北アルプス唐松岳 2005年8月27日-28日 テント縦走

8月27日 曇り

朝の南関東はどん曇り。台風一過のはずだったのに話が違うじゃないか、どうも今年は予報がイマイチ当たらないなあ、とか思いながら始発列車で東京へ向かう。
始発の新幹線あさまは指定席がとれず、東京までずっとやきもきしていたが、着いてみれば自由席はがらがらでほっとした。駅弁を食べてまったりしていると、上野・大宮で人が乗ってきて、ほぼ満席くらいになった。登山客も結構多い。
碓氷峠を過ぎても空は晴れず、なんだか気分が乗らない。長野駅からはバスに乗り換え八方を目指す。ライバルが多そうなので、駅に着くなりバス停へダッシュ。しかし事前にチェックした2001年のヤマケイJOY「入下山口徹底マニュアル」とはバス停の場所が違っており(変更になったようだ)、結局どんじりになってしまった。それでもバスは補助席を出して1台で足りた。乗客は観光客と登山客が半々くらいの感じだった。ほとんどの客、特に登山客は白馬駅で降りてしまった。きっと白馬岳に登るのだろう。

八方ゴンドラ

八方到着は9:30。途中で少しだけ日が差す場面もあり期待したのだが、結局どん曇り。
バスターミナルでポカリのペットボトルを購入し、ゴンドラ駅へ。徒歩約10分だがムシムシと暑い。駅で水を補給しようか迷って、山に登るのだが上には水を汲むところはあるかと係員に尋ねると、怪訝そうな顔をしながら、トイレの洗面所の水が飲めるというので安心してゴンドラに乗る。
ゴンドラの次にリフトを2本乗り継ぐ(アルペンクワッド、グラートクワッド)。ガスの中、リフトに乗ってじっとしているのは寒そうなので、ゴンドラの上の駅のトイレで登山仕様に着替え。案の定リフトはすぐにガスに包まれ、濃いときには前後のリフトしか見えないほどになった。
グラートクワッドを降り、八方池山荘脇の公衆トイレに行って水を汲もうとすると「飲用不可」の表示が。うわー話が違うじゃん。係員の想定した「上」は違う駅だったのかもしれない。それでも売店脇に自販機がありペットボトルのミネラルウォーターが入手できるので、焦りはしなかった。念のため売店で「水を分けてほしいのだが」と尋ねると、山荘に行ってくれという。行って同じことを申し出ると水道の水を分けてもらえた。ひとり100円。量ではないのである。水はかすかにカルキのにおいがしたが、天水をどうにかした、というほどまずくはない。普通の水道の水という感じだ。

11:00 出発(高度計:1850m, 温度計:27.3℃)

八方
八方池山荘前から出発
濃いガスの中を出発。ゴンドラ・リフトはかなり空いているように感じたが、登山道(というより遊歩道)は行列が続いていた。道の周りにはマツムシソウやカライトソウなどが咲いていた。のっけから木道が続き、未だかつて見たことのないような緩い階段も出現する。このあたりの木道は、自然保護というよりはスニーカーの観光客の歩き易さを考慮しているのだろう。
その軽装の観光客の追い上げがキツい。それに加えて、なんといってもお互いの意思の疎通のなさが堪える。登山者同士だと道を譲るタイミングなどはなんとなく分かるのだが、彼らにはそれが通じないのだ。そのため余計に気を遣い、体力を使い、時間を使う。特に第2ケルン手前の階段がキツかった。頼むからそんなに煽らないでくれい。
たまらず第2ケルンのトイレの前で立ったまま休憩していると、雲が上がり不帰の嶮の胴体が見えてきた。

11:55 八方池(2100m, 31.6℃)

八方池
八方池と不帰の嶮の腹
なんだかんだいって八方池にはコースタイムどおりに到着した。ザックを降ろして軽食をとる。
そのまま晴れ上がるかと思った雲だったが、上空にとどまったまま動かない。というわけで、八方池と白馬三山という有名な景色は見られなかった。それでも不帰の嶮の岩根こごしい横っ腹を見ていると、北アルプスに来たんだなあという気がして嬉しかった。

12:10 八方池発

下の樺
下の樺
ここから先は登山者の領域だ。すぐに林の中に入る。これが下の樺だろう。小石の敷き詰められた道はひんやりとして涼しかった。段差のない歩きやすい道をだらだらと登っていく。林の切れ目にはホザキシモツケが咲いていた。
なんだかペースが上がらない。道が単調すぎるせいか、それとも第2ケルンの階段で観光客に煽られた影響だろうか。上の樺の途中に木の根の大きな段差があり、そこを登りきるとたまらずザックを降ろして休憩。その間にどんどん追い抜かれる。こりゃあ今日は小屋は混みそうだ。テント装備の人は1組くらいしか見当たらなかった。

13:39 丸山(2415m, 25.0℃)

扇の雪渓
扇の雪渓
丸山
広々とした丸山ケルン
扇の雪渓の脇を通過すると丸山ケルンが見え、ほどなく到着。広々としていて休憩にはもってこいだ。これまでの歩きで結構バテ気味。腰をおろして軽食をとっていると、とうとうガスに包まれてしまった。

13:57 丸山発(2395m, 19.9℃)

道
ガスガスの道を行く
あっという間に寒くなってきたのでたまらず出発。道は相変わらず歩きやすく単調そのもの。展望がないため単調さはさらに増幅される。濃いガスであまりよく見えないが、斜面には花がたくさん咲いているようだ。晴れていれば楽しいんだろうなあと漠然と思いながら歩を進める。

14:47 唐松岳頂上山荘着(2560m, 16.4℃)

40分ほども歩くと桟道と鎖場が出現。いくつかのウェブサイトで、鎖場を過ぎればすぐに小屋に着くという記述を見かけたので到着かとも思ったが、頂上山荘のサイトでは丸山から山荘までは80分かかるとある。これじゃあいくらなんでも早すぎる、きっと上の方にまた鎖場があるんだろう、と話しながら歩いていたら、唐突に赤い建物が出現。あまりに不意でびっくりした。そしてそれが頂上山荘だった。なお、この鎖場は鎖の必要性をまったく感じない程度のものだった。人気コースだけに、幾分過剰になっているのだろう。
とりあえず小屋の前にザックを降ろし、Tシャツ1枚で寒かったのでウールのシャツを羽織った。

テントを張る場所を探す

テントの申し込みをしようと小屋に入ると、受付は人でごった返していた。受付の脇には飲み物の自販機、小屋の奥からはクラシック音楽。なんとも北アルプスちっくだなあと思った。一番苦手なタイプの小屋だ。
テント場は祖母谷方面への道の途中にある。小屋の前の斜面をジグザグに下るのだ。しかし見下ろしてもガスで何も見えない。とりあえず下りはじめると、たまたま小屋の従業員がやってきたので本当にこの下にテント場があるのか思わず確認してしまった。数分してようやくテントが見えた。
テントは登山道の脇に張る感じで、当然ながら上、つまり小屋に近いほうから場所は埋まっていく。結構混んでいて、下りても下りてもなかなかいい場所がない。右往左往して、結局テントを張り終えたのは到着から1時間も経った頃だった。

テントにて

我々の陣地はかなり下で、小屋まで登るのに10分かかった(泣)。トイレ・水は小屋まで行かなければない。テント泊・外来用トイレはなんと男小用2、個室はわずかに1のみ。翌朝が心配だ。水は小屋で買う。加熱用と飲用がある。飲用は市販しているペットボトルの水だ。炊事にどれくらい必要で・・・などと計算していたら面倒になったので、結局全部飲用を買うことにした。
夕食は豚肉の味噌焼きと、野菜炒め。それに赤ワインを飲んだ。冷凍して持参した肉の解凍具合はばっちり。ラーメン用ミックス野菜にはもやしが入っていたので傷みが心配だったが1日目なので大丈夫だった。ワインは02年のカロン・セギュールのハーフボトル。軽やかなワインだが、山を歩いて疲れた体で飲むと、ガツンと重く感じた。テントでまったりするのが今回の目的のひとつだったので、この時間は幸福だった。美しいという夕景が見られなかったのは残念だったが。
個々のテントが離れているせいか夜は静かで、19時頃には寝てしまった。

8月28日 晴れのち曇り

3時起床。テント内は13.7℃あり、さほど寒くはない。まだ暗い外へ出てみると、闇の中に五竜岳が黒くそびえていた。しかし剱・立山には雲がかかっている。今日は五竜岳を登って遠見尾根から下山する予定だが、展望がないのでは行ってもしょうがない。このまま八方尾根をのんびり下ることにする。
そう決めて30分ほどまったりしてからトイレに行こうと再び外に出ると、立山はまだ雲の中だが剱の雲がとれていた。流れ星も見えた。こりゃあ晴れるに違いない。こうなると俄然やる気が出てくる。当初の予定どおり五竜まで行くことにし、早速準備開始。

夜明け

五竜岳
朝焼けの五竜岳
昨夜の残りご飯にマグヌードルを混ぜ合わせたラーメンライスの朝食を食べてから、テント撤収開始。まだうす暗く、唐松岳や五竜岳を登る人のライトが揺れているのが見えた。
昨日はガスで分からなかった周囲もよく見えた。真上を見ると意外にも近いところに頂上山荘が見えた。そして下を見ると、テントが3張ほどあって、そこから先はもうただの登山道だった。実は我々はテント場の中でも一番下に陣取っていたのだった。
撤収がほぼ完了した頃、夜明けを迎えた。真正面の剱・立山が朝日に染まる。剱岳ってのはなんてカッコいい山なんだろう。素晴らしい眺めに、手を休めてしばし見入った。続いて五竜、唐松にも日が当たった。五竜もどっしりとした風格のある山だ。

5:40 唐松岳に向かう

五竜
夏雲が湧く五竜岳
白馬
夏雲が湧く白馬三山
撤収が完了したら小屋へ登り、ザックを小屋前に置いて水筒とカメラだけを持って唐松岳を往復する。人がひっきりなしに行き来している。山荘脇には夏の名残のコマクサが、ほとんど枯れながらもぽつんぽつんと咲いていた。
小屋を出た頃から徐々に雲が湧いてきて、朝はすっきり見えていた五竜がだんだん隠れてきてしまった。白馬も頂上に着くころには雲の中に入ってしまった。

5:58 唐松岳

小屋
頂上山荘とジグザグ道のテント場
雲海
見事な雲海
小屋からは20分弱で登頂。山頂からは大展望が得られたが、上空は雲に覆われ高曇り。なんだか薄暗かった(ぐるぐる写真)。東の雲海が素晴らしく、雲がゆらゆらと揺れていた。はるか遠くの雲海の上に富士山らしき山も見えた。
遠見尾根の下りのリフトは最終が16時で、逆算すると6:30には小屋を出たかったが、結局30分近くも山頂にいてしまった。

6:44 山荘発(2605m, 17.2℃)

岩場
岩場を振り返る
小屋を出てすぐに小さく登る。数分で登りきると、ここからは岩場なのでストックは収納するように、とのお触書が。見下ろすと鎖の付いたなかなか高度感のある岩稜だ。山と高原地図の「足元注意」の表示はずいぶん南なのでノーマークだった。ここは素直に、一度ザックを降ろしてストックをしまう。小屋のあたりにも掲示があれば最初からストックなしで歩き始めたのだが、見落としたのかもしれない。歩き始めですぐにまたザックを降ろしたことで、やる気をはぐらかされたような感じがした。
岩場は、さほど危ないところはなかったように思う。ただ、岩場らしい岩場はずいぶんと久しぶりだったので、結構緊張した。

7:20 岩場終了(2540m, 17.4℃)

岩場
この鎖場を過ぎれば核心部は終了だ
20分くらいで再び、ストックをしまうようにという掲示が。これは逆方向の人向けだ。ということはこれで核心は通過したということだろう。少し広いところに出てからザックを降ろし、ストックを取り出した。あたりにはトウヤクリンドウがたくさん咲いていた。岩場を歩く間は足元に集中していたため気付かなかったが、いつの間にか周りは雲に覆われ展望がなくなっていた。
ただし、予想に反してその後も鎖場は続いた。ストックが邪魔だったが、しまわなければならない、というほどではなかった。鎖場は思いのほか長く続いたが、その後はザレザレの下りとなった。

8:14 大黒岳の鞍部(2370m, 23.8℃)

剱
雲を突き破る剱の切っ先
下っていると再び雲が下がってきて、剱岳がその切っ先を突き出しているのが見えた。しかし相変わらず五竜岳方面は分厚い雲に覆われていた。
下りきったところでザックを降ろして休憩。斜面はカライトソウやリンドウなどの花畑になっていた。この鞍部は1/25000図に大黒岳と表記のあるあたりで、山と高原地図では「足元注意」とあるところ。でも注意するべきところなんかない。やはり2511mの三角点より北に書くべきところを間違えたのだろう。
鞍部から樹林帯に入り、遭難慰霊碑のある小さなピークを越え少し登るとまたハイマツ帯に出た。ここから岩くずの広い尾根歩きになった。道はよく踏まれていて歩きやすい。

9:18 遠見尾根分岐(2525m, 23.4℃)

五竜
分岐から五竜岳を望む
分岐に到着。五竜山荘がすぐ真下に見える。歩いてきた道を振り返ると唐松岳が見えた。五竜岳は相変わらず雲の中で、このまま登っても展望が得られるかどうか。対向者に山頂の様子を聞くと、鹿島槍や剱立山方面はよく晴れているという。しかしこのあと山頂まで1時間かかるし、その間にどう変わるか分からない。
さんざん迷った挙句、このまま下山することに決定。山頂で食べるはずだったグレープフルーツをここで食べ始めたとたん、五竜岳が姿を見せた。その後も五竜は雲から出たり入ったりを繰り返した。

10:16 分岐発(2535m, 24.5℃)

唐松
分岐から唐松岳を望む
分岐にザックを置いたまま小屋へ行き、トイレを済ませ、水を1L買った。五竜山荘のテント場は狭そうだった。分岐に戻ると強烈に日差しが照り付けてきた。一度隠れてしまった唐松岳が見えてきた。五竜岳には登れなかったが、このすっきりとした三角錐が見られたのでよしとしよう。
分岐を出ると少しして鎖場が3つ続く。しかしいずれも鎖を使わずに下りられる。その後は泣きそうになるくらい階段が続いた。道の周囲にはホザキシモツケやリンドウの花が咲いていた。

11:22 西遠見山通過(2305m, 29.0℃)

鎖場
長い鎖場を慎重に下る
階段が終わって今度は長い鎖場。ここは鎖を使った方が安全だ。このあたりから樹林帯に入る。鎖場のあとも少し下りが続き、登り返したところが西遠見山。なだらかに道が続き、どこがピークかわからないまま下りになった。ちょっと下ったところにベンチがあったので少し休んだ。
ベンチからすぐに大きな池に到着。1/25000図にもはっきりと描いてある池だ。周りは広く、多くの人たちが休んでいた。我々は休んだばかりなので通過。そのあとはだらだらと下っていく。

12:10 大遠見山通過(2140m, 26.5℃)

なおもだらだら下る。大遠見山のピークは通らない。直下に標識があり、道幅が広くなっていて休憩適地。昼寝をしている人がいた。

12:57 中遠見山(2040m, 27.1℃)

なおもだらだら下る。がっ。中遠見山へは登り返しがあり、この登りがつらい階段だった。延々と続くのが見え、泣きそうになった。相棒は「万里の長城のよう」だと評した。
登りきったところには立派なケルンがあって、ザックを担いだまま寄りかかり、息を整えた。ここにも遭難慰霊碑があった。

13:18 小遠見山の分岐(1990m, 25.0℃)

分岐
分岐
小遠見山は晴れていれば鹿島槍の眺めが美しいらしいが、今日は何も見えない。ピークを巻く道があるのでそちらを選択。巻き終わったところでいったんザックを降ろす。
ここまで来ればあと1時間だ。とほっとしていたら雨がぱらついてきた。・・・泣きそうになりながらザックカバーを装着。ぱらつく程度なのでカッパは着ない。しかし休んでいるうちに雨は止んだ。
この先は道が格段に良くなった。ぬかるんだところに迂回路がついていたり、ベンチがちらほらとあったり。白馬五竜テレキャビンが小遠見山までをトレッキングコースとしてPRしているためだろう。当然階段もあったが、斜度が緩やかなので段差もあまり大きくなく、下る分にはまあまあ歩きやすかった。

14:30 リフト駅着(1660m, 24.8℃)

地蔵の頭は通らずに遊歩道を巻いてリフト駅に到着。ザックを降ろしてリフトに乗る準備をしようとすると係員がやってきた。曰く、リフトで下りると下の駅からテレキャビンの駅まで登り返さなければならない、という。リフト10分+登り5分と、歩いてテレキャビンまで下り15分、どちらも時間は変わらない。
というわけで、再びザックを担いだ。

14:44 アルプス平駅

アルプス平駅には12分で着いた。靴を洗い、ストックをザックにくくりつけてゴンドラに乗り込んだ。
下の遠見駅からは無料シャトルバスで大糸線の神城駅へ。大糸線各停 - スーパーあずさと乗り継いで帰宅した。スーパーあずさは指定がとれなかったが、松本駅に着いてみたら自由席はがらがらだった。ゴンドラからずっと接続が良くて買い物をする時間もなく、電車でも小屋で買った水を飲んだりしてつないでいたが、あずさで車内販売が来てようやく味のする飲み物にありつけたのだった。
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