電車の左側に通路があり、通路の右側に室がある。この室には、五人づつ座われるベンチが、向い合っている。 彼らは、できるだけ空いている室を捜して、そこに席をとることにした。 そこには、すでに、一人の美しい女性が居た。まるで、フランス人形のケースの中から、たった今、抜け出したような美しく、この世のものとも思えぬ女性であった。
彼らはこのガイドとはしゃいでいたが、彼らが話している言葉が理解できないのか、眉をひそめるでもなく、シートの角である窓際に静かに腰掛けている。彼らが、この女性があまり美しいので時々、この女性の方を見るのであるが、この女性は彼らの視線をも意に介して居ないようであった。
彼はこの美しい十八、九才の女性を見ていると、このガイドといることが後めたい、下賎なものであるかの如く感じられた。このガイドに連れられて、ペリグーまで行くことが耐えられないものに思えた。他の二人には、彼は何も云わなかったが、どのように考えていたのであろうか。それ程に、この窓際の若い女性は純真な美しさを称えていた。
ペリグーに着くと、早速、フォアグラとトリュフを食べさせてくれる店を捜すことにした。 フォアグラとは、フランス料理の代表的なもので、食通たちの賞賛を得ているものである。これは鵞鳥を暗いところに入れ、油脂分の多い食事を与えていると肝臓が肥大するのである。この肝臓を取り出して、そのまま、スライスして食べるか、ペースト状にして、固まらせたものを食べるのである。いとも、残酷な食べ物と云わざるを得ない。 彼としては、この残酷な食物を食べることに若干の抵抗はあったが、世界の食通が珍味としているものを、一度経験してみたいものであった。
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