佳境、辛酸に入る-第9章-

corner.gif yoko.gif
yoko.gif
tate1.gif
あまり大きくないレストランで古いことには間違いなかった。
このレストランの壁には至る所、処狭しと剣や盾などが飾られている。昨夜のムードなどない、落着かない雰囲気であった。

ところが、このレストランの主人曰く、日本人がここに来たのは初めてであるという。十七世紀以来の出来事であったらしい。
東洋人も来ていないという。
この主人、気をよくしたのか、この店の取っときのワインを彼らにサービスするという。トリュフのタレのかかった子牛の肉を赤ワインで平らげた後、フォアグラをサービスして貰いワインで頂くことにした。

彼はこれ程、高級なワインとなると頓と、その差は味わうことができなかった。しかも、彼はこの主人に盛んに「トレビアン、トレビアン」と連発した。チップを弾んで、この店を出ることにした。
ガイドも生れて初めて、このような料理を食べたということで、このガイドにとってもよき日であったと彼ら三人、喜んでこの店を出たのである。

また先程の馬車道に出た。
馬車道の両側から、これも古い建物が乗り出して来るように並んでいる。また、いくつもの建物が馬車道に向って、競い合っているように見える。フランスの人たちには「イツ、ビューテフル」と見えるらしい。
古いものを大切にする気持がそう表現させたのだろうか、ガイドが彼に説明してくれた。
昼下りの馬車道は、人影もない。

見知らぬ東洋人が、この道を歩いているので窓から顔を出して此方を見ている。
彼は「ボン、ソワール」と声を掛けながら歩いた。
「何処の国の人ですか?」と問い掛けて来る。「ジャポン」だと答えると、この道を通る日本人は初めてだという。こんな話をしているものだから、先に進めない。すると、一人の主婦が年をとったおばあさんに日本人を見せたいから、寄っていってほしいという。

- 48 -