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(二)
彼の祖父の血がこのような気持ちを駆り立てるのであろうか。
彼の懐いている祖父とは幻に過ぎないのではないだろうか。時にはこの幻に振り回されて
いる自分が滑稽にさえ思えるのである。
また、時にはこの祖父の血が人生の切り札であると考えること
もある。
これを何時、どんな時期に使うかが、彼の人生の社会的飛躍の鍵であると彼は考えていた。
例え、この切り札を一生涯活用することができなくとも、彼はそれで満足であった。
彼は常にこの切り札を自分自身のスピリット(精神)のための栄養剤
として使っていることも自覚していた。
この切り札は単なる幻であるかもしれない、幻であってよい。
すでに人生の糧にもなっているのだからと考えることにした。
最近、マイクロコンピュータが安価に入手できるよう
になり、あらゆる種類の工業製品、家電製品を問わず使用されるようになり、彼が勤めて
いる会社の自動車部品にも例外でなく、マイクロコンピュータの応用製品が検討されていた。
彼の会社は産洋自動車の子会社で産洋精工といい、主に自動車の電装製品を作って親会社へ
納入していた。そのためと考えられるが、親会社からの人材の受け入れとか、親会社の役員の息が
かかった人間を入社させるなどで、産洋精工の社長を始めとする役員、さらに部長、
さらには課長までが産洋自動車出身者で占められていた。
彼は東京の大学を出てすぐこの産洋精工に勤め、二十年を経ていたが未だに研究課長であった。
それでも、産洋精工の生え抜きとしては破格の出世であった。
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