佳境、辛酸に入る-第4章-

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彼は、あらためて、歯車から文字盤まで設計し、試作してみた。
性能も自動車として十分に使えるようにすることができた。
二人の新入社員を使い、仕上げたということで、彼は課長になることができた。だから、ある程度は認めてくれたに違いない。
同期入社で早く課長になった者より遅れること二年であった。
彼の行った水晶時計の研究の仕事は、実際に商品化されるため、設計部門に移管されることになり、設計の担当者も決まっていた。
しかし、いつまでたっても設計の担当者は、商品化設計を始めようとしないのである。そればかりか別の関係のない仕事をその担当者にさせているのである。

またたく間に、それから二年を経過してしまっていた。
その頃になると、彼の予想したように自動車用に水晶時計が使われ始めたのである。しかも、彼が発明したステッピングモータとは構造の異なる、日本の発想では出てきそうもないものが、米国の会社が発表し、米車には装着されているという情報が入ってきた。
この情報に飛びついたのは、彼の会社の役員、部長クラスであった。
自分の会社で育った技術はそっちのけにして、米国へ出張してしまった。企業のために貢献するよりは、米国へ出てみたかったのである。
米国の会社で作った時計は素晴らしいという評価を勝手に、性能も調べずにしてしまった。
その時計を早速買って、時計として組み立てることに決めてしまったのである。情報を知ってから、それを決めるまで一ヶ月を要しなかった。

こうなると担当者も米国にも出張できるという欲も出てきて張り切り出し、みるみる間に商品として産洋自動車に納入されることになった。
ところが、車につけて三ヶ月もしない間にクレームを起こしてしまい、どうにもならない状態を繰り返すようになってしまったのである。
もともと高い値段で買った時計である上に、クレームを出してしまって、赤字に近い状態まで追い込まれてしまったのである。

彼はそれまで黙って手を拱いてそれを見ていたわけではなかった。
彼はコストの安い、シンプルな構造の水晶時計を考えて試作に移していたのだった。
幸か不幸か、その時期に社長から、彼のやっているような時計を研究してくれないかという話が出てきた。
彼のやっていることが社長の耳に入ったのだと彼は考えた。
そこで、それまで彼がやってきた内容をまとめて役員会に商品化計画を提出したのである。

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