仙丈ヶ岳 2010年7月31日-8月1日 テント定着

7月31日 晴れ一時雨

この土日は、晴れだが大気は不安定で午後には山沿いでところにより雨という典型的な夏山予報。早い時間に北沢峠に着いてテントを張って、翌日も早起きをして午後一番には下山することとした。
昨年秋の5連休の北沢峠は大混雑で、河原まで下りてテントを張ったが、今回は豪雨が怖くてとてもじゃないけどそんなことできない。早い時間に着いて、なんとか正規の場所に張りたいところ。もし満杯だったら仙水小屋まで登る覚悟だ。

甲府

車内
広河原行きバスは通路もザックでいっぱいだ(08:58)
いつもの八王子始発の松本行き各駅停車で甲府に8:10に到着。とりあえずバス乗り場に行くと、なんと3番目に並べた。意外にも空いているのだろうか? とりあえず駅ビル Eclan のワイン売り場で今晩飲むワインを買った。ここは朝早くから開いているのが嬉しすぎる。
山梨交通バスの係員はかなり早い時間からきっぷ売りを開始。どうやら空色のポロシャツでユニフォームを統一したようだ。なんか、らしくないなあ。客はその後増えてきて、バスは最終的には4台になったもよう。
細い山道ですれ違おうとするタクシーが脱輪してしまうというアクシデントに遭遇したのち、夜叉神峠着。半分近くの客を下ろして若干快適になった。
そして夜叉神を過ぎると、な、なんと驚いたことに車掌が沿線の案内を開始。こんなこと初めてだ。あ、あの山梨交通にいったい何が?! おかげで、今まで存在を知らなかった工事の慰霊碑やら、トンネル内の退避所なんかを知ることができた。ガイドはなかなかの名調子で(女性車掌はひょっとして元バスガイド嬢なのだろうか)、広河原到着時には拍手まで沸き起こる始末。なんにしても、あの山梨交通のあまりの変貌ぶりに驚く我々であった。

広河原

アルペンプラザ
新装なったアルペンプラザ(11:19)
今年からついにアルペンプラザが新装開店。北沢峠行きのバスが出るまで1時間もあるので偵察してみた。
トイレがすごくきれい。せっかくここまで整備するのなら、更衣室もあれば最高だったのに。
2階はテーブルといすがたくさんあって、大勢の人が食事をしていた。売店は品揃え豊富で、アイスクリームや菓子などのほか、アルファ米やらガスカートリッジ、はてはカッパから登山靴まであって、手ぶらでここまで来ても大丈夫なんじゃないかというくらい。以前は北沢峠行きバスのきっぷはここの販売機で買ったが、乗り場近くの小屋で販売しているせいか、そんなものはなかった。
壁にはパネル展示。付近の山の地質の解説がよかった。甲斐駒は花崗岩で、仙丈は砂岩で、とかそういうの。あとは山の写真とかだった。

北沢峠

テント場
北沢峠上段のテント場(15:20)
北沢峠行き南アルプス市営バスは、山梨交通と違って相変わらずだった。客の整理をする気が皆無なところがすっごくイラつくんだけど、かと言ってちゃんと整理すれば山梨らしくなくてヘンだし・・・ああ、このアンビバレントな気持ちがうまく説明できないのがもどかしい。
北沢峠でバスを降りて、競うようにテント場に向かう途中で雨がぱらぱらと降ってきた。テント場は比較的すいていて、上段・下段と分かれているうちの下段はほとんど空いていた。とにかく手早くテントを設営。ちょうど張り終えたところで本降りになってきたのでテントにもぐり込んだ。
雨は一時的だろうと思っていたがなかなか止まなかった。昼寝をしたりしてまったり過ごす。15時過ぎにいったん止んだので小屋にキャンプの受付に行ったが、すぐまた降ってきたので再びテントに戻った。雨はその後も断続的に降りつづき、完全に止んだのは寝る直前の20時ごろだった。
そんなわけで夕食はテントの中で調理した。テントが思いっきり焼肉くさくなった。周りを見ると、カッパを着て外で食べている人が結構多かった。雨が止んだ隙に外に出て調理を始めて、引っ込めなくなった感じだった。
この日のテントは上段48張り、下段55張りまでは数えられた。なかなかの賑わいだ。我々は下段のかなり奥まったところに陣取ったのだが、周囲はまだ余裕があった。どういうわけかエスパーステントが多かった。これだけテントが多かったにもかかわらず、20時過ぎにはあたりは静まり返っていた。

8月1日 晴れのち曇り

目が覚めたらうっすらと明るかった。寝坊したかと思ったが、時計を見てもまだ0時過ぎ。合点がゆかずに寝ぼけた頭で少し考えて、これは月明かりと気づいた。外を見てみるとほぼ半月の月が輝いていた。月が明るすぎて星の数は少なかったが、天の川も確認できた。どうやら天気は期待できそうだ。安心してまた眠りについた。
4時出発を目指して3時に起床。晴れ。テント内は17℃。朝食は岳食シリーズのカレーうどんに卵を落として食べた。
過去2回の登山では大平山荘から薮沢新道を登って小仙丈経由で下る周回コースをとった。今回は小仙丈側から登って馬ノ背側に下り、薮沢ヒュッテを通って登りと同じ道を下る、P字状のコースに決めた。

4:36 出発(高度計:1940m)

テント場こそ明るいが、森の中はまだ薄暗いのでヘッドライトは装着したまま出発。
林道に出るとすぐ左前に近道入り口の橋がある。北沢峠方面へ行ってしまってはいけない。つづら折れを登って、テント場から14分で北沢峠からの道を合わせる。左へ、比較的緩やかな道となる。

5:11 2合目(2120m)

ここでまた北沢峠からの別の道が合流する。道は登りとなる。途中でようやく日が上ってきた。

5:32 3合目(2265m)

標識があり、少し広くなっていて休憩ができる。左側に木の間から北岳が見え隠れする道だ。

5:44 4合目(2345m)

ここも小広場になっている。
引き続き樹林の中の急登を登る。いつの間にかダケカンバの林となり、開けたところにはマルバダケブキがわんさか咲いていた。ダケカンバとマルバダケブキの組み合わせを見ると南アルプスに来た気がする。

6:10 5合目(大滝頭)(2445m)

北岳
5合目からの北岳(06:09)
5合目
5合目のようす(06:10)
これまで斜面を斜上していくイメージだった道が尾根上に出ると、すぐに5合目に着いた。ちょっとひと休み。

7:06 小仙丈ヶ岳着(2750m)

小仙丈
小仙丈ヶ岳が見えた(06:31)
5合目から20分登ると森林限界を突破して展望が開けた。小仙丈ヶ岳が見えた。真後ろの甲斐駒はようやく全貌を見せたが霞んでしまっていた。登山道は、整備が終わったばかりらしく、道脇のハイマツが完璧に刈り込まれていて歩きやすかった。
それから30分ほどで小仙丈ヶ岳に着いた。ザックを下ろしてひと休み。
ここでようやくどでかい仙丈ヶ岳の本峰が見えた。北岳の後ろにはうっすらと富士山が。甲斐駒は背後からもくもくと雲がわいていた。この調子じゃあ今回も山頂からの展望は期待できそうにないなあ。

7:22 小仙丈ヶ岳発(2750m)

北岳・間ノ岳
北岳・間ノ岳を眺める道(07:38)
ちょっとした岩場を下り、ゆるい下りの稜線漫歩となった。正面は仙丈ヶ岳の眺めが素晴らしく、左には北岳・間ノ岳が並んで見える道。ちょっと霞んでいるのが残念だが、夏山気分は最高潮に達した。再び登りに転じるところでチングルマが登場。それまでも穂はあったが、まとまって花が咲いているのはここが最初だった。
ヤマケイの登山情報だと小仙丈~仙丈間の花が良いというようなことが書いてあったが、この日はちらほらという感じでちょっとがっかりした。
仙丈小屋へのトラバース道を右に分けて登りきると、それまで胴体に隠れて見えなかった山頂が見えた。物凄く混雑しているようだ。馬ノ背の稜線あたりも長蛇の列が見えた。どうもあちこちにえらい数の団体がいるらしい。

8:14 仙丈ヶ岳登頂(2915m)

山頂
山頂(右)が見えたらもう少しだ(08:02)
道は稜線のちょっと下をトラバースするような形になって、10分も歩いたら山頂に着いた。直下の大仙丈側にはそれまでの道にはなかった規模の花畑があった。シオガマっぽいピンクがかった花畑だった。
山頂に着くとすぐに団体が下りていったので、山頂は少し静かになった。日差しは強かったが、風があるので辛くはなかった。あたりにはキキョウやツメクサやイワベンケイが多かった。6年前には確かにあった、南ア特有の串団子形の山頂標識は見当たらなかった。
山頂の展望は霞んでいていまひとつ。登頂直後はまだ山々は見えていたが、時間が経つにつれて雲がわいてきた。それでも塩見や赤石など南部の山はずいぶん後になるまで見えていたが、北岳や甲斐駒はすぐ見えなくなってしまった。一方、北西はずっと晴れ間が広がっていて、遠くに北アルプスらしき山影が見えた。しかしなにしろ霞んでいるので、山の同定はできなかった。

9:00 下山開始(2920m)

ガス
仙丈小屋のある薮沢カールにガスがかかる(08:54)
キキョウ
山頂の岩陰に咲くキキョウの花(08:56)
南アルプスでは昼から夕立に遭ったことが何度かあって、この日の雲のわき方はそのときとよく似ていた。そのうえ展望もよくないし、帰りのバスの時間も気になるので、予定どおり9時に下山を始めた。雨が降るまでにテントの撤収も完了してしまいたい。
馬ノ背から登ってきた別の団体と入れ替わるように山頂をあとにした。

9:17 仙丈小屋(2775m)

水場
仙丈小屋の水場(09:22)
空
仙丈ヶ岳の上空は青空なのだが・・・(09:23)
薮沢カール斜面の道にはチングルマなどが咲いていた。それでも一面の群落、というほどではない。
仙丈小屋は通過して、直下の水場で水を補給。ここの水は雪解け水でとても冷たかった。
この先の稜線は花が多いのではと期待していたのだが、なんとも残念な結果だった。シナノキンバイやハクサンイチゲやツガザクラやクロユリがあったが、それらはどれもまばらで、ほんとうに数える程度だった。一番きれいに思えたのはナナカマドと、キバナノコマノツメだった。

9:43 網

コバイケイソウ
首のもげたコバイケイソウ(09:47)
花の名山としては寂しい限り。どういうことだろうと混乱しながら歩いていくと、網が現れた。どうやらシカ避けらしい。シカに高山植物が食われると聞いてはいたものの、網を設置しなければならないほど酷いとは。これじゃあ丹沢みたいじゃないか。するとそれを裏付けるように、先っぽがポッキリ折れたコバイケイソウの株が出現。その周辺の踏み跡は、ひづめのようだった。
尾根を離れて馬ノ背ヒュッテへの下りに入ると、もっとしっかりとした網ゾーンになった。網の中にはダケカンバとマルバダケブキが大量に咲いていた。

9:56 馬ノ背ヒュッテ(2545m)

網
ニホンジカ防護柵の看板(10:05)
馬ノ背ヒュッテの日陰のベンチに座ってちょっと足を休めた。下り始めるとすぐに、シカ害のための網であることを示す看板があった。
それからすぐに、薮沢新道の分岐に着いた。ちょっと荒れ気味の沢を渡り、大滝頭へのトラバース道となる。この先は初めて歩く道だ。手元の2008年版エアリアマップでは馬ノ背→大滝頭が35分、逆が1時間となっているが、ほぼトラバースなのにこれは絶対おかしい。この区間の所要時間が読みきれないのが困った。

10:18 薮沢ヒュッテ

水場
薮沢ヒュッテ前の水場(10:20)
沢
沢を何本も渡る(10:23)
沢から8分で薮沢ヒュッテ到着。小屋のすぐ近くに良い水場があったので、帰宅後のコーヒー用にテルモスに補充した。気がつくと、空は雲に覆われていた。おかげで涼しくはなったが、雨が近いと思うと喜んでばかりもいられない。
ヒュッテまでは歩きやすい道だったが、その先は沢が何本もあったり、滑りやすい岩があったりとなかなかハードだった(岩には補助ロープまであった)。しかし、アップダウンがほとんどないのは救いだった。また、深い森と沢のある道で、非常に南アルプス的でよかった。花が少なくてがっかりしていたが、この道を歩けたことでモチベーションが復活した。

10:40 5合目(大滝頭)(2445m)

大混雑
4合目手前で団体に巻き込まれ大渋滞(10:53)
結局薮沢のトラバースは40分ほどで通過できた。あらためて大滝頭にある標識を見ると、馬ノ背ヒュッテまで40分とあった。やはりそんなものなのだろう。
ここまでなかなかよいペースで来ていた。過去の記録からもテント場まであと1時間ほどで着けるはずで、だとすればテントを撤収しても13:05発のバスには余裕で間に合う。目鼻がついてほっとしながら歩いていくと、下がなにやらざわついていた。やはり、団体だった。
この団体、山頂手前ですれ違ったのだが、30人くらいいるのにガイドがたった1人で、全く統率がとれていないトンデモな軍団だった。ここも狭い道でダラダラとひどいのなんの。こいつらのせいでバスに間に合わなくなったらと思うと気が気でなかったが、4合目で道が広くなったところでなんとか抜き去ることができた。抜くことばかり考えて心に余裕がなくなってしまい、4合目の通過タイムを記録するのを忘れてしまった。

11:19 2合目(2115m)

苔
苔のきれいな道(11:20)
分岐
思わず見落としそうになった「キャンプ場へ8分」の分岐(11:33)
2合目では別の団体が休憩をとっていた。彼らを尻目にテント場方面の道に進む。おそらく彼らは北沢峠へと直進していくはずだ。もう邪魔されないぞ。
次は「キャンプ場へ8分」の分岐だが、往きに通ったときここの標識があまりに目立たないので、帰りに見落としそうだなと思っていたら、案の定通り過ぎそうになってちょっと苦笑い。

11:43 キャンプ場着(1940m)

登山道入り口
小さな橋のある登山道入り口を振り返る(11:39)
さっきまで曇っていたのに、テント場に着いたらなぜか日が出てきた。それでも風がかなりあったので、テント内はさほど暑くはなかった。なんにせよ、降られなくてよかった。
思ったより早く着いたのでのんびりしたいところだったが、北沢峠では早めの行動が肝心だということは経験上知っているので、休まずにテントの撤収を始めた。

下山

バス停に向かうと、まだ時間前なのに広河原行きのバスが出発するところだった。やはり、混雑の予感。
峠に着いて乗ったバスは3台目で、定時の10分前には出発した。我々のあとから峠に着いた人と係員の話が途切れ途切れに聞こえてきたが、乗りきれないであぶれた人数が少ないため、追加のバスを出すかどうかで押し問答をしているような感じだった。さすがである。そしてそんなところが、実に山梨らしい。この分だと、最終バスは壮絶なバトルが展開されることだろうと思った。
広河原に着くと甲府行きはすぐに連絡している。往きには華麗に変身したと思われた山梨交通も、この日は元のあの山梨交通に戻っていた。あっちこっちに移動させられるわ、きっぷはちゃんと販売できないわでもうグダグダ。車掌によってこうも違うのかと、ちょっと呆れてしまった。
甲府駅に着いてから特急かいじの指定席をとり、家の近所では見かけない山梨ワインを何本か買って、そのうちの1本を車内で開けてプチ打ち上げをした。なんだかんだあったが、最後の最後にいい気分になれた。
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