ところが、彼に何の了解もとらないで、試作個数が多いことを理由にして、彼の部下に直接、数を減らすように指示を出したのである。さらに、彼のやっている仕事は取り止めになるかもしれないなどと無責任に云ったものである。
彼の部下たちは、不審に思って彼のもとにやってきた。田北から云われている話と、彼の指示している話が異っており混乱しているのだというのである。
これはまさしく越権行為であった。
彼はあまり怒ることはなかったが、今後この様なことのないように田北に話をすると彼は自分の部下に約束した。
彼は穏やかな口調で田北と対決した。
「田北さんに話したいことがあるんですが、今、時間とれますか。」
「いいですよ。」と云って、田北は顔を上げた。
「この前の開発品のことですが、何か私の部下に止めるようになったと云っているようですが。」
「私の部下は、私の指示と異るということで混乱しています。何か、問題があると解ったら、私に云ってもらえないでしょうか。」
すると田北は、
「混乱するようなことは云っていないつもりだ。」
彼は、「現に私の部下が混乱しているのですから、今後は私と話し合うようにしましょうよ。それが、我々職制の務めだと思いますよ。」
田北の口調が変った。
「お前がいつも嘘をつくから直接お前の部下に話すんだ。」
彼は、
「嘘をつく、つかないは別で、今私の云っているのは、私の部下を混乱させたくないので、お互に話し合っておきたいのです。」
田北とは話し合にはならなくなった。
「嘘をつくのでは話し合ってもしかたない。」
田北の云い分である。
彼は、「私は嘘をついた覚えはないが、あなたが嘘をついていると思うなら専務にでも誰れにでもあいつは嘘つきだとか、だらしないとか云ってみたらどうです。私は一向にかまわないですよ。」