これには専務の承認を必要とするため、彼の業務の内容と
取っておきの強請り種であるところの谷口部長の欠陥を表現するような内容を、
上手く、それとなく話をすることにした。
谷口の問題点は専務には解って来たのであるが、その採用には自分も加担している
弱みがあるので、谷口部長の欠陥を自分以外の人間には認めさせることができないでいるのであった。
しかし、周囲の人間には谷口の実態が解ってきたので、谷口に向かって苦情を言う
ようになってきた。
専務にしてみれば、谷口に辞めると言い出されては、
社長と産洋自動車の副社長に顔向けならない結果になってしまう。専務自身の
今後の昇進に影響しかねないのである。
そこで、谷口が変な気持ちを起こさないように頻繁と、アメリカ、ヨーロッパと
出張させている。
専務との話し合いの結果はうまくいった。彼の
思う壷に嵌まったのである。
論文を書くことに賛成させたのであった。しかし、彼は思わぬ失敗を
してしまったのであった。
それは、期限が三月五日であることに気付いたのであった。
彼は五月五日であると思い込み、実験確認を三月中に行えば、その後、
論文をまとめることができると高を括っていたのであった。彼は一瞬
しまったと思ったが気を取り直して三月五日の期限を見直した。
専務の帰ってくるのは三月四日で五日には出社してくる。
また、幸いなことに、問題の谷口部長は三月五日には帰ってこない。
従って論文を書き上げ、英文にして提出できる状態にしておけば、三月五日には
承認してもらい、東京の国際郵便局に速達で投稿できる。そうすれば米国には二日で届く。
早速、実行に移すことにした。
三月五日が来た。実行計画通り仕事は完成し、専務の承認を貰うだけであった。
しかし、ここに至るまでは彼の心の葛藤があったのである。
彼の母方の意志の強い祖父の幻と父方の善良な気の弱い性格を併せ持っていたためによるのか。
- 7 -
|