佳境、辛酸に入る-第16章-

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新職制表が彼のもとにも配布されてきた。彼は前のままであった。
この職制表からすると彼の上司でない専務の勢力が強くなったことを意味していた。彼が転職する計画を立てていなければ、彼の気持はどうしようもないものであったと彼は思いながらも頭痛がするのを感じていた。
こんなことで人間を判断してしまうのか、他の社員が何か彼を嘲笑っているように思えた。実際は同情して呉れているのであろうが、彼は自分の今の感情がそのようにさせているのだと思った。彼は転職するのだという意識が益々高まっていった。

日が経つにつれ今回の職制変更の様子が分ってきた。
今の社長が変ることは分っていたが、親会社から社長が来て彼の上司でない専務が退任することになっていたのである。この退任に当り自分の息のかかっている人間を昇格させておく必要があり、あのような結果が出たのだと彼には理解できたのである。
それにしても彼には納得できなかった。

親会社から来た人間は管理的な仕事以外する能力がないのである。
彼は技術屋としてこの子会社に貢献してきた。主だった技術は何らかの形で彼の手を経ている。彼がいなかったらできなかったものもあるかもしれない。
彼自身、今の境遇を考えたとき、大切にされていないような気がしてならなかった。
この子会社にある主だった技術も現在は収益を上げているであろうが、数年後には負け犬と化す技術でしかない。そのような状態になる前に、新しい技術を開発しておく必要があるのだが。

新しい技術の展開を促しても、それぞれのプライドが高いのか、会社の業積を上げることにブレーキをかけているのか、積極的に組織の中で展開しようとは考えないのである。
設計部門の人間などは、他の会社から技術を買ってきて自分の業積を上げようと考えている。

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