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   時候編・秋 大田南畝(四方赤良・蜀山人)の詩・狂歌〔時候編〕   大田南畝関係
  【安永八年(1779)八月十三夜 ~ 十七夜 高田馬場 五夜連続 月見の宴】◯は欠字、◎は表示不能文字 
詞書・詩歌出典巻・頁年月日
「十三夜の月 莫道嫦娥寡 猶思織綺年 欲謀連夜酔 不待中秋天 秦鏡纔分面 斉章已作篇 銀筝十三柱 恰是好弾絃」
「十四夜の月 今宵比前夜 月色似還多 不羨西園讌 聊為下里歌 漸看開桂樹 試欲酌金波 三五看相近 陰晴定若何
 十四夜、高田に遊びて雨の遇ひ、野美卿に過る 高田帰酔路 相伴訪幽栖 欹枕聞風雨 蕭蕭近暁鶏」
「十五夜の月 万戸乗明月 絃歌徹九霄 南楼情不残 北海客相邀 自覚清虚近 寧知碧漢遥 此時無尽酔 何以報良霄
 十五夜、高田に遊びて月を待つ
 三秋雲霧幾時晴 連夜風光此地清 未見林端明月出 先伝天外暮鐘声
 十五夜、高田に遊びて帰る。安子潤、邀へて家楼に宴す。豪韻を得たり
 飛来折簡到蓬蒿 起倚楼頭興更豪 北郭雨収雲影敞 東城天霽月輪高 生前須尽三杯酒 席上誰揮五綵毫
 糸管紛紛千万戸 不知秋思在吾」

「十六夜の月 如待佳人至 沈吟日暮雲 霏微星彩散 皎潔月華分 攀桂憂芳歇 開樽任酒醺 清輝猶未滅 対影転憐君」
 十六夜、高田に遊ぶ。井玄里の韻を和す 彦会相逢発興雄 漸迎明月対清風 携来玉樹芝蘭色 晋代名流有謝公」
「十七夜の月 三秋明月下 数得卜幽期 玉兎仍円夜 蟾蜍欲欠時 浮雲看変態 冷露嘆凄其 但願携佳客 年々及此時」
南畝集4
漢詩番号
0699-0707
杏園詩集
③242
③243
安永8年
1779/08/13
「高田酔歌。錦江生に贈る 
 天欲使我快看連夜之月 便自桂花之初発至芳歇 城西高田数里間 日日同遊往復還 宦情幸逢多暇日 世事従来如等閑
 十三之夜積陰散 一輪未満客先満 望前一夕風雨多 銜杯猶不廃嘯歌 蕭蕭隣雞鳴不已 玉山既頽朱顔酡
 忽遇新晴三五天 起携旧侶又周旋 十六十七清光好 新歌一曲詩百篇 昔聞平原十日宴 今見高田五夜筵
 夜夜共飲黄公廬 文人詞客高陽徒 詩賦若成応染翰 樽酒如尽且当酤 錦江錦江此中楽 惟我与爾有是夫」
南畝集4
漢詩番号0708
③244安永8年
1779/08/17
「月見の説
 それ月は久かたの空にいまして、地をはふ裸虫などの分際にて、なれもてあそぶべきものにしはあらねど、ことさへぐから国には、月出て皎たりなどゝ、桑間濮上をそゝりしよりはじめて、漢魏六朝三唐にいたるまで、そのことば北斗をさゝへ、その影屋梁にみてり。また足引の大和うたには、ならのはの名におふ集より、世々の撰集にのするところ、月弓の引手あまたに、月の舟にもはしけがたし。さればいきとしいけるもの、君はさんやのみかづきさまより、十九たちまち廿日宵やみのタにいたるまで、いづれか月をめでざりける。そも/\此月いかなるものぞと、やれたる壁のすきまかぞへて、月の光に書をけみするに、その月中の混雑なる事、かぞふるにいとまあらず。まづ弓の師匠の何がしが女房は、老せぬ薬をぬすみてかけこみ、呉剛といへるむくつけ男は、まきわりをもちて桂の枝をこなし、うさぎは米をつき、蟾蜍(ヒキガエル)は油をしぼり、その名もつきの色人は、月宮殿の見通しにて、白衣になりての大一座、霓裳羽衣のおどりがあるのと、月のかつらの根もはもなく、月の鼠のその尾にとりつき、詩人は酒家のみせさきに、二合半輪の秋をめで、歌人はゐながらめい/\に、てる月次の定会の夜食にこそはありつきけれ。また連誹となり下つては、百韻に、月いくつと安売の煙草入の思ひをなし、月の定座は何句目などゝ、役桟舗同前にあけてをくこそあさましけれど、いかにはらふくるゝわざなれぱとて、三黄湯のたてくだしにいふも、また理屈くさし。これなん宋儒の袖頭巾気、目ばかり出して空をうかゞふに似たり。それ造物の大なるや、月よよしよゝしとむしやうにうれしがれば、月やは物を思はすると難題をいひかけ、花はさかりに月はくまなきをのみみるものかはと、栄耀にもちの皮をむけば、罪なくて配所の月をと得手勝手なる願をも、まぢり/\ときいて御座るか、たゞしきかずに御座るやら。音もかもなき上天の事は、しらぬが仏も聖人も、もとは一つの裸虫なり。われ造物者の無尽に入りて、大塊われにかしつけの日なしをかせしより、詩歌連誹の紙屑ひらひとなりて、籠の目にふれ耳にきく、雪月花の事にをきては、他人のやふにも思はれず。わけて秋のもなかには。桂男へ対してもひと趣向せねばならねど、もとより五侯の門に入らざれば、すはまにたてる松かげより、雲井の月もながめがたく、千金の儲(モウケ)にとぼしければ、船のうちなみの上に、うかれめの月見も約しがたし。いづれともに猿猴が、水の月よとあきらめりて、江戸の田舎のかたほとり、高田の馬場の松かげに、さらしなやおば捨山のそれならで、信濃屋なる茶やの門に、十五郎てふ名もゆかしく、三五夜中の団子田楽、ゑだ豆のまめ人らをかたらひ、芋の葉月の十三日より、十七日まで、いつも月夜に米のめしの大施餓鬼をなんはじめける。御信心の輩は、詩歌連誹の多少にかぎらず、即時一盃のさかてをついやして、永代不朽の盛名を、笠看板にとゞめざらめや
 八月十三夜月をみ侍りて  朱楽菅江 染出来ぬこんやの月をながむれば秋の最中もたしかあさつて
 十四夜高田の茶屋にて  相場高保 月をめづる夜のつもりてや茶屋のかゝもつゐに高田のばゞとなるらん
 十五夜  春日部錦江 ぶんまはし秋の最中へうつ針のてりとほりたるまん丸な月
 十六夜月  四方赤良 夕霧のまよひもいまだはれやらで出し藤屋のいざよひの月
 十七夜月  出来秋万作 おもしろや月の鏡を打ぬいて樽もたちまちあきの酒盛
 高田五夜月といふことを
  白鯉館卯雲 団子夜中新月の色五つざしすこしこげたはくもりなりけり
  浜辺黒人 あかずみん秋の五夜にむさしのゝ名だかき月は空にすめ/\
 病にふし侍りて高田の月のまとゐにもゆかざりければ  唐衣橘洲
 酒ならぬ薬をのみてみる月は雲よりもうき風の神かな」
〈この月見の宴に寄せられた狂歌狂文狂詩等の賦詠及び作画は『月露草』(『大田南畝全集』第十八巻所収)を参照のこと。この宴に賦詠を寄せた人々は以下の通り〉

 菊池叔成  「関禎 字 叔成。綽号 関叟。称呼 菊池角蔵」
 山田松斎  「山田良弼 字 君忠、号 松斎、称呼 山田茂平」
 耆山     「釈耆山 号懶翁
 大田南畝  「大田覃 字 子耜、号 南畝、綽号 四方赤良、亦称 陳奮翰、称呼 大田直二郎」
 大久保君節 「大久流徳 字君節」
 山内士訓  「山内彜 字 士訓、綽号 服袨遊。山内与左衛門」
 平秩東作  「立懐之 字 子玉。号 東蒙。綽号 東作。称 稲毛屋金右衛門。亦称 嘉穂」
 大膳亮好庵 「安道洽 字 子潤。号 牛峡。称 大膳亮好庵」
 大膳亮玄碩 「字 子穆。称 大膳亮玄碩」
 春日部錦江 「春丁逖 字 菶仲。号 錦江。称 春日部自在門」
 茂木好達  「木徳貞 字(空白)称呼 茂木好達」
 生田好俊  「田以成 字 繹如。称 生田好俊」
 吉見義方  「吉義方 字 伯教、号 塩山。綽号 芋屁臭人。亦称 夜子美。称呼 吉見英吉」
 青木隣卿  「青木安都 字 隣卿。号 金山。称呼 青木絙剬」
 小野美卿  「野正 字 美卿。号 正文、称呼 小野勝二郎」
 熊谷直方  「熊直方 字仲弼、称呼 熊谷孫蔵」
 久保百順  「蘇備 字 百順、称呼 久保九郎太郎」
 井上舟斎  「井上欽 字 子亮。号 洒落斎、称呼 井上舟斎」
 相南出放題 「長徳寺主僧 綽号 相名出放題」
 細井竹岡  「細井庸 字 子信、号 竹岡。称 細井浅右衛門」
 湯浅伍謙  「巌廉 称呼 湯浅伍謙」
 井上竜渓  「井上美邦 字 玄里、号 竜渓、称呼 井上玄里」
 田辺雝    「田辺雝」
 秋山思衡  「秋山思衡」
 井先
     「井先」
 高田鏡湖  「高田識 字(空白)号 鏡湖、称呼 高田◎」
 富田富五郎 「富田幹 字(空白)称呼 富田富五郎」
 源孟格    「源孟格 字(空白)綽号 柳慔」
 市川清五郎 「川良臣 字 仲温。号 東亭。称 市川清五郎」
 須田公暉  「須田公暉 称呼 須田新右衛門」
 吉田隆好  「吉居貞 称呼 吉田隆好」
 井上碧海  「井玖 字 子瓊。号 碧海。称 井上久手之介」
 加藤昌蔵  「滕昌蔵 字 伯慶。号 高尾。称 加藤恒太郎」
 樋口季成  「源器 字 季成、称呼 樋口元良」
 服部高保  「平高保 称呼 服部保五郎」
 保教     「保教 称呼 永井伴蔵」
 田阿     「田阿 河惟寅、字 益之、称呼 河田阿」
 てつ女
 朱楽菅江  「山景貫 字 道甫、綽号 朱楽菅江、称呼 山崎郷助」
 巻阿     「巻阿 称 浮亀庵」
 戯語坊   「太郎松 号戯語坊」
 木室卯雲  「卯雲 号白鯉館 称呼木室七左衛門」
 多福女
 午睡     「午睡 称呼 井上午睡」
 文義     「文義 称呼 小坂伊三郎」
 米汁     「米汁 亦称 樽貫熟柿、称呼 矢田貝左伝二」
 蓼太     「蓼太 称 雪中庵」
 吐月
 阿人
 連丈
 牛飲
 魚文
 文母
 信孝
     「信孝 称呼 青木弥惣右衛門」
 紫気山人  「紫気山人 浄栄寺主」
 素暁
 白駒
     「白駒 称呼 小島屋駒二郎」
 未醒     「未醒 称呼 新海四郎、冬木◯◯隠居」
 荘夢
 遯逖
 利百
 金子豪
 里旭
 橘洲
     「橘洲 名◯従、字 温之、称呼 小島源之助」
 富珋     「富珋 称呼 瓦師伝左衛門」
 鴨保祢躬  「鴨保祢躬 称呼 加藤巳一郎」
 勝延     「勝延 称呼 橋本権太夫」
 草加遁仲  「草加環 字 遁仲、号 姫山、又曰無端斎、綽号 一文字白根、俗称 草加作左衛門」
 源孟雅   「源孟雅 綽号 浜辺黒人、称呼 三河屋半兵衛」
 元木阿弥  「楽士斎 元木阿弥」
四方のあか

月露草
①127

⑱1
安永8年
1779/08/
13~17