雨飾山 2012年8月4日 - 5日 テント定着

8月4日 晴れ

白馬
大糸線からの眺め:これは白馬連峰(11:27)
南小谷みなみおたり直通の下りあずさ3号は指定席が満杯なので、そのひとつ前の臨時あずさの指定をとり、ひとまず松本へ向かう。車窓からの白峰三山・鳳凰は超快晴で、甲斐駒は雲の上から頭を出していた。年に何度かは乗る中央線だが、茅野辺りからは槍穂高もきっちりと見えることを今回初めて知った。
松本駅で件のあずさ3号を待っていると、松本で乗客がたくさん降りて自由席が空いたので、乗り込んだ。大糸線も北アに並行する路線だけあって、車窓は素晴らしい。常念や針ノ木、鹿島槍やら白馬やら。これらの名だたる名峰たちをスルーして向かう雨飾山にはいったい何が待ち受けているのだろう。
穂高で観光客が降り、大町で残りの観光客と登山客が降り、白馬で残りの登山客が降り、乗客は数えるほどになった。そうして着いた終点の南小谷は、駅前に売店と食堂がひとつずつあるだけの小さな田舎の駅だった。降りた登山者は我々2人だけだった。
30分ほど待って雨飾高原行きの村営バスが来た。車内に入って、日陰の席は左右どちらかを考えていると「混まないから荷物と人と別々でも大丈夫ですよ」と運転手氏。事実、我々以外は地元のおばあちゃんが3人乗っただけだった。その3人も途中で降りてしまい、結局、終点まで乗ったのは我々2人だけだった。

13:02 雨飾高原バス停発(高度計:985m)

バス待合所
雨飾高原バス待合所(12:55)
雨飾高原のバス停には、普通の公衆トイレなんかよりずっときれいなトイレがついた、立派な待合室があった。これはなかなか嬉しい設備だ。
猛烈な暑さの中を、うちわで仰ぎながらアスファルトの緩い坂道を登っていくと、すぐに村営露天風呂と雨飾荘を通過する。雨飾荘の下には「雨飾の名水」がどばどばと流れていた。
雨飾荘から左へ。緩やかな登り道になる。道が大きくカーブする途中に歩行者専用のショートカット道があるように2012年版エアリアにはあるが、入口を見つけられずに車道をそのまま行った。暑すぎる。なにしろ暑い。とにかく暑い。わずかな木陰を無理やり通って行く。ショートカット道の看板はカーブの上側にはあった。しかし、道はほとんど歩かれた形跡がないようだった。じゃあ入口がわからないのも無理はないか。
それにしても暑い。暑い暑い暑い暑い。

13:48 雨飾高原キャンプ場着(1165m)

山
あれが目指す雨飾山だ(13:37)
35分登ったところで明才堰なる石碑に着いた。普段なら由緒をちゃんと読む我々だが、この日はなにしろ暑すぎた。ここで一際目立つ上品な山容が見えた。あれが目指す雨飾山だろう。それから5分してキャンプ場入口の看板に着き、そこから8分歩いてようやくキャンプ場に着いた。ここまで道は完璧に舗装されていた。
ここは基本はオートキャンプ場だが、登山者用にもサイトが設けてある旨あったので、ここにベースキャンプを張ることにしたのだ。しかし登山者用サイトは駐車場のすぐ脇だった。これじゃあ車からいくらでも荷物が運べる。ほとんどオートキャンプ状態だ。

テント場にて

受付後、管理棟の前のベンチで少し休んだあと、わずかにあった木陰にテントを張った。暑いが木陰はいられなくもなかった。少しうつらうつらしたが、日が傾いて西陽が射してくると、テントにもいられなくなって、結局また管理棟ベンチに移動した。
17時になるとようやく暑くはなくなってきた。夕食は管理棟前のベンチでとった。我々の食事の間じゅう、近くの木の梢でホオジロがずっと啼いていた。
登山者サイトのテントは夕方に増えて、合計4組6張となった。オートキャンプスペースは1組だけだった。みんな車で来ていた。電車・バスを乗り継いで、しかもバス停から炎天下を50分も歩いてやってくる我々はどうかしているのだ。彼らは七輪で肉を焼いたりとかして大騒ぎだったが、そこはさすが登山者(?)、21時にはきっちり消灯した。
標高1100mの夜は暑かった。20時過ぎでもテント内は23℃近くあった。かつりんはシュラフは使わずTシャツ1枚で寝た。それでも寝苦しく感じて、何度か目が覚めた。23時ごろにトイレに出たが、満月ちょい過ぎの月は外を歩くにもライトが要らないほど明るく、そのため折角の快晴も星空観察には向かなかったが、缶ジュースを買って飲みながらしばらく夜空を眺めた。飽きない。テントに戻ってからフライを全開にしたら、ようやく少し落ち着いて寝られた。

8月5日 晴れのち曇り

3時起床。テント内は20.8℃もあったが、さすがにTシャツ1枚ではうすら寒かった。空は快晴のままだった。北東には金星・木星が見えたが、2週間前に大雪山で見たときよりは離れた気がした。その近くにはオリオン座が山から半分くらい出ていた。
サブザックに必要物を詰め込み、びしょ濡れのテントを撤収してから管理棟前の石テーブル(乾いていた)で朝食を摂った。メインザックは管理棟の中にデポさせてもらうことにした(夜もトイレが開放されている)。

5:08 キャンプ場発(高度計:1170m)

案内図
コース案内図(05:09)
5時ちょっと前から明るくなっていて、歩くにもライトは要らないくらいだった。
登山口にはこれから歩く道の絵図が載っていた。事前の調査で、道中が11の区間に区切られていることは知っていたが、これはその解説のようだ。荒菅沢は6/11となっていた。
携帯トイレ回収箱を過ぎて、すぐに灌木の中を緩く下る。

5:15 大海川湿原を通過(1155m)

道
木の根の張り出した道を登る(05:39)
5分も歩くとすぐに木道になり、1/11の看板に着いた。看板をしげしげ眺めると、どうやら全体の水平距離4.4kmを400mごとに区切っているようだ。これじゃあ道が正しいことの確認はできるが、ペース配分の役には立たない。
木道が終わると急登が始まった。木の根の張り出した登りは、飯豊連峰の足の松尾根を思わせた。土嚢などでよく整備されていたが、それでもなかなか歩きにくかった。ところどころで直線になると、急な登りがずっと続いているのが見えてうんざりする。

5:53 ブナ平を通過

ブナ平
ブナ平(05:53)
雪渓
雪渓が見えた(06:16)
しばらくすると道は少しなだらかになった。一帯はブナが美しかった。「ブナ平」の標識があり、山頂まで120分・荒菅沢まで30分となっていた。
張り出した広い尾根を乗っ越すと荒菅沢だが、この広い尾根が現地ではわかりにくかった。短い急坂を登りきると、不自然なくらい平らになり(つまり広い尾根だ)、ややあって下りに転じる。ここで荒菅沢と思しき雪渓が見えた。

6:25 荒菅沢(1445m)

布団菱
カッコいい布団菱(06:29)
尾根から沢まで標高差50mを下りた。エアリアのコースタイムは登山口からここまで1時間50分だが、1時間15分で着いた。ブナ平からは、標識にあったとおりの30分だった。
荒菅沢からの布団菱の眺めはアルペン的で素晴らしかった。雪渓は20mくらいの幅があった。早朝でカッチカチだ。ここを対岸に渡る。旗とか紅がらといった目印はなかった。視界がないときは迷うのではないかと思った。まったく水平にトラバースするだけなので、それを知っていて、慎重に行けばなんとかなるかもしれないが。
そんなことより困ったのは、雪が多すぎて水がとれないことだった。エアリアには水場マークがあるのであてにしていたのだが。
対岸に渡ったあとはまた急登となる。今度のはそれまでと違って笹平までの一気登りだ。10分も登らないうちに(たぶん)雪の重みで横倒しに伸びた木があったので腰かけて休んだ。
この登りは標高1300m付近の木の根とは違い、ザレた道だ。また登り一辺倒で、少しでも平らになるとかいう気配もない。

7:16 森林限界(1765m)

道
視界が開けた(07:15)
花
花畑と山頂(07:30)
標高差300mを一気に登るとようやく視界が開けてきた。森林限界を突破したようだ。とはいえ、広がるのはハイマツではなくササだ。そして上の方にハシゴが続いているのが見えた。足元は、穂高のザイテングラートを思わせる、岩の積み重なる道になった。
花が増えてきた。コオニユリやらカラマツソウやらツリガネニンジンやらギボウシやら。秋を感じさせる花たちだった。後ろには戸隠と思しき山が見えていた。

7:34 笹平(金山への分岐)(1860m)

日本海
日本海と糸魚川が見えた(07:39)
花畑
笹平のツリガネニンジンの花畑(07:46)
登りきったところが金山への分岐点だ。ここで道は西に折れ、とたんに平らになった。笹平の名のとおりだ。日本海の海岸線がくっきりと見えた。近くに見える街は糸魚川なのだろう。背後に火打山があるはずだが、雲があって見えなかった。
これまでずっと乾燥した道が続いたが、ササについた朝露で下半身が結構濡れた。暑かったので、これがなかなか気持ちよかった。カメラが朝露をかぶってレンズフィルターが結露していたが、山頂について記念写真を撮るまで気づかなかったので、ここから山頂までは露でぼやけた写真ばかりとなってしまった。

8:02 雨飾山登頂(1930m)

道
花の中の道:山頂まであと一息だ(07:59)
山頂
雨飾山頂から日本海を望む(08:04)
雨飾温泉への道を分けて進むと、荒菅沢を見下ろすことができた。雪渓を歩いている人も見えた。ここから最後の急登になる。花はこの登りが一番多かった。
なんだかんだで3時間弱で登頂。眺望を楽しみにしていたが、南方面は全体的に霞んでぼうっとしているうえに雲が多かった。近くの白馬は下半分は見えていたが、上は雲に隠れていた。すぐ隣の焼山・火打山が見えるはずだがこちらも雲の中。結局、景色は日本海と糸魚川の街が見えるだけだった。
頂上は、双耳峰とはいうものの、鹿島槍とか尾瀬の燧ヶ岳ほどの分離感はない。南北ともに広くはなかった。誰もいなかったので南峰に陣取って、ミルクティーを飲んでケーキを食べた。山頂標識も南峰にあった。手拭いでササの露を採り、首にあてると気持ちよかった。

8:47 下山開始(1925m)

山頂
里を向いて並ぶ北峰の石仏(08:47)
ますます雲が増えてきたので下山することにした。早めに下りて温泉で汗を流そう。降りる前にまず北峰に寄った。糸魚川の方を向いて石仏が並んでいた。
下りで改めて荒菅沢を見下ろすと、山肌が雪に削られて凄いことになってることに気づいた。「山の自然学入門」で読んだアバランチ・シュートとはちょっと違うようだが、まあきっとその一種なんだろう。

9:12 金山への分岐(笹平の端っこ)(1865m)

日が高くなり、ますます暑くなってきた。登りの人が増えてきた。
もう風呂のことしか考えられなくなってきた。ああ、早く日陰に行きたい。

10:15 荒菅沢(1445m)

道
下りてきた急坂を振り返る(10:03)
荒菅沢
荒菅沢を渡り終えて振り返る(10:17)
荒菅沢の雪は、もうこの時間は緩んでいた。雲が増え、布団菱は見えてはいたものの、バックの空が雲で真っ白だった。

11:22 キャンプ場帰着(1185m)

集中力を切らさないように慎重にゆっくり下りた。下りはエアリアのコースタイムどおりだった。

11:47 キャンプ場発(1180m)

雲
昨日はこのあたりから山頂が見えたのだが(11:59)
サブザックの中身とサブザックをしまい、ミルクティーを買って飲み、登頂記念バッヂを買ってから、うちわを手に持ってまたアスファルト道路を歩いた。

12:26 雨飾荘着

近道
近道の看板:つうか道なんて見えないし(12:12)
雨飾荘
雨飾荘(12:26)
歩行者専用ショートカット道は通らなかったが、それでも雨飾荘には40分ほどで着いた。雨飾荘の玄関の温度計は、なんと30℃を示していた。標高1000mでコレでは、下界は理論値では35℃超えということか・・・
当初は村営の露天風呂にしようと思ったが、まったくの露天風呂なので、虫が凄そうだ。ということで、雨飾荘の風呂に入った。これはなかなかいい湯だった。湯上りに飲んだりんごジュースが体に染み渡った。
バスの乗客は我々と、山田旅館から乗ってきた夫婦連れの4人だけだった。バスは恐ろしくゆっくり走った。南小谷駅の乗り換え時間が8分しかないのでやきもきしたが、それで実はぴったり定刻だった。物凄いテクニックだ。駅前の唯一の売店で土産の雷鳥の里とヱビスビールを2本買って、新宿行きあずさに乗った。八王子まで約3時間40分。さすがに尻が痛くなった。
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