花の名山・早池峰山 2009年6月26日-27日 テント定着

6月26日 晴れ

早池峰山へは土日こそ登山バスが運行されているが、平日は東北本線の石鳥谷駅から路線バスを繋ぐ旅となる。バス便は極端に少なく、石鳥谷駅で1時間、途中乗り継ぎの大迫でまたまた1時間の待ち時間が生じる。それでもそのバスに乗るためには東京6:04発の新幹線でないと間に合わない。
早池峰山は12年ぶりだが、やはりそのときも交通で苦労した。

魅惑の町・大迫

大迫は昼ちょっと前なので、なにか昼食をとバスターミナル近くをうろつく。ターミナルの次の交差点にドン・ボスコなる手作りパンの店を発見。焼きたてパンのいい香りが外まで漂っている。ここでパンを買って昼食にすることに決定。入ってみると、文房具屋の片隅の小さなカウンターにパンが並べられていた。ふたりして品定めをしていると、朴訥ながらも売り上手なおばあちゃんにノセられてついつい買いすぎてしまった。
バスターミナルに戻ってベンチに座って食す。すると、なんとこれが鄙にもまれな美味なパン。なんでもスイス人の友人からパン焼きを教わったんだとか。旅先でいい店を見つけると、実力以上に美味しく感じたりすることがあるが、これはそういうボーナスポイントを差し引いても美味かった。中でもげんこつパンに餡とバターをはさんだパンが気に入った。塩味がちょうどいい。ベーコン入りのパンも香ばしく、具も美味かった。ごはんパンのひとつをとっておいて、夕食に食べることにした。
その後、この夜に飲むワインを物色。大迫には、地元産のぶどうからワインをつくっているエーデルワインというワイナリーがある。ワイナリーじたいはちょっと離れたところにあるようだが、バス通り沿いにはいくつか酒屋兼土産物屋があって、どこもエーデルワインが置いてあった。我々は山で飲むときはいつもハーフボトルにしているのだが、そうなるとやはり選択肢が非常に少なくて、コンツェルトという銘柄しかなかった。赤・白・ロゼの3種類があり、赤を購入した。
大迫は、腰の曲がったおばあさんがバスターミナルにたむろして世間話に興じたりしている光景の見られるようなのんびりした田舎町だけど、美味いパン・銘酒・名山が集まった魅惑の町なのだ。

河原の坊着

早池峰
河原の坊からの早池峰山(13:00)
河原の坊行きは11:50発。我々のほかに数人の地元の乗客がいたが、岳バス停までにそのすべてが下車してしまった。ローカルバスのバス停は難読地名や珍地名が多くて道中も楽しめた。岳で時間調整したあと、河原の坊に13時に着いた。というわけで終点で降りたのは我々だけだった。駐車場は金曜日だったが少し空きがあるていどだった。天気は超快晴で、早池峰山は輝いてまぶしかった。
テント場は駐車場のすぐ隣だが、当然0張だった。早速探索開始。林の中のテント場はほどよく荒れていて、草ぼうぼうだった。これはよほど利用者が少ないのだろう。12年前に来たときはもうちょっとテント場らしい雰囲気があったような記憶があるのだが。まあ、車で来る人は車で寝るだろうし、翌朝早く登り始めるにも、岳あたりでちゃんとした宿をとって、シャトルバスで小田越まで行って登るほうがラクには違いない。いくら無料だからといっても、いくらバス停のすぐ近くだからといっても、テント泊の練習のためにこんなところに幕営する我々は、おそらくかなり酔狂な部類の人間なのだろう。

まったりと

テント場
ほかに誰もいない河原の坊のテント場(15:23)
暑いのでテントを張る気になれず、ザックを炊事場にデポしたままビジターセンターに入って早池峰山のビデオを観たりして暇つぶしをした。15時を過ぎて少し暑さがやわらいだのでテントを張り、中に入って昼寝をした。この頃はテント内の気温は23℃ほどだった。
17時過ぎに起きる。夏至を過ぎたばかりでまだまだ明るい。夕食のハンバーグにはさきほど買ったワインはちょっと甘かった。が、他に誰もいないテント場で、夕暮れの林を眺めながら地場産のワインで夕食を楽しむというシチュエーションに酔った。実によい気分で、テント泊のこういう時間がたまらなく好きだ。
結局、予想どおり、テントはわれわれの1張だけだった。駐車場の車も3台か4台ほどだった。翌土曜は朝5時から車両進入禁止になるので、もうちょっと入ってくるかと思ったが意外だった。夜中に一度目が覚めてトイレに行ったが、曇っているらしく、星ひとつ見えなかった。灯りは林間にときおり見えるトイレ棟の弱い照明だけで、場所によってはとにかく真っ暗で何も見えなかった。ヘッドライトを消して目を開けたり閉じたりしても、まったく情景が変わらない。これほどの暗闇は長野善光寺の胎内めぐり以外には経験したことがなかった。

6月27日 曇り一時雨

3時起床。朝のテント内は17.1℃だった。暑くもなく、寒くもない。テントから顔を出してみると、空は高曇りだった。
朝食を済ませても出発予定の5時までにはまだ相当時間があった。今日はサブザックに必要なものだけ詰めて山を登るのだが、テントは張りっぱなしにしていくつもりだった。しかしテントがまったく結露していない。そこで撤収し、シュラフなどとともにビジターセンターの100円リターンのコインロッカーに預けていくことにした。コインロッカーの大きさは、駅なんかだと500円くらいする、上下2つに分かれているタイプ。かつりんの60Lザックはぎりぎりで入った。
ルートは、河原の坊から直登して小田越に下山することにした。3度めの早池峰だが、結局過去2回と同じコースとなってしまった。逆コースだと、河原の坊直登ルートの方が急なので、下りに使うにはちょっと怖い。
徐々に車が入ってきて、駐車場は1/3程度が埋まるほどになった。

5:01 出発(高度計:1065m, 温度計:20.9℃)

沢
何度か沢を渡る(05:20)
道
はるか上に山頂が見える岩ゴロの道(05:47)
登山口からしばらくはウツギのピンクの花が続く川沿いの道だ。すぐに、数字が振ってある、丸く黄色い古びた鉄看板が出現。これが山頂で100になることは記憶している。
ウツギがなくなり、ミヤマオダマキの花が増えてきた。二度三度と沢を渡り、周りの木がカンバに変わって、しばらくするとゴーロの上を行くようになる。歩き始めて40分ほどだ。このあたりからはるか上に山頂付近の岩場が見えるようになる。

6:00 頭垢離こうべごうり(1360m, 19.4℃)

道
小尾根のコースロープ外側にはウスユキソウがいっぱい(06:06)
なおも登っていくと、行く手を防ぐようにロープが張ってあり、そのロープに導かれるように右(東)側の小尾根に乗り上げる。1/25000図でも道が右に曲がっていることが読み取れ、このあたりが頭垢離だ。立派な標識があり、黄丸看板はちょうど30だった。
この小尾根にさしかかってから一気に花が増えた。早池峰山最大のアイドル・ハヤチネウスユキソウもここで登場。おー、やっぱり、気品に溢れたいい花だ。ほかにはナンブトラノオ、ミヤマアズマギクなど。花を楽しみながら岩くずの道を行く。

6:37 御座走り岩(1590m, 22.6℃)

御座走り岩
御座走り岩の上部(06:37)
早池峰山といえば花の山という印象が強いが、実はたいそうな岩の山でもある。御座走り岩の直下からは岩が険しくなって迫力のある眺めが続く。
しかしそんな岩の間にも花が咲いていて目を楽しませてくれる。ウスユキソウもわんさか咲いていた。

6:51 打石ぶづいし(1675m, 21.5℃)

打石
ひときわ目立つ打石(06:47)
打石を過ぎるとナンブイヌナズナが登場。塊がそこかしこにあり、鮮やかな黄色が目を引く。

7:16 クサリ場(1790m, 15.8℃)

クサリ場
クサリ場を見下ろす(07:14)
ナンブイヌナズナ
登山道にはナンブイヌナズナの塊があちこちに(07:20)
クサリ場は難しくはないが、実は巻けることを今回初めて知った。
クサリ場を過ぎると急登は終わり、道は比較的なだらかになる。が、あいかわらず崩壊したようなゴロゴロ道だ。花は種類が増えてきた。ヨツバシオガマ、チングルマ、ハクサンチドリ、キバナノコマノツメなど。
黄丸看板がずっと見当たらなかったが、久々に登場したと思ったらいきなり90を過ぎていた。山頂まであとちょっとだ。

7:32 早池峰山登頂(1870m, 15.5℃)

山頂
小田越方面には幻想的な薄雲がかかっていた(右奥は薬師岳)(07:41)
およそ2時間半で登頂。まだ時間が早いせいか、人はまばらだった。しかしそうこうしているうちに徐々に人が増えてきた。朝一番のシャトルバスで小田越から登ってきた人たちだろう。
広い山頂をぐるりと周ると、あちこちの岩陰にチシマアマナが咲いていた。そういえば12年前は山頂のいたるところにハヤチネウスユキソウが咲いていたのだが、この日はまったく見当たらなかった。そのときは7月19日だったから、時期的なものなのだろうか。
天気は朝からずっと高曇りのままだった。あまり遠くは見通せなかったが、直下の小田越のあたりにヴェールのような薄い雲がかかっているのが幻想的な感じだった。この日は暑くなるだろうと思っていたが、風が強いうえに日差しも弱くて寒い。テルモスを1本お湯にしてきたのは正解だった。

8:37 下山開始(1875m, 17.8℃)

9時くらいまで山頂にいるつもりだったが、晴れそうにないので早めに下山することにした。その分ゆっくり下りて、花をたっぷり楽しめばいいだろう。小田越ルートの方が登りに使った頭垢離ルートより花が美しかった記憶がある。
下り始めた直後、30人はくだらない大人数のツアーとすれ違う。すれ違いで待ったポイントには、ミネザクラやイワカガミが咲いていた。

8:54 剣が峰分岐(1845m, 20.0℃)

花
道はシオガマなどの花が美しい(09:03)
ほかの山域では見たことのないユニークな切り込みの入った木道が続くが、これがちょっと歩きにくい。御田植場から剣が峰分岐まではイワカガミがどっさりと咲いていた。雪解けからさほど間がないということだろう。

9:04 ハシゴ場

ハシゴ
ハシゴ場を見下ろす(09:04)
ハシゴ
ハシゴ場を振り返る(09:08)
分岐を過ぎて10分ほどもするとハシゴ場に。鉄のハシゴは上端部がつかみやすいように補強されていた。
このあたりで、なんか暗くて寒いなあと思い、ふと西の方角を見ると、真っ暗だった。花を見るためずっと足元ばかり注意していたから気づくのが遅れてしまった。
分厚い雲がこちらに向かって迫ってくるのがよくわかった。その雲の下には黒っぽいものが。こりゃどう見ても雨だ。嵐の予感。のんびり花を楽しんでいる場合じゃなくなってきた。走り出す人も現れる始末だ。今朝の予報では寒気の影響が出るのは北海道方面とか言っていたのだが、やはり油断してはいけないらしい。

9:34 降雨(1640m, 13.9℃)

雲
雨が迫ってくる(09:22)
避難
岩陰に身をひそめる人たち(09:35)
頬に、小石でも当たったかのような軽い痛みが走った。とうとう降ってきたのだ。樹林帯に入るまでもってくれたら、と思っていたが、その願いはかなわなかった。雨は思っていたより強く、真横から叩きつけてきた。はるか上空からゴロゴロという音も聞こえてきた。幸いにも巨岩が適度な間隔で並んでいるエリアだったので、手近な岩の陰に隠れ、急いでザックカバーを付けカッパを着こむ。上を見ても下を見ても、巨岩の陰にカラフルなカッパを着た人たちが固まっているのがおかしかった。

9:45 嵐は去った(1655m, 16.3℃)

ウスユキソウ
露を含んでしっとりとしたハヤチネウスユキソウ(10:05)
持久戦も覚悟したが、岩から顔を出して西の方角を偵察すると空は明るい。一緒に雨宿りしている人たちも「これは長くないだろう」と話していた。10分ほどで雨は止み、こういう後にはお決まりの青空が出てきた。カッパは着たままで出発。しかしすっきり完全に晴れるというわけでもなく、その後もときおり雨が落ちてきたりした。しかし先ほどと違ってさほど強くなかったので、構わず進んだ。
だらだらと花を見ながら下る。雨後の花は露を含んでいて、みずみずしく美しかった。雨は困るが、こういう効果もあるのだ。咲いている花は頭垢離と同じようなものが多く、シオガマ、オダマキ、キバナノコマノツメ、ナンブイヌナズナなどが目立ち、こちらの小田越ルートの方にだけあったのはイワウメくらいだったろうか。ハヤチネウスユキソウはあるにはあるのだが、まだ蕾んでいるものが多かった。

10:31 1合目(1405m, 19.9℃)

1合目
巨岩地帯の1合目(10:31)
1合目には頭垢離と同じ形の立派な標識があった。一帯は巨岩が凄い。
ここから樹林帯に入る。

10:56 小田越(1265m, 24.7℃)

オサバグサ
オサバグサ(10:51)
木道
この木道の縦線に足が入ると捻挫しそうで怖い(ほかにも市松模様のものなどがあった)(10:54)
平らになり、御田植場あたりと同じユニークな木道とオサバグサの群落が現れ、そしてすぐに小田越に着いた。
以前あった鳥居がなくなっていた。かわりに、あまり風情のない石の標識があった。また、バス停と、簡易トイレがあった。日が出てきて、暑くなってきた。

11:22 河原の坊着(1065m, 23.5℃)

早池峰山
下りたら晴れた早池峰山(11:02)
アスファルト舗装の車道を河原の坊まで下る。交通規制中で、車が来ないので道の真ん中をふらふら歩いても大丈夫。道路脇にはハクサンチドリがわんさか咲いている。アスファルト道から高山植物を見られるなんて、礼文島みたいだ。
河原の坊には13時くらいまでに下りられたらいいと思っていたが、かなり早く着いてしまった。途中で短いながらも嵐にあったせいかもしれない。テントも撤収してあるので、12:18発の花巻行きバスにはゆうゆう間に合う。ビジターセンターは奥にカーテンで仕切れる着替えスペースがあるので、そこを使わせてもらって身支度を整えた。

帰路

花巻行きバスはほぼ満席の状態だった。しかしそのほとんどは岳で降車。つまりシャトルバスとして使う人がほとんどだったということだ。
そのまま新花巻に出て帰宅してもよかったが、エーデルワインに寄ることにし、大迫バスターミナルでバスを降りた。ワイナリーの場所がよくわからないし、暑い中を探し回るのはウンザリなのでタクシーを使ったら、ワンメーターで着いてしまった。
13時ちょっと過ぎだったので、ワイナリーのすぐ近くのワインハウス早池峰という店で昼食をとってから(鄙にもまれな美味レストランだった!)、ワイン直売所へ。ハヤチネゼーレという銘柄は、ラベルデザインがウスユキソウで、もうそれだけで気に入った。この銘柄はフラッグシップということもあって試飲ができなかったのは残念だが、少し下のランクのものは試飲できるものが多かった。ドイツ系の品種からつくられたものが中心で、値段は安いがその割には美味いものが多いという印象。白はミュラートゥルガウに気に入ったものがいくつかあった。
行きのタクシーで見た景色を頼りに歩いてバスターミナルに戻り(帰り道は下り坂だった)、石鳥谷駅に出て、北上から新幹線で帰った。新幹線の指定席はバス車内から携帯で予約できて、車内販売は Suica で支払いができて現金不使用。なんだか近未来な世界になってしまった気がした。
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