この波下、資材関係の者と何度かやり取りした揚句、資材の者が五十万円程度ではどうかと云ってきた。 波下は自分のやった仕事のコストなど考えてもみなかったのである。このような話になると波下は二つ返事で、よいとしてしまったのである。
しかし、二・三日すると、波下は彼に一部始終を話して、 「会社は、個人に支払っている給与の何倍も経費として使っているのですね。」 と彼に聞いてきた。 六十才を過ぎて、三十年以上も会社で働いて生計を立てている人間がこのようなことを聞いてくるとは、よほど幸せた生活をしていたか、物事に無頓着であったのか、理解に苦しむところであったが、彼は素直に答えてやった。 「本人に支払っている金額の約二倍ですよ。」 「そうですか。」というと波下は自分の席に戻って行った。
しばらくして、彼のもとに波下がやってきて、 「五十万円とは安いですよね。家に帰って三ヶ月間というもの毎日、夜の十二時まで、土曜、日曜は朝から夕まで、仕事をしたのですから、三百時間以上にはなりますから、私の時給が、二千円としても、百万円にはなります、さらに、会社のかかっている経費を入れると、二百万円以上もらわないと合わないですね。」 と彼のところに云ってきた。
彼は波下の気持ちを煽るように、 「そうですよ、会社だったら管理費と利益まで入れるのですから、二百万円でなくて三百万円ぐらい貰ってもいいと思いますよ。」
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