ。ラペがそう証言している。」
「そしてポーツマス。甲冑の盗難騒ぎで途方に暮れるラペに、王子たちの情報が豊富で、腕の良い甲冑職人がロンドンの下町で工房を開いているという情報を提供したのが、ロヌーク夫人だ。…彼女、その後はどうしたんだろう。」
 デイヴィッドはしばらく口の中で煮込みの固い肉をかみ砕き続けていたが、それが終了するとおもむろに答えた。
「不明だ。ウィンチェスター司教も今の所、お前に情報入手の一報を入れていないのだろう?」
「ああ。」
「ただ、ロンドンに来た事は分かっている。ウィッティントンと契約しているからな。その前後に彼女がイングランド国内で何をしていたかは分からないが、先月にはモンマスに現れた。」
「そして、ジェーン・フェンダーに俺達の危機を知らせた…どうやら『敵』ではないようだな。」
「『敵』だとしたら、どんな『敵』だ?」
「王族には『敵』が多いんだよ、デイヴィッド。例えば、温かい煮込みを一人占めしようとするやつとか…」
 デイヴィッドは抱え込んだ皿に視線を落とすと、もう三分の二以上食べてしまっている事に気付いた。彼は身を乗り出して皿をハルに渡すと、体を戻しながらパンを掴み、豆と菜っ葉のサラダの皿を抱え込んだ。また窓枠に座り直すと、パンを真ん中から割り、サラダを詰め込みながら言った。
 「『敵』ではないとしても、フランス人であることは間違い無いだろう。乗船地はシェルブールだし。ジェーンもマライアも、『フランス人に違いない』と認識した事が共通している。その上、彼女がレッド・ホロウの連中に贈呈しようとしたワインは、明らかにフランス産だ。…チーズとってくれ。」
「ブルゴーニュより ヴィス・ワイン 三樽 ― 出荷主 ロヌーク夫人…か。」
 ハルは呟いた。そしてスライスしたチーズを二枚摘み上げると、デイヴィッドに手渡す。ついでにハムを一緒に渡すと、デイヴィッドはそれらをやはりパンの中に押し込んだ。そうして出来上がった大きな食べ物の塊を、満足げに眺めて珍しくニコニコしている。
「美味そうだな、俺も食いたい。」
 ハルが言うと、デイヴィッドはしばらく手に持った「おかず入りパン」とハルの顔を見比べていたが、すぐに肩をすくめてパンをハルに差し出した。ハルは煮込みの残りを掻き込むと、皿を置いてデイヴィッドの差し出す物を受け取り、大口を開けてかぶりついた。
「美味い!」
「ブルゴーニュって言うのは随分大雑把な表現だが…」
 ハルの感想は無視して、デイヴィッドは自分の分を作りながら情報の分析を続けた。
「ヴィス・ワインというのは手がかりになるな。そんなに美味いのなら俺も賞味したい所だ。」
「歯形がついているけど、構わない?」
「ワインの話だ。それはハルにやるから、全部食っちまえ。」
「ありがとう。」
 ハルはまた一口食べ、エールで流し込んだ。
「ヴィス・ワインについては、叔父上にでも調べてもらおう。問題はロヌーク夫人が、俺に接近しようとしている事だ。」
「モンマスでは、命の恩人。」
「衛兵たちが駆けつけなくても、助かっていたけどな。確かジェーン・フェンダーには、俺達が町で賊に襲われそうだ、と知らせたんだったよな?」
「うん。」
 デイヴィッドは短く答えて、新しいパンを割って中にサラダ、チーズ、ハム、そしてキジの香草焼きを切って詰め込んでいく。ハルが続けた。
「つまり、モンマスの町で俺達をつけていたって事か…もちろん従者か何かに。…そっちの方が美味そうじゃないか。」
「ハルがくれって言うから、やったんだぞ。文句言うなよ。」
 デイヴィッドは仕上げに酢漬けの豆を入れて、また巨大な「おかず入りパン」が出来上がった。それを満足そうに眺めてから、おもむろにかぶりつく。ハルはデイヴィッドを恨めしそうに見ながら、自分の残りを口に放り込み、手を拭いた。
 「お前、つけられているのに気付いていたか?」
 デイヴィッドは口の中をいっぱいにして、首を横に振る。ハルが続けた。
「俺もだ。どうも気味が悪いな。ともあれ、今回はレッド・ホロウの連中に最高級のワインを提供し、俺へ『よろしく』と伝言している。やっぱり、俺との接触を図ったんだろう…」
「しかし、もうフランスに帰国している。クリスマスだからな。どうもフランス人に間違いないものの、綺麗な英語を話すっていうのが気になるな。フランスの貴婦人が英語を話すなんて、余程かわっている。」
「そうだな…。」
ハルは水を一口含むと、リンゴを取り上げた。
「綺麗な英語を話す、謎のフランス夫人。二十代半ばで、透き通るような白い肌に、見事な金髪、遠くからでも分かる大きな青い目…。しかもウィッティントンを介して小規模ながら貿易商売までする。確かに変っているな。ともあれ―」
ハルは上着でリンゴの表面を擦ってから、一口かぶりついた。
「ともあれ、彼女については叔父上に報告して、調べさせよう。 ― 酸っぱいな ― ヴィス・ワインが手がかりになるだろう。」
「じゃあ、現物を確保しないとな。」
 デイヴィッドは驚異的な速さで巨大な「おかず入りパン」を平らげていた。また一口、エールを飲むと、窓から、下を見下ろした。
「その窓の下に見えたあの船、セント・メアリーに間違い無いかな。」
「よし、じゃあ話を船に移そう。」
 ハルはエールをコップになみなみと注いで、それを手に取ると、立ちあがって窓のそばの壁に寄りかかった。

 この部屋の窓は、板を打ちつけてあったので、それを二人がかりではがしてしまっていた。従って簡単に閉める事も出来ず、寒風が容赦なく吹き込んでくる。ハルとデイヴィッドは、それぞれマントを厳重に巻き付けた。
「フッカーを連れてくれば良かったな。」
 ハルが苦笑した。
「さてと、セント・メアリー号だが。今朝テムズ川で起った事はこうだ。早朝、ロンドンの船着き場 ― 通称ロンドン港に、セント・メアリーは接岸した。それと同時に、陸側から賊が船に乗り込み、たちまちテムズ川へと漕ぎ出してしまった。騒ぎを聞きつけた港湾警備がボートを出して捜索したが、なぜか彼女の姿は忽然と消え、行方不明となった…。さて、真相は?」
 デイヴィッドは立ち上がると、窓を挟んでハルと向かい合うように、壁に寄りかかった。
「テムズ川河口のサウスエンドから、ロンドンまでの遡上は陸から曳いてきたんだろうけど、川を下るなら、かなり足は速い。それに、この夏以前の彼女は沿岸航行していたのだから、漕ぎ手もあるはずだ。埠頭を再び離れたセント・メアリーは、早い速度で川を下り、このロンドン塔の船着き場に接岸した。」
 そう言って、デイヴィッドは窓の下を指差した。ハルも頷く。
「俺もそう思う。テムズ川南岸からロンドン塔に接岸すると、港からは少し見にくいし、今日はひどい川霧だ。第一、賊に襲われた船が王城に接岸するなんて、誰も思いも寄らないだろうからな。認識的にもここは死角なんだ。見失っても不思議じゃない。」
「港湾警備については、どう思う?」
 デイヴィッドは背中を壁につけると、腕を組んでハルに尋ねた。ハルは上を向き、下を向き、ちょっと首をかしげて、ぐるぐる回してから、視線をデイヴィッドに固定した。
「不穏な事言うじゃないか、デイヴィッド。お前、港湾警備も賊の一味だと言うのか?とんでもない事だぞ。」
「ニヤニヤしながら言っても説得力はない。お前も疑っているだろう。」
「何とも言えん ― まぁ、カプソン兄弟の言う事には、港湾警備は出動が遅かったらしいからな。お前、フレッド・チェリーにいつから港湾警備をしているか訊いていたな。何に気付いたんだ?」
「靴だよ。」
「くつ?」
「ブーツだ。」
 デイヴィッドは窓枠に置いたエールのコップを取り上げると、残りを飲み干して床に置いてから続けた。
「チェリーは随分くたびれたブーツを履いていたが、あれには見覚えがある。ボーフォート家のお仕着せだ。夏にロンドン港の港湾警備に就く前は、サウザンプトンで同じような仕事をしていたと言っていたが、サウザンプトンのボーフォート家の配下だったに違いない。」
 ハルは細かく頷きながら、水差しから水を注いでデイヴィッドに渡した。
「なるほど。そして、セント・メアリーだ。彼女は沿岸航行の船だったが、廃業してカプソン兄弟水運に買い取られた。それが今年の夏の事。同時に乗組員が半分入れ替わり、新たに入った乗組員は ― 」
「サマーセット伯爵の推薦状つきだった。」
 二人はしばらくお互いの顔を見合わせていた。やがて、ハルがまた口を開いた。
「まだあるぞ。セント・メアリーが、このロンドン塔に身を寄せているという事実だ。今ロンドン塔に滞在しているのは、療養中のサマーセット伯爵ジョン・ボーフォートと、昨日来た弟のサー・トマス・ボーフォート…。」
「そして、ボーフォート家の家人リンドレイが、ウェイルズ戦線への物資調達業務を行っている。」
「リンドレイか…。セント・メアリー乗員の半分,ロンドン港の港湾警備,そして逃げ込んだロンドン塔 ― すべてがボーフォートで繋がっている。デイヴィッド、どうも叔父上達は企み事が好きみたいだな。」
「ランカスター公爵譲りの気質だろう。」
 デイヴィッドが言ったランカスター公爵は無論、現ランカスター公爵のハルではなく、先代の事である。即ち、国王ヘンリー四世や、ボーフォート兄弟の父親であり、ハルの祖父にあたるジョン・オブ・ゴーントだ。ハルは肩をすくめた。
「こうなると、賊って言うのも怪しいな。」
「それはどうかな。」
 二人は改めて窓から下を見下ろした。相変わらずすっきりとは晴れない川霧の中、セント・メアリーと思しき船影は音もなく、人影もなくロンドン塔の船着き場にたたずんでいた。
 「寝るか?」
デイヴィッドが尋ねると、ハルは頷いた。
「そうだな。ちょっと休もう。」
 デイヴィッドは懐から小さなコインを取り出し、軽くトスした。
「うら。」
 ハルがコールして、デイヴィッドが左手に重ねた右手を上げた。二人でコインに見入ると、すぐにデイヴィッドはコインをハルに投げ渡した。そして一旦マントを脱ぐと、窓のすぐ脇の壁に背中をつけて座り込み、改めて自分の体を包むようにマントをめぐらした。ハルは小さな椅子を取り寄せて座面の埃を払うと、窓の外を見張れる位置に座った。
 デイヴィッドが目を閉じようとした時、不意にハルが呼びかけた。
「なぁ、デイヴィッド。」
「うん?」
 デイヴィッドが視線を上げると、椅子に腰掛けたハルは窓の外を眺めながら言った。
「こうやって、石造りの城の…小さな部屋に居ると…あの時の部屋も確か衛兵の休憩所だったと思うのだが…そういう部屋の、こんな小さな窓から外を見たりする度に、あの時の事を思い出すんだ。」
「ああ…」
 デイヴィッドには、ハルが思い起こすものが分かっていた。ハルは続けた。
「夕べもあの時の夢を見た。今日は特に、鮮明に思い出す。七年も前の事なのにな。」
「うん。」
 デイヴィッドは床に座り込んだまま、ハルの横顔を見上げた。ハルは黙って窓の外を見つめていた。
 デイヴィッドは言うべき言葉を捜したが、なかなか見つからない。やがてつぶやくように言った。
「俺も思い出す。まるで昨日の事のようにな。たぶん、二人とも同じように、いつまでも鮮明に思い出すのだろうさ。」
 ハルは外を見つめたまま動かない。デイヴィッドが最後に付け加えた。
「つまり、大事な記憶って事だ。辛い記憶でもな。二人で共有していれば、辛さも薄れるだろう。」
 ハルがデイヴィッドの方に顔を向けて見下ろした。デイヴィッドはもう、俯いて目を閉じている。
「そうだな。」
 ハルがぽつりとつぶやいた。

 目を閉じたデイヴィッドの脳裏に、七年前の記憶が鮮明によみがえった。ハルの父ヘンリー四世が即位した時の事だ ―。

 ハルとデイヴィッドは、古い石造りの城に居た。人を探すためだった。その人は見つかったが、すぐに二人は小さな部屋に押し込まれた。ドアが外から施錠される。叩いても蹴っても、ぶつかってもドアはびくともしない。
 『早く ― 早く ― 早くしないと、あの人が行ってしまう ―。』
 『あるいはもう、行ってしまった?』
 二人は、小さな窓に殺到した。木の板を窓から引き剥がすと、鉄格子が見えた。十二歳のハルとデイヴィッドは、何事かを叫びながら有らん限りの物を格子に叩きつけた。
 『早くここを出ないと、早くしないと、あの人が行ってしまう ―。』

 少年達の叫び声が遠くなった。それと同時に、デイヴィッドは眠りに落ちた。
 デイヴィッドは寝起きの良い男だが、同じように寝付きも良かった。

 当初の予定では、ハルとデイヴィッドは交代で仮眠を取り、セント・メアリーを見張る事にしていた。しかし、そうは行かなかった。ハルがデイヴィッドを揺り起こしたのだ。
「デイヴィッド、起きろ。」
「動き出したのか?」
 デイヴィッドは目を擦った。中途半端な眠りで、頭がぼうっとする。ハルは窓から用心深く下を覗き込んでいる。デイヴィッドも壁に身を隠しながら外を見遣った。もうすぐ日が沈むころだ。テムズ川の上流の方がすこし明るい。相変わらず低く雲がたれこめ、霧雨が降っている。
「ハル、もう夕方じゃないか。どうして起こして交代しないんだよ。」
 デイヴィッドが小声ながらも厳しい調子で抗議したが、ハルは涼しい顔だ。
「お前が可愛い顔で気持ち良さそうに寝ているから、起こすのが気の毒でね。見ろよ、甲板に人が出てきたぞ。一人…二人か…。」
 ハルの言う通り、セント・メアリーの甲板にチラチラと人影が見える。
「降りよう。」
デイヴィッドが言うと、ハルも頷いた。
「そうだな。」
 二人は窓から離れた。デイヴィッドは床に落ちたマントを拾い上げ、ハルは灯りの灯った燭台を取る。そして二人は部屋を出ると、狭く暗い階段を駆け下りて行った。


 
9.事件の仕掛け人との面会と詩の暗唱

8.皇太子ハルとデイヴィッド・ギブスンがロンドン塔で食事をすること,およびデイヴィッドの夢の断片
Origina Novel   Hal & David  オリジナル小説  ハル&デイヴィッド


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