佳境、辛酸に入る-第7章-

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彼はとても嬉しかったが、次の瞬間、このひなをどのようにして育てるか不安になった。直子のやっていたように四六時中、自分の懐に入れて置くわけにも行かず、鳥篭を作っても、猫や犬に取られてしまうかも知れない。または、誰かに盗まれるかも知れない、と色々考えていたら、彼の母がこのひなを貰ったことを知り、彼にこう言ったのである。
 「あのカケスのひなは直子さんが、三里も離れた直子さんの叔父、叔母のところに何日も通ってやっとの思いで手に入れたもので、その大切なものをお前はねだって貰ったのではないの」
「そんなことないよ、ちゃんと僕にあげるよ、といってもらったんだよ。」
彼はこのひなをどうして置けばよいのか、益々困り果ててしまった。

ひなであるから、飛ぶことができないので、犬や猫が登れない木の先端に巣を作り、ここに入れて置いてやろうと思ったのである。
早速、藁で巣を作り、その上に置いてやったのである。
その時、カケスの親がこのひなを追って近くにきていたのか騒ぎ立てる小鳥の声が耳に入っていたが、彼はあまり気にならなかったし、気にも止めなかった。
丁度、彼が木に登り、ひなを巣に入れ終ったとき、米軍の艦載機が近くまで来ているので防空壕に避難しろと云うのである。
彼は木から転げ落ちるように飛び降りた。手足を擦り剥いてしまった。
ひなを巣に入れた後、どんな様子であるか観察する余裕もなく、防空壕に入った。

艦載機の爆音が轟き、機銃照射の音が止んだ時、先程のひなの様子を見に行ったが、ひなの鳴き声も消えてしまっている。
急いで木に登ったが、すでに、ひなの姿はなく、何か悪い夢を見ているような気持に彼はなっていた。
その反面、彼は余りがっかりしなかった。むしろ、世話をする手間が省け、ほっとした感じであった。

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