佳境、辛酸に入る-第7章-

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「おらと結婚すべェ」
直子は、カケス騒動があってから数カ月後彼に云った。
彼は結婚の意味がよく解らなかったし、それに関しては黙っていた。
「おらあと一緒にこっちゃ来い。」と云って直子の家の納屋に連れて行った。
その納屋は薄暗く、直子の五才になる弟がいた。
直子には、二人の弟がおり、この下の方の弟がそこに居たのだが、彼に向かって「お前、ズボンと猿股ぬ脱げ」「おらと結婚すべェ」、彼は云われた通り、ズボンとパンツを脱ぐと、直子はパンツを穿いたまま彼に覆い被さった。
「お前はだめだ」と直子はいったが、直子の弟はこれを見ていった。数日後、彼はこの出来事を彼の母に話した。彼の母は直子の母親に何か云ったようであった。その事があって、十日後、直子の母親が彼の母に脱脂綿がほしいといって来た、彼の家は戦争中のこともあり、医療品を揃えていたのである。
彼が不思議そうな顔をしていると、彼の母が「直子さんが必要なんだって」と彼に説明した。これは直子の十三才の初潮であった。

この桃源郷は戦争中でなくても、なかなか風呂には入れない所であった。まして、戦争中であることも加わり、一週間に一度も風呂に入れなくて手などには垢がこびりつき、時にはこれが剥れ落ることがある。その剥れ落ちた跡に白い皮が現われてくる、剥れたばかりはピンク色になっていたものである。
風呂は彼が住んでいる所から離れており、家主のもので彼の家族は、一週間に一度、この風呂をもらって入ったものであった。
今でこそ、水道が引かれ風呂の近くまで水は来ているが当時は勾配が二、三〇度もある坂道を天秤棒の両端に水の沢山入っている桶をさげ登り降りするのである。五衛門風呂を満たすためには、この坂道を二十回以上往復しなくてはならなかった。水を一杯にしてから、雑木を燃して湯を涌かすのである。
この作業は二時間以上を要している。

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