晩秋の尾瀬 2006年10月21日 - 22日 山小屋利用

10月21日 曇りときどき晴れ

東京駅から朝一番の新幹線Maxときに乗り、高崎で上越線に乗り換え。水上行きの各駅停車はザックを担いだ客ばかりで、すっかり登山列車の様相だった。車窓からは赤城山はきれいに見えたが、北の山々は雲の中。前日まで雨を降らせていた雲が山には残っているようで、ちょっとがっかりする。
沼田着は8時ちょっと前。車内に大勢いた登山者のうち、沼田で降りたのは10数人。そう、みんな谷川岳が目的だったのだ。おかげで大清水行きのバスもゆったり座れた。戸倉でマイクロバスに乗り換え、鳩待峠に着いたのは10:15頃だった。津奈木のあたりが紅葉がきれいで、標高の高い峠はもう終わっていた。至仏山は雲の中だった。

10:23 鳩待峠発(高度計:1590m, 温度計:16.0℃)

登山道
真新しい木枠に囲われた石畳の道
登山道
秋色の道
のっけから石畳の道。蛇紋岩だからか、それとも単に濡れているためか、この石がツルツル滑って怖くて仕方ない。まるでスケートリンクに靴のまま降りたったみたいだ。あとからこの山行を振り返ってみても、ここが最大の難所だったと思う。以前から峠の直下は石畳だったが、整備を進めているのだろうか、石の道は記憶よりもはるかに下まで続いていた。
石畳のあとは木道に変わる。思ったよりはるかに人が多くて驚いた。ちょっぴり渋滞していらいらさせられた。周囲の紅葉はやはりほとんど終わりだった。

11:13 山ノ鼻(1400m, 12.2℃)

見本園
見本園のカラマツにスポットがあたる
山ノ鼻に着いたときには見本園のところにちょうど陽がさしていて美しかったが、至仏山の山頂付近に雲がかかったままだったのは残念だった。
ここで、東京駅の新幹線ホームで買っておいたおにぎりを食べた。

11:35 山ノ鼻発(1405m, 15.0℃)

尾瀬ヶ原
燧を眺めながら草紅葉の尾瀬ヶ原を行く
いよいよ草紅葉の尾瀬ヶ原に突入。雲が多いながらも、燧は全身が見えた。草は白っぽくて、周囲の紅葉同様、盛りを過ぎてしまっていることを感じさせた。風があって池塘には絶えず波がたっていて、逆さ燧は見られなかった。
原に入ると人はばらけて、山ノ鼻までの下りに比べて格段に歩きやすくなった。

12:11 三叉路(1400m, 13.6℃)

池塘
池塘のヒツジグサも色づいていた
下ノ大堀川
晩秋の寂しげな下ノ大堀川
色づいたヒツジグサを観察したりしながら意識的にゆっくり歩く。
すっきり晴れないのは残念だったが、それでも秋の原は素晴らしかった。牛首が茶色く変色しているのは奇妙に感じたが、紅葉最盛期はさぞかしきれいだろうと思った。また大好きな下ノ大堀川のスポットは、冠水でもしていたのか荒れていて醜く、バックの至仏山にも雲がかかっていて、見るからに寂しげだった。立ち寄る人もほとんどいなかった。

12:55 竜宮(1400m, 13.3℃)

竜宮付近では木道の工事をしていて、竜宮の入口の方が見られなかった。見晴まで一気に進むことにして、竜宮小屋では休憩はとらずに通過。

13:19 見晴(1415m, 13.8℃)

下田代に入った頃には、燧の上空は雲は多いながらも晴れ間が見えるようになってきた。また、人影が目に見えて減った。鳩待から日帰りの人は竜宮までで引き返してしまうのだろう。ここまでなんだかモチベーションがあがらなかったが、ようやく静かな尾瀬を味わえて嬉しくなった。
予約してある温泉小屋には16時までに入りたい。そのためには、見晴を15時過ぎに出ればいいだろう。それまで見晴の周辺を散策することにした。

沼尻川橋へ

沼尻川
沼尻川橋からの眺め
まず沼尻川橋へ向かうことにした。ここは愛用のガイドブック「山小屋の主人(オヤジ)がガイドする」シリーズ(現行では「フルカラー特選ガイド」)で、尾瀬の隠れた紅葉の名所として、写真家の花畑日尚氏が紹介しているところだ。これまで歩いた感じからしてもう紅葉は終わってしまっているだろうが、果たしてどれほどきれいだろうか。
沼尻川橋へはテント場を通り抜けて南東に進む。木道はテント場の出口で終わりだった。その先の道はぬかるんでいるが、木々の葉の落ちた明るい林を歩くのは気分がよい。しかし落ち葉が堆積して地面の様子が分からず、うっかりするとぐっちょりと逝ってしまう。
しだいに沢音が大きくなると橋に到着。テント場から10分くらいだった。予想どおり、紅葉は終わっていた。しかしそれよりもショックだったのは、想像よりもはるかに凡庸な眺めだったことだ。ガイドブックのきれいな写真の印象が強すぎて、現実とのギャップにうまく対処できなかったのだ。その本は'91年発行の古いものなのだが、どうもその頃と様子が違っているようだ。
ガイドブックの写真では岸から流れの上にほどよい角度で張り出していたブナの木が、年月を経て、邪魔に思えるほど垂れ下がっていた。また、本には『尾瀬の林に多い笹を気にせず撮影できる』とあるが笹だらけだった。これはこの15年の間に侵入してきたということなのだろうか。

原でまったりする

見晴
秋色の見晴
燧
燧を眺めながらまったりと過ごす
激しくがっかりしつつ見晴へ帰る。軽食をとってから、尾瀬沼方面の道を行くことにした。見晴からすぐのところは紅葉が残っていたが、奥に行くにつれ景色は寒々としてきた。見上げると樹間から燧が青空に映えていた。そう、いつの間にか空が晴れてきたのだ。そこで急きょ見晴に戻り、原から燧をのんびり眺めることにした。
木道の待避線に座り込んで燧や景鶴を眺めながらまったりと過ごしていたら、日がかげってきた。

14:56 見晴発(1410m, 10.9℃)

原
夕暮れの東電小屋分岐付近の眺め
寒くなってきたのでちょっと早いが小屋に入ることにし、見晴をあとにした。赤田代の眺めもなかなか素敵だった。竜宮 - 見晴間の下田代は起伏が大きくて草原を鑑賞するにはイマイチだが、ここは湿原の縁から斜面を見下ろせるので、イイカンジだ。また、カラマツの木が点々とあるのがうまくポイントになっている。夕暮れの湿原を味わいながらゆっくりと歩いた。

15:29 温泉小屋着(1410m, 11.9℃)

思いっきりゆっくり歩いて温泉小屋着。この方面の木道は壊れている箇所もあるなど、ちょっと荒れていた。

温泉小屋

もうシーズン終盤で別館が閉まっているからだろうか、小屋は思ったより混んでいて、8畳の部屋にほかの男女2人組×2組とともに6人で入った。ちなみに、別館が閉館のため個室の対応はしていないということだった。
風呂は狭かったがいい湯で、腕にあったかぶれが一発で直った。食事も美味しくいただけた。きのこの味噌汁が美味かった。
今日半日歩いたが、なんとなく尾瀬をちゃんと楽しんでいないようで不完全燃焼気味だった。快晴の尾瀬ヶ原を歩くつもりでいたからだ。小屋の受付で燧裏林道の様子を聞くと、紅葉はほとんど終わっているという話。そこで、翌日晴れたら燧裏はやめてふたたび尾瀬ヶ原を歩くことに決めた。隣の部屋のおばさんが消灯時間を過ぎてもぎゃーぎゃー騒いでいたが、それでもまあ眠れた。

10月22日 曇りのち晴れ

コケ
道端のミズゴケも紅葉していた
同部屋のうちの1組が燧に登るということで朝早いので、それに便乗して5時過ぎに起床。にしても雲が多い。さて、原に戻るか、燧裏林道を行くか。
朝食は6:30。その前に早朝の原見物に東電小屋分岐あたりまででかけた。霜が降りて真っ白になった原を見たかったわけだが、この朝はぽかぽかで霜など降りず。朝もやもない、普通の尾瀬ヶ原だった。ただ、朝露で草が濡れていて、昨日は乾燥して白っぽかった原がしっとりとした色に染まっていたのは美しかった。

7:26 温泉小屋発(1420m, 18.1℃)

結局、雲が多く至仏山の展望が期待できないので、燧裏林道を行くことに決めた。燧の上空は晴れていたが、原からは午前中は逆光だし、ずっと背中なので「眺めながら歩く」ということができない。
出発間際までは段吉新道を歩くつもりでいたが、三条の滝を見に行けばいいんだということにふと気付き、寄ることにした。御池のバス時刻は10:50で、今からだとコースタイムの上では間に合わなくなる。まあそれならそれで次の12:20のバスにすればいいわけだし、とにかく行ってみよう。

7:41 平滑の滝(1360m, 11.1℃)

平滑の滝
平滑の滝を見下ろす
10分ほどで平滑の滝に到着。付近は、鉄網付きの立派な階段を付ける工事の最中だった。これなら木の階段と違って滑りにくいだろう。山歩きに慣れていない人でも歩きやすくなるに違いない。平滑の滝の周辺はいくぶん紅葉が残っていて、それが朝日を浴びてきれいだった。

下る

紅葉
対岸の紅葉
登山道
落ち葉に半分埋もれた木道を行く
昨日の沼尻川橋への道ほどではないが、落ち葉が積もっていて歩きにくい道をぐんぐん下っていく。が、要所には木道が敷設されていて、たいへんというほどのことはない。道中の色づきもまあまあ。色とりどりの落ち葉に覆われた木道の脇ではホウノキが冬芽を出していたりして、いかにも晩秋という感じがした。

8:19 三条の滝(1245m, 11.5℃)

三条の滝
まぶしい三条の滝
三条の滝を見るのは10年ぶりだ。が、なんと第一展望台は手すりを外したので通行止めという。道々、『三条の滝展望台は積雪対策のため一部使用できません』という看板があったが、それはこういうことだったのか。しかしこの滝は、上の第二展望台からだと樹間から上部が見えるだけでイマイチ。下の第一展望台から見ないと迫力が味わえない。
というわけで、危険を承知で「立入禁止」の柵を乗り越えて第一展望台へ。展望台のテラスには2人組の先客がいた。高所が少々苦手な自分だが、ここでは手すりがなくても平気だった。この日は穏やかだったからよかったが、風があったりすると危ないだろう。
滝は、秋で水量が少ないかと思いきや、10年前の初夏に見たときの印象そのままの迫力だった。ただ、残念ながら太陽が逆光どんぴしゃり。手をかざさないとまぶしくて見えない。対岸の斜面は紅葉が残っていたので、光の条件さえよければもっときれいに見えたに違いない。

8:38 三条の滝発(1255m, 12.2℃)

思いのほか長居してしまった。バスの発車時刻まではあと130分。エアリア地図のコースタイムは150分だ。普通ならあきらめるが、今日は荷物も軽いし、とりあえず天神田代まで頑張ってみることにした。
三条の滝からは登りになるのでウールの長袖シャツを脱いでTシャツ1枚になった。まずはウサギ田代まで九十九折の斜面を登る。ハードな段差はないが、なかなかの急斜面。一気に標高差200mをかせいだ。

9:11 ウサギ田代(1450m, 14.1℃)

ウサギ田代
ウサギ田代
林
明るいブナの林
急に平坦になり、木道が現れるとウサギ田代の小湿原。道は緩やかに左へカーブを描く。その先に渋沢温泉小屋への分岐があった。さらに斜面を少し登ると、間もなく段吉新道との分岐に着いた。ここから木道となる。以後断続的に、御池までずっと木道は続いた。
日陰で湿った木道はツルツル滑るので慎重に急ぐ。少しだけ葉っぱの残った明るいブナの林を爽快に歩く。そういえば、いつの間にか空がきれいに晴れ上がっていた。こんな快晴だったら原を歩いてもよかったかな、とも思った。

9:43 裏燧橋(1525m, 15.9℃)

登山道
明るい林を行く
裏燧橋
裏燧橋
細かなアップダウンを繰り返して進むと、大きく立派な吊り橋が。橋の上からは眺めがよく、平が岳が見えた。12年前にここを歩いたときには、いつ流されてもいいように、みすぼらしい木の橋がワイヤーで固定されていただけだった。
橋のたもとにはベンチもあって休憩適地だが、荷物が軽いうえに道が概ね平坦なのであまり疲れていない。水だけ飲んで休憩はとらずにとにかく突き進む。

9:52 天神田代(1560m, 16.2℃)

橋から10分ほどで天神田代に着いた。天神田代はかなり乾燥化が進んで、湿原の「跡地」といった趣だ。
ウサギ田代からここまで、コースタイムより10分早かった。バスの時間まで残り60分で、コースタイムは70分。うまくすればバスには間に合うかもしれないが、最大の楽しみである上田代でのんびりすることができない。さて、どうしようか。
ここからは、それまでのブナ林とかわって針葉樹が台頭してきた。相変わらず斜めにかしいだ木道が怖く、慎重に早足で歩く。日曜日だからか、意外にもすれ違う人が多い。日帰りかもしれないが、これではバスが混雑するんじゃなかろうかと心配になる。

10:16 横田代

横田代
笹がなく美しい横田代
10分ほどもすると大きく大きく変形した異様な形のダケカンバがあった。さらに10分で西田代に到着。林間の小湿原だ。しっとりと落ち着いた雰囲気がいい。
再び林に入り、すぐ次に横田代が現われる。ここは見事な傾斜湿原。逆光にきらきらと輝く黄金色の草がきれいだ。尾瀬ヶ原と違って笹がまったく侵入していないので美しさもひとしおだ。木道は湿原の端っこを舐めるようにしているだけなので全貌はわからず、それが残念といえば残念だ。

10:26 上田代(1615m, 18.8℃)

上田代
見事な傾斜の上田代と燧ヶ岳
平ヶ岳
上田代より平ヶ岳を望む
再び林に入り、次に現れるのは燧裏最大の湿原である上田代(うわたしろ)。ここから御池までのコースタイムは20分。あとは下るだけ、これでなんとかバスには間に合いそうだ。というわけで少しゆっくりと風景を楽しむことにした。
湿原の真ん中のベンチは満席だったので(ここがサイコーに気分がいいのに残念)、歩きながらの鑑賞会。湿原は横田代同様に笹がなくて美しい。さらに、横田代・西田代より勝る点はその眺めだ。平が岳が見えるし、また、逆光だが燧の先っちょの方も見える。

10:47 御池着(1520m, 18.2℃)

木道
真新しい木道
付け替え工事中の木道を下る。幅広で滑り止めのついた木道は、観光客を意識したものだろう。小さなノメリ田代を経て、それまでの湿原と違って笹だらけの御池田代の脇を通過。ここまで来ればバス停まではあと少しだ。どうにかこうにかバスには間に合った。
そういえば三条の滝を出てから2時間のあいだ、ずっと立ちっぱなしだった。行動食もとらず、水を飲んだだけだった。

下山

車窓
バスは紅葉の山を下る
山を下るバスはがらがらだった。檜枝岐まで、ちょうど紅葉が見頃だった。途中で地元のおばあさんを何人か乗せて、野岩鉄道の会津高原尾瀬口駅に着いたのは12時過ぎ。売店で舞茸ごはんや焼きおにぎりを買って、東武線直通の浅草行き区間快速電車に乗りこんだ。
3時間も乗ったあと栗橋でJR湘南新宿ラインに乗り換えて、新宿駅には17時前に着いた。電車はずっと座れたが、尻が痛くなってしまって逆に困ったくらいだった。
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