請願(陳情)についての理由書

愛知県教育委員会は平成15年10月、「県立高等学校再編整備実施計画・第1期2次分」を発表、
次いで平成16年7月15日、「統合後の新しい学校の構想について」との文書で、平成17年度
に統合を行う新しい学校の開校年度、場所、課程、学科などの基本構想を発表しました。これに
よると、統合対象となるのは、尾張西部地区(祖父江高校と平和高校)海部津島地区(蟹江高校
と海南高校)知多地区(知多東高校と知多高校)の計三地区六校。このほか常滑地区(常滑北高
校と常滑高校)は統合対象とするものの、先送りし検討を続けるとしています。私たちは、県教
委が示した実施計画のなかで「総合学科の設置促進、普通科コース制の導入、総合選択制の導入」
は理解し賛同しますが、「既設高校の廃校と統合」には異を唱えるものです。以下、反対の理由を
列挙しますと、

(1)廃校になれば、その近在に居住し当該校を志望していた生徒は他校に廻らねばならず、通学は
 不便になります。「それぞれの地域の生徒が通いやすい範囲に多様な高等学校が配置されるよう
 に考慮します」(県教委が発表した『基本計画の概要』の一節)との言明に自身が背くという、
 まさに言行不一致、行政機関として恥ずべき所業です。高校拠点数は多いにこしたことはない、
 これは改めて言うまでもないことです。

(2)「中学校を卒業する生徒のみなさんも年々減少しています」(県教委が作成したパンフレット
 『魅力と活力ある県立高等学校づくり』の一節)とのことですが、確かに過去15年間にわたっ
 て中学校を卒業する生徒数は減少を続けて来ました。しかしながら、生徒数はこの先、平成18
 年を底に持ち直し、横這いから年度によっては微増の年も出てきます。数字で示しますと、平成
 15年10月1日現在における県下の15歳人口は72855名、16歳は75083名、17
 歳は75292名、18歳は80417名です。これに対して今後、中学校を卒業する14歳〜
 0歳の人口は、最も多い年齢が75916名(現3歳)、最も少ない年齢が68512名(現12
 歳)であり、14歳〜0歳の平均値は71767名です。また、愛知県の人口の社会増減〜県外
 からの転入者数と県外への転出者数の差は、過去13年間で合計47258名の転入超過、1年
 平均で3635名となります。このうち14歳〜0歳人口は、人口構成比15%と見込むと人数
 にして545名で、この分がプラスされます。不幸にして自然減も出るでしょうが、平均で72
 000名を下ることはないと推測できます。このように見てくると、昨年10月時点での18歳
 人口を別にすれば(今春卒業した)生徒数の減少は今後、せいぜい2000名台にとどまります
 し、前言したように微増の年もあります。であれば、県教委の「廃校・統合」の方針ではなく、
 学級数の削減で対応すべきではないでしょうか。2000名は1学級40名で計算すると50学
 級に相当します。県下153校を対象として1学年50学級を削減することに無理があるとは思
 えません。

(3)「標準規模を1学年6〜8学級(1学級40名を前提)とする」(『基本計画の概要』の一節)
 を目指すとのことですが、これを適正とする根拠が提示されていません。そしてそもそも「標準
 規模」とは何でしょうか。私たちは5学級の高校生活を送りましたが、学業や部活動、学校行事、
 友人との交際、いずれの面においても5学級で過不足を感じたことはありません。

(4)「統合が必要とされた地区」として「地元市町村の中学卒業見込み」が挙げられています
 (『実施計画』の一節)。まず「統合が必要とされた地区」ですが、一体誰が「統合」を必要とす
 るのでしょうか。必要とする地元住民は皆無に近いはずです。「必要とされた」などと県教委はひ
 とごとのような物言いをせず、自身が必要と判断したと記述するべきです。次に、対象となる4
 地区の人口の推移(昭和60年10月と平成15年10月の比較)ですが、中島郡は120名・
 率にして0.3%の増、海部郡は30829名・13.3%の増(蟹江高校へ通学する生徒が比
 較的おおく出ている名古屋市中川区は20858名・10.8%の増、港区は11461名・8
 .1%の増)、常滑市は3353名・6.3%の減、知多市は12072名17.2%の増という
 数字になっています。とりわけ知多市は県下でも有数の人口増地区です。人口増地区ならば普通
 は「中学校卒業見込み数」も比例して増える、少なくとも減少が考えにくいのは自明の理でしょ
 う。

(5)このような現況にも拘わらず、これらの地区をいかなる理由で統合対象に選定したのか、県
 教委は地元住民に十分な説明をする義務を負っています。根拠や経緯を明確に示して地元住民が
 得心の行く説明をする義務があります。開校時には高校建設との理由で私有地を提供等の協力を
 地元に要請しながら、初期の使用目的から逸脱して「廃校と跡地の転用」を目論んでいるのです
 から。約束を反古にするという信義にもとる挙にでたこと、そして新聞発表とおざなりな地元説
 明会(それも地元の求めに渋々応じて開いた)開催で「統合」を既成事実化するかのような県教
 委の態度に疑念と不信を感じざるを得ません。

(6)母校は卒業生の心のより所であり、生きてきた証しです。今回の統廃合計画によって県下で
 およそ10万名の卒業生が母校を失います。当事者として寂しい悲しい。県教委のお歴々にこ
 の痛みをわかってもらえるでしょうか。しかし、そうした卒業生の感情論を超えて「廃校」という
 地域社会に多大な影響を及ぼす施策には、市井の生活者として納税者として受け入れ難いものが
 あります。「最適な教育環境の提供」は行政責務であり、私たちはこれを享受する権利を有して
 います。しかも私たちが望むのは予算措置を伴う高校の新設ではなく、既設校の存続=教育環境
 の現状維持にすぎないのです。

如上の理由により、私たちは「廃校と統合」の方針に反対をし現行の高校拠点数維持を求めます。
県教委による「統合後の新しい学校の基本構想について」の白紙撤回を強く求めます。


「現行拠点数維持要求」が私たちの原則的立場であり、(2)で明確にしたように向こう15年間は
高校拠点数の縮減は全く不要と考えます。その後は少子化対策の成果を見極めながらとなるでし
ょうが、仮に統廃合が不可避、やむなしとなった際には、当然ながら公明公正な判断が望まれま
す。個別具体的に言いますと、今回遡上に上った海部津島地区(蟹江高校と海南高校)におけ
る統合後の学校設置場所を海南高校の校地とするとの構想には疑問を呈せざるを得ません。と言
うのも蟹江高校は以下のような優位性を備えています。
・平成16年度の受験状況では、統合後も校舎を使うとされた海南高校は定員割れ、廃校方針が中
 学校を通じて受験者に伝えられた蟹江高校は定員を充足、生徒がその利便性の良さを分ってい
 る現れです。蟹江高校は近鉄富吉駅から徒歩で10分、名古屋市などからの通学にも至便であ
 る一方、海南高校は近鉄佐古木駅から徒歩で30分を要するため、他地区からの通学は容易で
 はなく、現に地元以外からの通学者は少ない。
・通学の便がよい蟹江高校は、広いエリアから多様な可能性を持つ人材が集まり易い。
・蟹江高校は昭和46年創立で33年の伝統があり、多くの逸材を輩出している。
・県教委が目指す新しいタイプの高校設置に対して、地元が一丸となり協力な支援体制で臨もう
 としている。
海南高校が果たしている役割や有用さを低く評価する意図は微塵もありませんが、両校の置かれ
た立場を冷静客観に見れば、蟹江高校にアドバンテージがあるのは大方の認めるところではない
でしょうか。県教委が今、「構想」の具現化を強行するのであれば、合理性に乏しい海南高校で
はなく蟹江高校校地の使用を強く主張します。県教委に翻意と公明公正な判断・措置を求めます。

以上が、私たちの見解と主張です。ご理解とご賛同、そしてお力添えを頂ければ幸いです。
何卒宜しくお願い申し上げます。

                            平成16年 8月
                            蟹江高校同窓会会長 伊藤 誠

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