秋田駒ヶ岳 2012年10月8日 一般旅館利用

10月7日 晴れ

この日は移動日で、乳頭温泉まで行くだけだ。昼前に家を出れば間に合うのだが、せっかく遠出するのにただ移動するだけじゃもったいないので、早く出て盛岡あたりを見物することにした。
で、さらにせっかくなので、新型車両の新幹線に乗ることにした。大宮から乗ると電車をじっくり観察できないので、東京からの指定をとった。普通車に乗ったのだが、上下に位置調整できるヘッドレストがついていて、前の席との間隔も広く、乗り心地がよかった。

盛岡観光

盛岡駅でさっそく観光案内所に行って、3時間で見られるおすすめを聞いてみると、紺屋町地区に古い建物群があることを教えてくれた。
城跡を通り抜けて紺屋町に行くと、明治や大正の頃の建物が点在していた。中でも重文指定の岩手銀行中ノ橋支店はなかなかよかった。建物探訪で一回りすると昼が近くなったので、城跡のイベント屋台で葛巻高原産チーズのピザと白金豚のソーセージと紫波町のB級グルメのもっちりハムカツを食べた。このハムカツがなかなか旨かった。
そのあとはバスと徒歩で県立美術館に行って、福田繁雄展を見た。歩きながら見た岩手山は雲の中だった。
盛岡というと八幡平やら三陸への基点という印象が強く、あまり目立った観光地が思い浮かばないが、今回はなかなか楽しめた。

乳頭温泉へ

盛岡からは各駅停車の大曲行きに乗った。新幹線優先で、ほとんどの駅で行き違いや追い越し待ちをするため、1時間もかかって田沢湖駅に着いた。駅にはホワイトボードに秋田駒の紅葉情報が書いてあった。10月5日だから2日前の情報になるが、男女岳は見頃で、他のピークでは8割程度ということだった。これでも10日ほど遅れているらしい。
バスは空いているだろうと思いきや、田沢湖畔でも客を広い、席の半数程度が埋まるほどになった。しかしそれらの客も途中でだいたい降りてしまい、乳頭温泉まで乗っていたのは10人にも満たなかった。

孫六温泉

孫六温泉
孫六温泉に着いた(16:46)
ダートを孫六温泉へと歩く。時間は10分ほどだ。孫六温泉を選んだのは登山口に近いからだが、事前にウェブで調べると、メシが冷めているとか部屋は鍵がかからずテレビもコンセントもないとか、もう散々な言われようだった。しかしそんなのは、山小屋に泊まるのだと思えば大した問題ではなかった。ところがいざ部屋に入ってみると、テレビこそなかったが、コンセントはあったし、鍵もちゃんとかかった。飲料の自販機もあったし(しかも酒以外は下界の値段だった!)、浴衣もタオルもあったし、こりゃ山小屋以上じゃんと思ったが、今どきの山小屋は大勢のスタッフを使って温かい食事を供することを考えると、きりたんぽ鍋以外の品が冷たい食事はちと微妙か。まあとにかく、いきなりだったら萎えたかもしれないが、予備知識があったのでまったく苦にならなかった。世は情報化社会なのだ。
きりたんぽ鍋は、とてもいい出汁がでていて旨かった。風呂も良かった。湯治場の雰囲気でワイルドだった。自分がこれまで経験した温泉の中でもかなりワイルドな部類に入る。といっても、そんな温泉マニアじゃあないのだけど。
3回くらい風呂に入ったあと、翌朝4時に目覚ましをセットして、22時に眠りについた。

10月8日 快晴

予定通り4時に起きて、焼きおにぎりの朝食を食べた。日が出れば暑くなるので、上はTシャツ・ウールシャツ、下は短パンというスタイルにした。
この日の夜明けは5:40で、山の西側に位置する乳頭温泉でもすでに明るくなっていた。

5:49 乳頭温泉を出発(高度計:795m)

森
ブナの美しい森を行く:まだこの辺りは紅葉はしていない(06:23)
草紅葉
稜線は突然の草紅葉(07:07)
10分もしないうちに、木の階段が現れた。やがて木の根の張る道になり、丹沢ばりの階段になった。急というほどの坂はなく、概ねよく整備された、ブナが美しい道だった。登りとはいえ山の陰でとても寒かった。プロトレックの温度計は4.9℃まで下がった。
1時間ほどで稜線に出た。あたりは湿原で、視界が一気に開けた。これから行く秋田駒はもちろん、田沢湖の奥の鳥海山が印象的だった。

7:11 田代平(1240m)

池塘
小屋前の池塘:右奥が秋田駒(07:19)
草紅葉の美しい木道を少し行くと田代平の分岐に着いた。それから数分で避難小屋に着いた。稜線に出るとてきめんに暑くなり、プロトレックはたちまち10℃を超えた。小屋の前の御影石のいすにザックをおろして、相棒は防寒用に着ていたカッパを脱いだりした。小屋前に池塘があり、周囲のシラビソが水面に映り込んでいた。秋田駒はその隙間から見える程度だった。
稜線の道はほとんど木道で、歩きやすかった。ただ霜が降りていて滑りやすかった。葉っぱを霜が縁取っていて美しかった。秋の名残りのリンドウがまだあったりした。遠景は笹原の緑にカエデと思しき赤がちりばめられていた。しかし道が東に向かっているので、まぶしくてよく見えない。

8:03 乳頭山登頂(1450m)

森吉山
乳頭山頂から森吉山方面の眺め:中央の草紅葉が田代平(08:12)
秋田駒
堂々とした秋田駒(08:14)
道が岩ゴロの登りになってからしばらく行くと、誰もいない山頂に着いた。展望はばっちりだった。森吉山・岩手山・早池峰山・鳥海山などの近くの山はもちろん、森吉山の右手はるかには岩木山と思しき山影も見えた。目の前の秋田駒の山容は、標高が1700mに満たない山とは思えない雄大さだった。笊森山から湯森山へと連なるなだらかで広々とした稜線の中に道がついているの見えた。いかにも気持ちよさそうな道で、これからあの中を歩くのだと思うとうれしくなる。

8:21 乳頭山発(1450m)

岩手山
紅葉と岩手山(08:38)
池塘
池塘を見下ろす(08:49)
行程が長いので、我々としては短い滞在時間で山頂をあとにすることにした。
下りながら振り返ると、山肌の紅葉が美しかった。途中で砂礫地に赤いものがあるので、まさかまだコマクサが? と思ったら、きれいに紅葉したチングルマの葉だった。見下ろすと池塘があり、おもしろい形をしていた。

8:54 千沼が原の分岐(1355m)

笊森山
笊森山を目指す(09:16)
当初は千沼が原に寄りたいと思っていたが諦めて、先へと進むことにした。暑くなってきたので、かつりんもウールシャツを脱いでTシャツ1枚になった。
笊森山へと登る道からは、順光のちょうどいい位置に乳頭山があり、それがまた、姿といい色といい絶品だった。岩手山の手前には千沼が原の一部が見えた。いい色の草紅葉だった。目指す笊森山の北斜面の色づきは、ここまでの道中で最高だった。若干逆光ぎみなのが残念。

9:30 笊森山(1515m)

秋田駒
秋田駒目指して紅葉の道を下る(09:56)
笊森山の山頂は、乳頭山から見たまんまのなだらかさだ。
ここからは、火山性の石の道になる。膝よりも低い丈の、文字通りのハイマツの中を、紅葉を眺めながらゆったりと下る道は気持ちよい。ただし道は南に向いており、太陽を正面に受ける形となってしまう。
しばらく休憩をとってから出立。これまでの道中はひとりに会っただけだったが、ここから徐々にすれ違う人が増えてきた。

10:39 熊見平の標識(1330m)

笊森山
宿岩付近から笊森山を振り返る(10:23)
宿岩
宿岩を振り返る(10:32)
なだらかな山と山の鞍部には湿原があり、その草紅葉がよいアクセントとなっている。宿岩の南側の湿原にはシラビソが点在しており、それが単なる高原ではない、どこか北方的な印象を漂わせる。
その湿原には熊見平の標識があった。宿岩と湯森山の中間あたりだ。で、その熊見平の標識から登りになる。

10:54 湯森山(1430m)

道
焼森への整備された道(11:24)
道
整備された紅葉の道を行く(11:44)
湯森山は、エアリアには山頂よりも東の方が展望がよいとあるので、山頂を目前に一休みした。乳頭山・笊森山・岩手山が並んできれいに見えた。休憩後、山頂を通過すると、確かに木にさえぎられて眺めはさほどではなかった。
湯森山から先の道は、両脇のササが刈られ、中央の土は明らかに質が違っていた。えぐれた道を埋めて整備したのだろうと思われた。道は広く、とても歩きやすかった。向かう秋田駒はこれまでと違い赤に黄色が混じっていた。実に美しい。

11:55 焼森分岐(1505m)

湯森山
整備された道の上部で湯森山を振り返る:右奥は岩手山(11:48)
道
焼森分岐で様子が一変(11:55)
なかなかの急坂を登りきると、草木のない火山岩の道に唐突に躍り出た。焼森の分岐だった。大雪山の旭岳や十勝岳みたいな、いかにも火山な感じの道だ。これほど様子が豹変するのもなかなか珍しいと思う。
ここには人が大勢いた。山頂部を周遊するコースに入ったためだ。

11:57 焼森(1525m)

急に広くなった道を2分登ると焼森のてっぺんに出た。山頂カルデラの外輪山に立ったことで、阿弥陀池をはじめとする風景が視界に入った。南側の横岳の斜面の紅葉がまさに盛りだった。すげーきれいだが、いかんせん逆光だ。

12:07 横岳着(1555m)

ここまで来ると秋田駒南側の景色が見えてくる。小岳のクレーターと、その周りを縫うようについている木道が印象的だ。

12:25 横岳発(1560m)

紅葉
横岳斜面の紅葉と岩手山(12:26)
小岳
小岳のクレーター(12:31)
ミニケーキでお茶をしたあと、阿弥陀池へと下った。
ここでようやく、先ほど逆光でよく見えなかった横岳斜面を見ることができた。す、す、す、素晴らしい。

12:40 阿弥陀池(1510m)

池畔には避難小屋とトイレがある。ここでトイレを済ませてから、最高峰の男女岳山頂へ向かった。山頂への道は階段になっていて、腿がぷるぷるになった。

13:00 男女岳登頂(1610m)

山頂
男女岳山頂から阿弥陀池全貌(13:02)
山頂は広いが、歩いてきた北の道を見ようとすると、ロープで侵入が制限されていて、山頂自身の地面で下の方が見えなかった。道を見るには山頂のちょっと下からがいい。

13:26 阿弥陀池発(1510m)

紅葉
男女岳の紅葉斜面(13:38)
阿弥陀池にまた戻って八合目バス停を目指す。バスの時間には間に合いそうだ。
道は、阿弥陀池に近い平らなところは木道だが、そのうち火山岩の道になり、男女岳の南側から時計回りに山腹を下っていく。この道中からの男女岳の紅葉は素晴らしかった。先ほどの横岳斜面よりも広がりがある分、良いかもしれない。ここはちょうど順光でよかった。

14:02 片倉岳展望台(1420m)

途中に広場があり、片倉岳展望台という標識があった。その下あたりが、この日は一番彩りがよかった。広場からは紅葉の斜面の向こうに乳頭山が見えた。
もしかしたら、登山者に観光客も混じって登山道が渋滞してるんじゃないかと恐れていたが、家族連れがぱらぱらと歩いているだけだった。

14:26 八合目バス停(1285m)

バス停に着くとすでに列ができていた。補助いすだったがなんとか乗れた。
田沢湖駅直通のバスは15:50発だが、それだと予約した新幹線への乗り換え時間が10分しかないので、バスが遅れたときが恐ろしい。そのため、シャトルバスでまずアルパこまくさに行き、乳頭温泉からの駅行きバスに乗り換えようという魂胆だ。この便なら新幹線発車の30分前に駅に着くから、まあ大丈夫だろう。しかも、アルパこまくさで40分近く時間ができるので、風呂にも入れる。
アルパこまくさの展望風呂からは田沢湖が一望できた。駒ヶ岳が見たかったなあ。

帰路

田沢湖の駅前からは、秋田駒が夕陽を浴びて美しかった。駅で夕食に弁当でも買ってから新幹線に乗ろうと思ったが、駅前には食堂こそあれ、弁当屋はなかった。しかたがない、夕食は車内販売にかけることにしよう。
駅のホームからは、駅前からよりももっとよく駒ヶ岳が見えた。新幹線は10分ほど遅れていた。駅前の田沢湖市というミニ物産館で買った地ビールとシードルで気持ち良くなったところで、車内販売がやってきた。この日は弁当は予約制だというので申し込むと、この「予約」はあくまでも数の確保であり、他の客の選択によっては、自分の順番がまわってきたとき、牛飯になるか海鮮丼になるかわからないという。それはちょっとあんまりだよなあと悩んでいると、仙台で牛たん弁当が入るというのでそれを頼んだ。仙台を過ぎてやってきた弁当は、前にも食べたことのあるものだった。缶ワインも買ってちびちびと楽しんでいたら、大宮はすぐだった。
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