西穂高岳 2008年7月12日-13日 テント定着

7月12日 曇り

新穂高へ

海の日連休の前までは松本から新穂高温泉への直通バスはないため、高山行きの特急バスに乗って平湯温泉で乗り換えることとなる。この特急バスが朝一の次は11:10なので、それに合わせて家を出て、いつものように鈍行列車に乗り込む。各駅停車では松本までおよそ3時間かかる。いつもそうだが、途中の南アの眺めに旅情をかきたてられる。今回乗った電車は甲斐駒が真正面という絶好のロケーションの日野春駅で特急の通過待ちという特典つきだった。
松本着は10時過ぎ。1時間近く時間があくので、バスターミナルのある松本エスパの食堂街の蕎麦屋で鴨そばを食す。つけそばだったが熱くて汗が出てきた。
高山行きのバスは見たところ観光客がほとんどで、登山客は少なかった。順調に乗り換え、新穂高温泉到着は13時を少し過ぎた時間だった。

新穂高ロープウェイ

帰りは上高地に下りる予定なので乗車券は片道だけ。やはり客が少ないのか、30分に1本だけの運行。これでは西穂山荘到着が夕方になってしまうとやきもきした。
ロープウェイは第一・第二と2本を乗り継ぐが、この中継駅に焼きたてパン屋があるので、菓子パンをいくつかとごはんパンをひとつ買った。そんなわけで列の最後尾となってしまい、乗りきれなかったら30分待たされるのかと考えると狂いそうになったが、やはり空いていてちゃんと乗れた。ロープウェイのゴンドラからは槍の穂先が見えた。2階建ての下階に乗ったのだが、上階の方が眺めがよいだろうと思った。
頂上の西穂高口駅に着いたのは14時過ぎだ。ゴンドラを降りると、ご多分に漏れず土産物屋の中を通る順路になっているのだが、相棒がここでレトルト食品群を発見。今夜のメニューは賞味期限の切れた岳食のカレーの予定だったのだが、どうせ同じカレーならということで、ここでレトルトの飛騨牛カレーを購入して行くことになった。ほかにもイノシシカレーとかもあった。
一帯は千石園地という遊歩道が整備され、ベンチがいくつかある。そのベンチで買ったばかりの菓子パンをほおばる。パンを食べるのに缶コーヒーを買ったのだが、下界と同じ値段なのは良心的だと思った。アブだかなんだか、とにかく虫が凄いのには参ったが、先日買った新兵器の虫除けミントスプレーを使ったら効果てきめんだった。

14:30 西穂高口出発(高度計:2165m, 温度計:24.4℃)

結界
結界
西穂
西穂と独標
パンでしっかりと腹ごしらえをしてから出発。西穂山荘までのエアリアマップのコースタイムは1時間半だが、ウェブ上の記録の多くは1時間ほど。まあ遅くとも16時までには着けるだろう。
千石園地を奥へ進んで行くと登山指導所があり、その脇の標識の間から先が登山道だ。なんだか神社の祠と結界を思わせる凛とした気配を感じた。進むといきなり下りでちょっと拍子抜け。道は若干ぬかるんでいたが、要所には木道が渡されていて難なく歩けた。10分もすると木の間から西穂がちらちらと見えた。

15:35 西穂山荘着(2350m, 21.1℃)

道
西穂山荘まではあとちょっとだ
特に問題もなく淡々と歩いてウッディでオシャレな西穂山荘に到着。途中、西穂や独標は見えたものの笠ヶ岳は雲の中。山荘近くにはキヌガサソウがあった。
相棒は虫が気になって歩くペースがつかめなかったようだ。すれ違う人の中には、顔にタオルを巻きつけている人もいた。まあなにしろすごい虫だった。
多くのガイドブックには途中から急登になると書いてあるが、地形図からも読み取れるとおり、それはちょっと大げさすぎる。この道が初心者向きだからこその「急登」なのだろうと思った。

西穂山荘の夜

テント場
西穂山荘のテント場と霞沢岳
山荘に着いて早速テントの受付をすませ、目の前のテント場へ。ここも虫が凄くて、テントを張りおえるかどうかの間に相棒が速攻でミントスプレーを撒く。この日のテントは9張だった。小屋は改装中とかで混んでいるらしく、食事は2回戦あったようだ。
日が長く、夕食はまだ明るいうちに食べた。19時くらいにはテント場は静かになったが、小屋泊まりの人たちがテラスで宴会を始めてうるさい。それでもいつもなら疲れて眠れるのだが、今日は1時間しか歩いていないので疲れはない。消灯時間は21時だからあと2時間。暗闇の中をどうやって2時間も潰そうかと考えていたとき、人々が「星がたくさん出ている」と言う声が。そこで、星を撮るためにテントを出た。
外は、夕方までの曇り空からは信じられないくらいの快晴だった。月が明るく、乗鞍が照らされていて幻想的だった。東の空にひときわ明るい星が見え、木星説と火星説でテラスは盛り上がっていた(どうやら木星のようだ)。暖かい夜で、Tシャツに薄手のカッターシャツでもいられた。1時間近くあれこれやって、21時を過ぎて人々も撤収したので自分もテントに帰って眠りについた。

7月13日 晴れときどき曇り一時雨

3時起床。テント内の温度は16.1℃。テントから顔を出してみると、前夜よりは少し雲が出ていた。アルファ米炊き込みご飯のあまり美味くない朝食をとり、サブザックに必要なものを入れて出発準備。4時出発のつもりでいたが、なぜか5時になってしまった。

4:48 山荘発(2330m, 18.2℃)

焼岳
歩き始めて5分、焼岳に朝日が当たる
丸山へと登る。朝一番からいきなり急な登りでなかなかキツいが、10分もすると森林限界を超えて展望が開ける。優美な笠ヶ岳や、前穂が見えるようになった。焼岳に陽が当たって美しい。

5:01 丸山(2390m, 15.8℃)

笠ヶ岳
朝日に輝く笠ヶ岳
道
石くずの斜面を登る
だらだらとした平坦な道になり、それから人頭大ほどの石がごろごろした登りになった。石は積み直しているところもあって、見た目よりも歩きやすかった。そして明らかに虫が少なくなった。
斜面は単調だが、朝の山々を眺めながらの歩きは気持ちよく、楽しい。高くなるにつれて遠くまで見通せるようになり、八ヶ岳が見えてきて、続いて南アルプス・富士山、霞沢岳の後ろから中央アルプスも出てきた。途中でオコジョにも遭遇した。

5:50 西穂独標(2630m, 14.5℃)

独標
独標はもう近い
ずんぐりした独標が間近に迫ると、岩にたくさんの白ペンキがあるのが見えた。
独標にはとりついて数分で登頂できた。まだ朝早く、数人の登山者がいるだけ。笠ヶ岳が正面で美しい。すばらしい眺めで、自分はもうここまでで下山してもいいとさえ思えた。ピラミッドピークへと続く道は険悪そうで、ちょっとビビったということもある。すぐ次のピークの腹には、なんか突拍子もないところにクサリが付いているのが見える。

6:13 独標発(2640m, 18.4℃)

山
この山を越えていくのだ
独標
西穂独標からの笠ヶ岳と黒部五郎岳(右奥)
相棒と協議のうえ、まだ時間も早いし、行けるところまで行ってみようということになった。岩場が続くということなので、ストックはしまう。
前進したのは正解で、独標から先の飛騨側の斜面はハクサンイチゲの群落が美しかった。西穂だと花目当てで登る人が少ないせいか、ネットでも花の情報が見当たらなかったので期待していなかったのだが、それだけによかった。
独標から見えたクサリ場も、いざ到着してみれば拍子抜け。クサリなんか必要ないくらいの普通の道で、逆にクサリが遠すぎて掴めないくらいだった。ひょっとしたら残雪期に有効なクサリなのかもしれない。

6:35 ピラミッドピーク(2700m, 15.6℃)

ピラミッドピーク
振り返ると小ピークが並ぶ(左がピラミッドピーク)
花のもっとも美しかったのはピラミッドピークの周辺だった。ハクサンイチゲ、イワヒゲ、イワウメなどの白い花が多く、ほかにミヤマキンバイ、ヨツバシオガマ、ツガザクラもあった。
ピラミッドピークには立派な標識があった。吊尾根の迫力も凄い。ここまで進んできてよかったと思った。
ピラミッドピークから先の小ピークは飛騨側に巻くケースが多い。途中で振り返るとそれらが並んでいて一風かわった風景だ。

7:30 西穂高岳登頂(2825m, 16.3℃)

槍ヶ岳
西穂山頂からの槍ヶ岳
夢中になって登っていくと、間もなく西穂山頂に着いた。素晴らしい景色だ(ぐるぐる写真)。
初めて北の展望が開け、ここでようやくロープウェイ以来の槍ヶ岳とご対面。この方向からだとちょっと傾いているし形がそんなに良くない気もするが、なんといっても槍なのだ。一方南側はおなじみの焼岳・乗鞍が素晴らしく、御岳も乗鞍の後ろにちょこんと頭を出していた。
山頂はあまり広くなかったが、独標同様空いていて、10人もいなかった。風は微風で、暑くもなく寒くもなく、居心地がよかった。

9:02 下山開始(2875m, 29.5℃)

岩場
岩くずの道を振り返る
あまり遅くならないうちに帰宅するには、テント場を12時には出発したいところ。逆算すると、9時には山頂を後にしなければならない。立ち去るのが惜しく、2泊してこのままのんびりしていようかと何度も思ったが、まあそういうわけにもいかず、9時になってしかたなく下山を始めた。山頂にいる間に日は高くなり、じりじりと暑くなってきた。
登ってきた岩場を慎重に下りる。

10:05 独標(2645m, 22.0℃)

花畑
飛騨側斜面には花畑が広がっている
岩場
独標から西穂側登山道を見下ろす
岩場だと全身を使うので、下りだがかなり暑くなってきた。飛騨側の花畑は、往きは日陰だったが今は陽に当たっていて美しさを増していた。
独標で一休み。

10:19 独標発(2675m, 28.7℃)

奥穂
奥穂に雲がかかり始めた
岩場らしい岩場は独標を出た直後で終了し、あとは石ゴロの単調な下りになる。
自分の感じたところでは、西穂までの岩場で厄介だったのは独標の前後と西穂の直下だ。それとてもサブザックの日帰り装備ではどうということはなかった。あとは岩がちだが手を使わないで済むところがほとんどで、岩場としての難易度はそう高くはないと思う。

11:03 山荘着(2340m, 23.9℃)

道
振り返ると空が青かった
丸山から振り返ると空が青かった。しかしどうにも暑くて、なんだか朦朧とした感じ。登ってくる人たちも辛そうだ。上高地への下りが思いやられた。今回はテント山行の予行演習という目的もあるが、なんかそこまでストイックにならなくてもいいのではないかという気がしてきた。ロープウェイでのラクラク下山に気持ちは7割方傾いていた。
西穂の山頂からテント場まで、休憩時間を含めてコースタイムどおりとなった。
テントは30分ほどで撤収できた。そうこうしているうちにモチベーションが復活してきて、上高地へ下りようという気がわいてきた。道は樹林帯だが、笠新道のような、日陰の少ない道という可能性もあるので、水を少し買い足した。

12:00 山荘発(2360m, 28.5℃)

分岐
分岐
上高地への道はテント場の下のほうから始まる。そのスタート地点の窪地には、まだわずかに残雪があった。サクラの花が咲いていたりして、ここだけ春の様相だった。
道というよりは沢に迷い込んだ風情で疑わしかったが、間もなくビビッドカラーの標識を発見できた。この道は焼岳への道でもあるのだが、やたらたくさんついている標識はほとんどが「上高地←→西穂山荘」の表示で、焼岳へ向かう人にとってはちょっと紛らわしいことだろう。10分もすると立派な標柱がある分岐に到着し、ここで焼岳への道を分ける。
分岐を過ぎて5分もすると再び雪が登場。今度は長く続いた。暑いので雪をひとつかみ、帽子の中に入れて歩く。雪解けの周囲にはサンカヨウの花がたくさん咲いていた。この道にはキンポウゲの花が多かった。

12:35 迷い平(2180m, 30.9℃)

道
赤い道標とロープに導かれて下る
その名も「迷い平」。ビビッドな標識がうるさいくらいに木についているし、要所にはロープが張ってあるので、よほどでなければ迷うことはなさそうだ。標識がかなり上にあるのは、積雪期にも埋もれなくするためなのだろう。
しかし迷い平を過ぎて少しすると、あれほどうるさかった標識がめっきり少なくなり、赤テープをメインの目印として進むようになる。

13:05 降雨(2040m, 25.5℃)

山荘を出てからちょうど1時間のところで、ザックを降ろして行動食を食べていると、なんの前ぶれもなく雨が降ってきた。午前はあんなに天気がよかったのに。カメラをしまい、ザックカバーをつけ、カッパの上着を着る。
この雨のあとで、明らかに空気がひんやりとしてきた。

13:16 水場(1980m, 23.3℃)

中間点と思われる水場を通過。登りの場合はここが最後の水場となる。しばらくは張り出した尾根を行く平坦な道になり、尾根の突端で右手に下り始める。
この下りは急だが、そういう道にありがちな木の根の階段が劇的に少なく、ぬかるみやスリップするような箇所もほとんどなくて歩きやすかった。雨だったのでこの点はとても助かった。
この道にはやたらとギンリョウソウが多くて、こんなに大量に見たのは始めてだった。また、ほかに奇妙な花を見つけた。ホテイランのような形をしているが、葉っぱがない。きれいはきれいだが、ギンリョウソウに通じる不気味さも感じる。帰宅後調べてみたらショウキランという花だった。腐生ランという種類なのか、フムフム。

14:31 田代橋登山口着(1535m, 25.6℃)

ハルニレ
踊るようなハルニレの木を過ぎれば田代橋は近い
カッパがあまりにも蒸してしかたなかったので、途中雨が小降りになってから脱いだ。
それにしてもキツい下りだ。もう膝が笑い始めている。久々のテント山行ということもあるが、標高差900mでこれはイカン。
下りきったあたりで、右手前方に建物が見えて田代橋に着いたかと思ったがそれは罠で、それからが長かった。メキシコの砂漠のサボテンのような、はたまた踊る埴輪のような、不思議な形のハルニレと思しき巨木を通過してから3分ほどでようやく田代橋の登山口にたどりついた。この下りでは2人とすれ違っただけで、実に静かだった。雨はいつの間にかあがっていた。

14:52 上高地バスターミナル着(1530m, 24.4℃)

田代橋からは西穂と前穂は見えたが、奥穂は雲の中だった。朝までいた西穂を見上げるのは気分がよかった。橋を渡り、川沿いの道をたどる最短ルートでバスターミナルへ。バスターミナルから河童橋への道は通勤ラッシュのように大勢の人が列をなして歩いているのが見えた。次のバスは15:20。きっぷを買ったり、トイレで着替えたりしていたら発車時刻ぎりぎりになってしまった。
バスターミナルの水場の水をがぶ飲みしたとき、身体が渇いていることを実感した。いくらでも飲めそうな気がしたのだ。下りでは雨が降ったためロクに休憩もしていなくて、水をとらなすぎた。激しい筋肉疲労はそのせいなのだろう。
松本では電車の接続が悪く、次の特急が1時間半も来ないので、駅ビルの蕎麦屋でそばと馬刺しを食べてから、スーパーあずさに乗った。
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