この論文を提出することに対する不安が!!
当初の予定では確認実験をしてから提出することになっていたのが、期限の
読み違いから未確認の状態で提出することになったためである。
しかし、一方では行き当たりばったり的な行動が寧ろ成功に繋がることが
あるのだと無理に彼は自分に言い聞かせていた面があることを自覚していた。
そのためか、彼の心には何か釈然としないものが存在していた。
三月五日の朝がきた。
あらかじめ秘書に、専務から至急承認を貰うことがあることを伝えておいた。
早速、秘書が呼びにきた。
事の次第を彼は順序良く語り始めた。しかし、結果は意外な方向に展開を始めた。
「この内容は産洋自動車ではあまり評価していないでないか。」
専務は親会社の意向を気にしているのである。
「いや、悪い評価の技術内容とは別の論文です。」
彼は粘った。
「そうか、俺には難しくて判断できない。期限が過ぎているといっても、
二、三日であれば問題にはならないよ。谷口部長が帰って来るまで待ったらどうだ。
相談して見よう。」
彼は内心、あの谷口に相談したところで何が解るかと思った。
これは、専務が論文の提出をやめさせようとしていることがよく理解できた。
そこで彼は、「それでは中断しましょうか。」と言った。
「いや、止めろ!といっているのではない。」
彼にとって、このようなことになってしまったことは
計画は駄目になったと同じことであった。
このようなことを、年下の部長などに相談しようものならば、結果は明白であった。
その結果は予測通りであった。
谷口との話し合いは、話し合いという代物ではなかった。
谷口は自分が偉いという意志から、初めから話し相手になろうという態度がなくなっていた。
世の中、人の世界は彼の思い通りにはならない。しかし、
一連の彼の行動は決して無駄でないと彼は信じていた。
幼い頃、聞いたあの思い出が彼の脳裏に浮かんできた。「私にはいつの日か目標が
達せられる日が来るのだ。来るように仕組まれているのだ。」という思いが!!
その目標とは彼にとって、明確な具体的なものが決まらない限り、夢のようなものであった。しかし、
その解らない夢ではあるが、その時々で、目的としているものが身近の
手の届くところに存在するのであった。(第2章おわり) 第3章へ
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