佳境、辛酸に入る-第8章-

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彼は日本ではこの胴巻は着けたことがなく、今回は、彼の母がどうしても付けて行って呉れというのである。色々とこちらに来て、貴重品の保管、腹を冷さないようにと心配しての配慮であった。彼は仕方なく付けて来たのである。
トイレは部屋の中にはなく、別の所に共同トイレとしてある。この共同トイレの隣りが共同シャワーと風呂になっている。従って、彼は真夜中ここまで出て来るのである。しかも、その手に鍵は握られていなかった。

彼は部屋を出るとドアがバターンと音を発てて閉り、更にカチャと音がした。ドアは閉りが良くできているのであろう開けると直ぐに元に戻るようにできていて、閉ってしまう。彼は昼間、このドアは内側からロックボタンを押してから、ドアを閉めるのでなく、ドアを閉めるだけで自動的に施錠されることを確認していたが、ドアを開けて外に出た途端、ドアが閉まり、カチャという音を聞いて、彼は心配になった。
ドアが開くことを確認するために、ドアのノブを廻して見た。廻らないのである。ドアは完全に施錠されているのである。
彼は、ランニングにステテコ、胴巻姿のままで部屋の外に文字通り締め出されてしまったわけである。

時刻は十二時を周っていた。同行の誰れかの部屋に潜り込むにしても、殆んど皆、寝静まり起きている気配はない。しかし、辛うじて灯が一つ点灯しているところがある。救われた気持で、そこに行って見ると同行の二人が話をしていて、一人が自分の部屋に戻るところであった。その男は、彼の姿を見るなり、笑い出してしまった。
彼は事情を説明すると、その男も鍵を紛失してしまい、二日の間、合い鍵の出来上るまで部屋に入れなかったそうである。この寄宿舎では、鍵をなくした場合は、自分で合い鍵を作らなくてはならない規則になっているのだそうである。

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