佳境、辛酸に入る-第16章-

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この新聞発表をして、事実無根としたのでは、この専務をほんとに社長にしようと思っても直ぐには社長にすることが会社の体面上できなくなってしまったのである。
社長は親会社の産洋自動車から大いに非難される結果となったのである。それでなくとも、この専務が社長になるため社長とともに策略をめぐらしていたのである。もしかすると、社長は彼のところの専務を社長として推薦しており、それが果せなくなりこのような手段に出たのかもしれないと彼は内心思った。

彼の身の上にも変化が起った。
彼はこれまで彼なりに実績を上げてきたと思っていたし、丁度一ヶ月前、研究の成果が得られ、専務に報告し、この実績を認めてもらった。
彼は今年の人事異動で昇格できるものと考えていた。社内に人事異動の噂が立ちだしたが、彼には一向に内示すらない。人事異動の発表の日すらも、彼のもとには知らされて来ない。彼は焦りと苛立ちを感じながら日を送るようになった。

彼は人づてに、人事異動の日は明日であることを知った。さらに異動のないものは、この発表の日には出席しないらしいことが分かった。彼のもとには当日になっても連絡はなかった。
彼は焦り苛立ちが募るばかりであった。あれだけ実績を上げたのに、このチャンスに認めて貰えないなら、今後認めて貰えることはないように思えた。
常に親会社の方を向いて仕事をしている彼の会社の経営者は、自分のことしか考えられなくなってしまったのであろうか。

それにしても昇進できるものがいるのである。
彼の同期の者も、彼の会社では、二年前に彼を越えて昇進しているのである。今年は親会社の方に入社していた彼と同期の友だちも彼を越えて昇進している。
彼には半年前に別の会社から役員として来ないかという誘いがあった。このような立場になると、その会社へ行こうという決心が固まり出しているのを彼は感じ出していた。

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